35歳過ぎての転職が年収を下げるように見える要因 萩原牧子

2016年03月30日

「転職にはタイムリミットがある」「35歳を過ぎると難しくなる」――もはや、職業人生で過半数のひとが転職を経験し、転職は誰か特別なひとのものではなくなった (※1)。ビジネスパーソンなら、転職という選択肢について多少なりとも考えたことがあるかもしれないし、いわゆる「35歳の転職の壁」の存在について耳にしたひとも多いかもしれない。

「35歳転職の壁」は存在するのか

図表1をみてほしい(※2) 。これは、かつて私が見かけた、転職効果の集計を再現したものだ。転職時の年齢別に、転職前後の平均年収と変化が集計されている。年齢が若い時は、転職前よりも後のほうが平均年収が高いが、年齢が上がると転職前後の差は小さくなり、ちょうど35歳を過ぎたところで、転職後が前よりも減少に転じる。「35歳の転職の壁」が存在することが、転職者のデータからも読み取れるようにも思える。しかし、転職にまつわる集計をあれこれしていたら、そうとは限らないということがわかった。それには2つの要因を調整する必要がある。

図表1 転職時年齢別の、転職前後の平均年収とその変化(万円)
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まず、1つめ。なぜ、転職するのか、転職の効果はそれによって異なるはずだ。賃金や労働条件など、「不満を解消」するために自ら積極的に転職する場合と比べて、解雇、退職勧奨、契約期間満了といった「会社都合」による転職は、転職先を探す期間が十分に持てないなどの理由もあり、転職後の年収が低くなる傾向がある。転職時の年齢によって、転職理由を集計すると(図表2)、年齢が高くなるほど、「会社都合」転職の割合が高くなり、「不満解消型」転職の割合が低くなっている。つまり、先ほど見た、年齢が高くなるほど転職後年収が低くなる効果は、退職理由による違いに影響を受けている可能性がある。

図表2 転職時年齢別の退職理由
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そして、2つめの要因。転職の効果は人によって異なるはずだ。それを無視して平均で見てしまうと、その違いが見えなくなってしまう。これら2つの要因を調整したのが図表3の左側である。転職理由を、自ら積極的に転職する「不満解消型」転職に限定し、かつ、転職前後の年収変化を平均ではなく、「10%以上増」「10%以上減」とその間(±10%未満)の3つの割合で比較している。

消える「35歳転職の壁」

まず、各転職年齢で、転職の効果が分散していることが興味深い。また、転職年齢が若いほうが「10%以上増」の割合が多いことは確かだが、35歳を超えても、また、40代でも、約3割は「10%以上増」、約3割は変わらず、約3割が「10%以上減」である。さらに、「不満解消型」転職のなかでも「賃金不満」転職に理由を限定してみると(図表3の右側)10%以上増やしているひとが多くを占めることがわかる。2つの要因を調整すると、「35歳の転職の壁」は見当たらなくなるのだ。

図表3 「不満解消型」転職と「賃金不満」転職の年収変化
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だからといって、転職年齢が高くても、年収を上げるための転職が容易だということを意味しているわけでは(残念ながら)ない。たとえば、厚生労働省の労働力調査(2015)の仕事に就けない理由を見ると、年齢が高まるほど「求人の年齢と自分の年齢が合わない」という回答割合が多くなっている。年齢が高いから転職しても年収が下がるのは致し方ないと諦める必要はないが、転職先の選択肢の数は限定されるということだ。転職は計画的に行って、悔いのないものにしてほしい。

(※1)リクルートワークス研究所「ワーキングパーソン調査2014」によると、首都圏で働くひとの約6割が転職を経験している。
(※2)リクルートワークス研究所「ワーキングパーソン調査2014」を活用。分析では男性で転職1回経験、かつ、転職後1年以上経過しているものを対象とした(n=1928)

萩原牧子

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