北海道経済部産業振興局産業振興課 産業振興課長 三橋剛氏

2016年03月10日

※調査結果をとりまとめた研究レポート「UIターン人材活躍のセオリー」

民間で培った「顧客第一」を強みに、道庁の仕事の進め方を学び、なくてはならない存在に

広島の民間企業で約10年間の勤務の後、北海道へIターンし、北海道経済部産業振興局産業振興課で活躍する三橋氏と上司の松浦氏にIターンの経緯とその活躍のポイントについて伺った。

【本人インタビュー】

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北海道経済部産業振興局産業振興課 産業振興課長
三橋 剛氏

<プロフィール>
大阪府出身。北海道の大学を卒業後、マツダ株式会社に入社。約10年勤務した後、1998年に北海道庁に採用される。

根源的に「ここに戻りたい。いつか住みたい」という思い

―現職に勤めることになった経緯を教えてください。

私は大阪出身で、大学時代を北海道で過ごしました。「具体的に北海道にやりたいことがあった」というわけではなくて、いつか北海道に住んでみたい、自然が豊かで広い所に住んでみたいという憧れと、いつまでも親に守られていてはよくない、家を出たほうがいい、と考えたのが理由です。
新卒では、自動車メーカーに就職したいという思いから、マツダに入社して広島県に移り住みました。ただ、その後も、根源的に「ここに戻りたい。いつか住みたい」という思いでした。そういう思いがあるなかで、たまたま新聞で、道庁の求人広告を見つけました。北海道の役に立てる仕事ならと思っていたので、受けることにしました。

―実際にIターン決断されたのは、何が要因でしたか。

2つありまして、1つは、就職後も「北海道に住みたい」という思いがずっとあったことです。1週間くらいの休みがあると、毎年のように北海道に遊びに来ていました。

2つ目は、転職の際に、辞める前に内定をいただいたことだと思います。というのも、最初は受かるとまったく予想していなかったので、まずは雰囲気をつかもう、試験を受けている何百人もの人たちの姿を見れば、刺激を受けるだろう、と考えて受けました。なので、受かってから「どうしよう」と悩みました。今年はたまたま受かったけれども、次の年に受けて受かる保証はない、と考えて決断しました。ご縁をいただいたことで、最終的な決断ができたと思います。

―転職された当初のことを教えていただけますか。

最初は、たとえばチョコレートとか、水産品とか、そういう道産品の販路を拡大する、地域産業課マーケティング係に配属になりました。
転職するまでは「これをやりたい」と言って自由にやらせてもらってきましたが、転職するときには、給料をもらう以上は貢献する、いつまでも雇ってもらえるとは限らないという覚悟を持ちました。「自動車の企画をしてきました」と言っても、「別にうちは自動車の企画はない」と言われます。ですから、道庁の仕事に置き換えたときに、自分は何ができて、どこで役に立てるのかということを一生懸命考えた記憶があります。

まず、過去のやり方を徹底的に勉強した。
最初から「民間では」と言ったら絶対受け入れられない

―新しい職場に適応できた要因は何だと思いますか。

転職した職場がたまたま理解のある人が多かったからだと思います。当時の同僚や上司の係長も、民間企業の経験者の受け入れが始まったばっかりで、何を言うかわからないエイリアンみたいなやつが来たと思っていたと思います。でも、いろいろ気を遣って、スムーズになじむように受け入れてもらって、そこは感謝の気持ちでいっぱいです。そこで全然合わなかったら、もしかしたら辞めていたかもしれません。最初はすごく緊張していたので、「ラッキーだったな。ありがたかったな」と思います。

―転職された当初に悩まれたことがあったら教えてください。

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道庁と民間の仕事の進め方の違いはとても意識しました。「民間では」とか「民間、民間」とあまり言うと、絶対に受け入れてもらえないと思いました。だから、民間のいいところを活かしつつ、道庁のいいところを勉強して、そのバランスをどう自分のなかで取っていくかを考えました。

ですから、どんなことでも、自分が担当している仕事の過去のやり方を徹底的に勉強したうえで、そこから提案していかないと、事情も知らずに、「このやり方は効率が悪いです」とか、「民間企業ではこれは非常識です」と最初から言ったら、受け入れられなかったでしょう。一方で、転職してきたときに、「新卒採用と変わらないね」と言われると、経験者枠をつくってもらった意味がなくなるので、自分の中でそのバランスは意識しました。悩んだわけではないですが、意識しなければいけないと思いました。

―転職直後はどのような仕事を経験するのがよいと考えますか。

最初に、これまでの仕事で身についた自分の強みを伸ばすことがいいのか、これまでの仕事では経験のない部分である自分の弱みをボトムアップしていくのがいいのか、意見が分かれるところですよね。たとえば、道庁らしい仕事、厳格なルールがある補助金を審査して支払う内部管理の仕事とか、まったく経験したことのない、自分にとっての弱みの部分と、転職前にやっていたスキル、強みを活かす仕事があると思います。

私の場合は、自動車と食品の違いはありましたが、マーケティングという軸でスキルアップする機会をもらい、強みを先に伸ばしてもらったと思っています。
私は、そのあと釧路に異動して、内部管理の仕事をさせてもらったのですが、その仕事もやってよかったと実感しています。そうしないと、バランスの取れたスキルが身につきません。
私は、最初は、それまでの経験に近い仕事で、役に立っていると感じられましたが、この分野ばかりでは駄目だというのも見えてきて、経験のない仕事も勉強しなければという気持ちになれたので、この順番でよかったと思います。

―現在、仕事をするうえでいちばん意識していることは何ですか。

お客様のところに行くことです。前職で、市場調査のグループインタビューなどを経験させていただいたことが、今、役に立っています。

前職では、お客様にニーズ調査で訪問したいとお願いしても、断られることもありましたが、公務員の立場になると、事業のニーズ調査で「聞きに行きたい」と依頼して断られることはほとんどありません。それはすごくありがたいことです。現場との接点をつくりやすいというのが、われわれの仕事の大きな特徴だと思うので、そこを活かしていくことが大事だと思っています。お客様が言っていることは説得力があるから、現場に出る機会をつくることは何よりも大事なんだと、ここ10年ぐらいずっと意識しています。

Iターンをした満足度はいかがですか。

私自身はよかったですね。後悔はまったくしてないです。
仕事の面では、新しい仕事を道庁でいろいろやらせていただいたということと、北海道に来て結婚もして、家庭の基盤も築くことができました。

プライベートでやりたいと思うことは、北海道旅行をしたいですね。大阪の人が大阪を観光しないように、北海道の人も、道内観光はあまりしなくて、家族も道外に出たがります。私は「道東にキャンプに行きたい」と思うのですが、子どもは東京に行きたいみたいで。でも、外に目を向けることはいいことなので、自分がそうしたように、子どもたちもそういうふうになっていくのかなと思っています。

Iターンして活躍するには、本人の要因だけではない。受け入れ組織のサポートも不可欠だ。三橋氏の上司の松浦氏に活躍のポイントを伺った。

【上司インタビュー】

北海道経済部産業振興局長
松浦 豊氏

UIターン人材は、北海道の価値を外の目で発想できるのが強み

―彼が活躍している要因は何だと思いますか。

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1つは人柄だと思います。彼は、すごく人当たりがいい。対上司との関係でも、距離感の取り方がうまくて、だけど、きちんと自分の考えは伝えてきます。それがいやらしくなくて、「彼の主張に耳を傾けなければいけないよな」と思わせるタイプです。

2つ目は、カスタマーファーストのところです。彼の仕事を引き継いだ人たちは、企業の方から「三橋さんにはこんなことをしてもらった、あんなことまでしてもらった」といろんなことを聞かされています。三橋さんは素晴らしい対応をしていたということを、引き継いだ人たちは痛感していると思います。顧客満足を第一にものごとを考える人だというのは、非常に強く感じます。

―UターンIターンの人材が活躍する要因は何だと思われますか。

北海道にずっといると、北海道のブランド力にあぐらをかいてしまい、みんな「北海道はいいところだ」と言いがちです。私もUターンしているのですが、本州に住んでいた8年弱の間は、そういう見方を日本中の人がしているわけではなく、「北海道は憧れの地ではあるけれど、住んだり働いたりするところではない」と思っている人が多いことを知りました。

ですから、UターンやIターンの人たちは、外の目に対してどうやって北海道の価値を上げたらいいか、という起点で発想を展開できるのが強みだと思います。

―今後期待することを教えてください。

彼は今、課長ですが、今後ステップアップしていけば、自分自身が実務をやる立場ではなくなります。ですから、次のステップに向かって、今、自分が持っているノウハウをきちんと組織、部下に伝承していってほしいと思っています。多分、彼が自分でやるとできてしまうでしょうが、今後のことを見据えると、部下とか組織をマネジメントするほうへシフトしていってほしいということです。将来的には経済部の幹部、道庁の中心人物になっていってくれる人間だと思います。

【北海道経済部産業振興局産業振興課 三橋剛氏 の活躍のポイント】

今回のインタビュー結果を研究レポート「UIターン人材活躍のセオリー」でまとめた3つのターニングポイントに当てはめると以下のポイントで整理される。

Iターンから活躍するまでの3つのターニングポイント※1

 

※1:3つのターニングポイント
UIターンから活躍するまでを入社までの「移住前」、入社後約半年までの「適応期」、入社後1~2年までの「活躍期」の3つの期間に分類して整理した考え方

3つのターニングポイントと学習3階層モデルの詳細については、下記の「UIターン人材活躍のセオリー」のレポートを参照
https://www.works-i.com/research/report/item/160407_uiturn.pdf