今から触っても遅くない ~生成AIの「今」の活用状況とその特徴の調査を通じて~

2024年02月27日

2023年はChatGPTのような生成AIが話題になることが多い1年だった。2024年も生成AIの技術が進化し、毎週のように生成AIを活用した様々な商品・サービスが発表されている。仕事のやり方を変え、未来の職業にも影響を与えるといわれる生成AIは、一体どのような人が活用しているのだろうか。そして、生成AIを活用する人はこのテクノロジーがどのような未来を描くと考えているのだろうか。リクルートワークス研究所が実施した「ワークス1万人調査」(※1)の結果を用いて紹介する。

<本コラムの構成>
1. 就業者は生成AIを活用しているのか
2. 生成AIを活用しているのはどのような人なのか
3. 生成AIを活用している人は生成AIの未来をどのように見ているのか

1.就業者は生成AIを活用しているのか

図表1のように生成AIの活用状況について、「生成AIを仕事や業務で使っている」「生成AIをスキルの習得や学習に使っている」「生成AIを使って、プログラムを作成している(プログラムの難度は問わない)」「何らかの生成AIに有料課金している」「生成AIのAPIを利用している」のいずれかに「はい」と回答した人を、生成AIを活用している人(以下、「生成AI活用群」)とした。上記のように「生成AI活用群」と定義したときに、現在働いている人(「就業者」)のうち、生成AI活用群は8%にとどまった(図表2)。

図表1 「生成AI活用群」の定義

図表1 「生成AI活用群」の定義

年齢層で見ると、若いほど生成AI活用群の割合が高い傾向が見られるものの、20代でも12%と、全体から見れば少数派である。20代などの若い世代は生成AIを使いこなしているのではないかと想像する人がいるかもしれないが、実態は異なるようである。全ての年代で、生成AIはまだ身近な技術とはなっていないようだ。

このように年齢別には大きな差が見られない一方で、性別には看過できない差があることも指摘したい。同じく図表2で示すように、全ての年齢層において、男性のほうが女性に比べて約2倍生成AI活用群が多いのである。就く職種の違いなどの背景があるかもしれないが、賃金のジェンダーギャップ是正や女性の活躍推進が企業におけるテーマとなっている昨今、こうした新しい技術への適応によって、ジェンダーギャップがさらに開いてしまうことも懸念される。

図表2 現在仕事をしている人のうち「生成AI活用群」の割合
図表2 現在仕事をしている人のうち「生成AI活用群」の割合次に、会社での利用が認められているか否かによる違いも見た(※2)。仕事や業務で、生成AIを使うことは会社のルールや商慣習で認められている「会社利用OK群」は、7%にとどまった。また、「会社利用OK群」のうち、実際に使っている「生成AI活用群」は53%と約半数であった。逆に言えば、使おうと思えば業務での利用が可能であっても生成AIを使わない人が約半数を占めるということである。

先の説明のとおり、「生成AI活用群」の定義は、エンジニアのような生成AIを日常から利用する人々でなくてもあてはまるようなものである。生成AIについては、「以前、生成AIボットに質問したが誤った答えが返ってきたので使うのをやめた」「生成AIになんだか苦手意識がある」という人ももちろんいるだろう。冒頭で述べたように生成AIに関わる技術革新や商品・サービスが急速に広がっている現状ではあるが、人が新しいものを試し、取り入れていくスピードはゆっくりであることがわかる。

2.生成AIを活用しているのはどのような人なのか

では、どのような人が生成AIを使っているのだろうか。生成AI活用群と非活用群のスコアの違いで顕著だったのは、「新しいスキルを習得するのが好き」かどうかであった(活用群のほうがスコアが高い)。

次に、生成AI活用群かどうかに、仕事やキャリア、所属する組織についての認識がどう関わるのかを分析したところ(※3)、以下の特徴がある場合に、生成AIを活用する割合が高まることがわかった(図表3)。

図表3 生成AI活用群かどうかに関わる、労働者の仕事やキャリア、組織への認識

図表3 生成AI活用群かどうかに関わる、労働者の仕事やキャリア、組織への認識各因子を構成する項目を見ると、生成AI活用群は、キャリアへの満足感や見通しがあること、組織に対するコミットメント(ここでは、組織が好きという感覚や組織に貢献したいという気持ちを指す)があること、一方で、スキルが陳腐化するのではないか、自分は貢献しつづけられるのだろうかという不安を抱いていることがわかる。ここから、今の仕事やキャリアに希望や自信を持ちつつ、健全な危機感を持って、新しいスキル習得に取り組んでいる様子が思い浮かぶ。

3.生成AIを活用している人は生成AIの未来をどのように見ているのか

また、生成AI活用群は、生成AIの未来をどのように見ているのだろうか。図表4は、生成AI活用群と非活用群で、生成AIがもたらす未来について尋ねた設問の平均点を比較したものである。

これによると、生成AI活用群は、「私の仕事の助けになる」「私の将来の可能性を広げてくれる」といった、自身の未来について生成AIがポジティブな影響を与えると認識する傾向にある。加えて、社会全体で見たときも、「生産性高く働ける人が増える」「面倒なことや雑用にかける時間が減る」とポジティブな展望を持つ人が多い。

一方、非活用群は、活用群ほどではないが、社会全体でみたときの展望についてはポジティブに捉えている部分はあるものの、自身への影響については、ポジティブ、ネガティブともにあまり影響を感じていない様子がうかがえる。非活用者は、生成AIを自分とは遠い存在、関係ない存在と捉えているのかもしれない。

図表4 生成AI活用状況別 生成AIの未来(※4)

図表4 生成AI活用状況別 生成AIの未来(※4)
今回の調査で、生成AIはまだ一部の人が活用するにとどまっていることがわかった。さらに、使っている人は、新しいスキルへの関心の高い人であり、仕事満足感や組織コミットメントの高い、いわゆる企業での活躍人材に近いという人物像も浮かび上がってきた。さらに、こうした生成AI活用群は自分の仕事における生成AIの未来をポジティブに捉えていることもわかった。

生成AIが私たち個人、そして社会にどのような影響を及ぼすのかについては、専門家の間でもポジティブな意見からネガティブな意見まで様々に分かれており、どれくらい急速に進むかも見解が分かれる。しかし、1つ言えるのは、生成AIがエンジニアなど一部の人以外にも広まってからまだ1年くらいしか経っていないということである。今から使い始めても遅くはない。生成AIを活用することで、生成AIを活用している人に見えている個人へのメリット、社会へのポジティブな影響が見えてくるかもしれない。これまでの属性や仕事などにかかわらず、自身の未来を切り拓く武器にもなるかもしれない。まずは1時間、生成AIを触ってみるといったことから始めてみるのはいかがであろうか。

執筆:武藤久美子

 

(※1)「ワークス1万人調査」調査概要 調査目的:キャリア選択に伴う意思決定、仕事観の多様性について、就業経験のある個人(有効回答数10000人)を対象にその実態把握を目的とした調査。調査時期は2023年10月。調査対象者のサンプリングにあたり現在の就業状況4セル(正規社員、非正規社員、その他の就業者、非就業者)×20~69歳男女・性年代10セルで割付を行った。

(※2)「会社利用OK群」とは、「仕事や業務で、生成AIを使うことは会社のルールや商慣習で認められている」という設問に対して、「はい」と回答した人のことである。選択肢は、はい/いいえ/以前は「はい」だが今は「いいえ」/今は「いいえ」だが将来的には「はい」の予定の4つから成る。

(※3)生成AI活用の有無を目的変数、就業者の仕事やキャリア、組織への意識、生活満足に関わる36項目の設問を因子分析して得られた「キャリア見通し感因子」「キャリア自己決定感因子」「(今の仕事での)持ち味発揮、影響力発揮不安因子」「仕事・キャリア満足感因子」「組織コミットメント」「生活全般満足感」の6つの因子を説明変数とするロジスティック回帰分析(バリマックス回転)の結果に基づく。
分析の結果、「生活全般満足感」については生成AI活用との有意な関係が確認できなかったため図表3からは削除している。なお、回帰係数は、キャリア見通し感因子 0.48、キャリア自己決定感因子 0.43、(今の仕事での)持ち味発揮、影響力発揮不安因子 0.30、仕事・キャリア満足感因子 0.23、組織コミットメント 0.20(p<.001)。なお、生活全般満足感の係数は-0.01であった。

(※4)図表4に掲載の設問は、全て生成AI活用群と非活用群の平均点に有意差があるものである。

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