第5回 何が「助け合い・支え合い」の輪の広がりに貢献するか:組織要因編(後編)

2023年04月21日

助け合い・支え合いの輪の広がりに貢献する会社要因とは

前回は、本業および本業以外の助け合い・支え合いを促す組織要因のうち職場要因について見てきた。今回は会社要因として想定した「人間関係形成の仕組み」と「柔軟な働き方」の2つに焦点を当てる(図表1)。

図表1:助け合い・支え合いを促す要因として着目したもの

図表1 助け合い・支え合いを促す要因として着目したものここで、本コラムで着目する2つの会社要因について説明しておきたい。1つ目の「人間関係形成の仕組み」については、RMS(2019)において実施された「職場におけるソーシャル・サポート実態調査」にて尋ねている項目を使用した(図表2)。なお、測定にあたっては、社内の人間関係構築や必要なサポートの獲得に役立っているものを複数選択できる形で聞いた。

図表2:人間関係形成の仕組みに関する質問の選択肢

図表2 人間関係形成の仕組みに関する質問の選択肢

2つ目の「柔軟な働き方」については、リクルートワークス研究所(2021)において実施された「働く人の共助・公助に関する意識調査」にて尋ねている項目を使用した(図表3)。なお、測定にあたっては、自身の働き方について該当するものを複数選択できる形で聞いた。

図表3:柔軟な働き方に関する質問の選択肢

図表3柔軟な働き方に関する質問の選択肢

「人間関係形成の仕組み」と本業での助け合い・支え合いとの関係

まず、人間関係形成の仕組みと本業での助け合い・支え合い活動との関係について見たものが図表4である。本業での助け合い・支え合いについては、ソーシャル・サポートの提供側面(以下「提供ソーシャル・サポート」)に着目している。その得点が3未満を低群、3以上5未満を中群、5以上を高群としたうえで分析している(7点満点)(*1)。

図表4:人間関係形成の仕組みと本業での助け合い・支え合い活動との関係

図表4.png

全体的に見て、提供ソーシャル・サポートの得点の高さと、役に立っている人間関係形成の仕組みには関係があることが分かる(いずれの仕組みについても、提供ソーシャル・サポートの得点が高い者の方が、役に立っていると回答している傾向がある)(*2)。特に役に立っていると(提供ソーシャル・サポートの高群に)評価されている仕組みは、「❶上司との定期的な面談」を筆頭に、「❷運動会や社員旅行など会社主宰の懇親イベント」「❸社員食堂・カフェなどの社員が集まる場所」が続く。前回のコラムでも言及しているが、助け合い・支え合いの輪を広げるには、マネジャー(上司)の果たす役割が大きいことが分かる。また、組織内での助け合い・支え合いを促進するための土壌づくりとして、社員同士がリアルで仕事と離れてカジュアルに繋がることのできる場が重要であることがうかがえる。

「人間関係形成の仕組み」と本業以外での助け合い・支え合いとの関係

次に、人間関係形成の仕組みと本業以外での助け合い・支え合い活動(ボランティア活動・地域コミュニティ活動への参加有無)との関係を見たものが図表5である。

図表5:人間関係形成の仕組みと本業以外での助け合い・支え合い活動との関係

図表5人間関係形成の仕組みと本業以外での助け合い・支え合い活動との関係

こちらも一貫して、本業以外での助け合い・支え合い活動に参加していることと、役に立っている人間関係形成の仕組みには関係があることが分かる(いずれの仕組みについても、本業以外での助け合い・支え合い活動に参加している者の方が、役に立っていると回答している傾向がある)(*3)。特に役に立っていると(本業以外での助け合い・支え合い活動に参加している者に)評価されている仕組みは、「❶上司との定期的な面談」を筆頭に、「❷集合研修・ワークショップ」「❸社員同士での飲食の金銭的補助」が続く。前回のコラムで見た要素とも共通しているが、上司が助け合い・支え合いを促す要素として重要であることが確認できる(なお、「❶上司との定期的な面談」が効果的な理由は、後段で言及する「柔軟な働き方」の実現に繋がっているためと考えられる)。

「柔軟な働き方」と本業での助け合い・支え合いとの関係

また、柔軟な働き方(の度合い)と本業での助け合い・支え合い活動との関係について見たものが図表6である。前段の人間関係形成の仕組みと同じ分析の枠組みを採用している。

図表6:柔軟な働き方と本業での助け合い・支え合い活動との関係

図表6柔軟な働き方と本業での助け合い・支え合い活動との関係

全体的に見て、提供ソーシャル・サポートの得点の高さと、柔軟な働き方の実現度には関係があることが分かる(*4)。特に(提供ソーシャル・サポートの高群は)「❶おおむね希望どおり休暇を取ることができた」「❷作業のスケジュールを自分で決めることができた」と回答している割合が高く、「❸その日の都合に応じて、始業、終業の時間を自分で決めることができた」が続く。社員が自律的に働くことができる環境づくりが、助け合い・支え合いの輪をつくるために重要であることがうかがえる(*5) 。

「柔軟な働き方」と本業以外での助け合い・支え合いとの関係

さらに、柔軟な働き方(の度合い)と本業以外での助け合い・支え合い活動との関係について見たものが図表7である。前段の人間関係形成の仕組みと同じ分析の枠組みを採用している。

図表7:柔軟な働き方と本業以外での助け合い・支え合い活動との関係

図表7柔軟な働き方と本業以外での助け合い・支え合い活動との関係

本業以外での助け合い・支え合い活動に参加していることと、柔軟な働き方(の度合い)には関係があることが分かる(*6) 。「❶おおむね希望どおり休暇を取ることができた」を筆頭に、「❷作業のスケジュールを自分で決めることができた」「❸始業、終業の時間の繰り上げ・繰り下げができた」が続く。このうち、本業以外での助け合い・支え合い活動の参加有無で明確な差が生じているのは、「❶おおむね希望どおり休暇を取ることができた」「❸始業、終業の時間の繰り上げ・繰り下げができた」の2つである。こうした活動へ参加するためには、物理的な時間を確保できる働き方の柔軟性が必要であることがうかがえる。

上司との定期的な面談が仕事の進め方に与える影響

最後に、本業/本業以外での助け合い・支え合いにおいて有効な人間関係形成の仕組みである「上司との定期的な面談」と、同様の観点で抽出された「柔軟な働き方」の施策である「作業のスケジュールを自分で決めることができた」「おおむね希望どおり休暇を取ることができた」との関係を見たものが、図表8、9である。上司との定期的な面談がありと答えている者ほど、「作業のスケジュールを自分で決めることができた」または「おおむね希望どおり休暇を取ることができた」と回答していることが分かる(*7)。この結果から、上司と面談の機会を持ち、しっかりと話し合いができている場合には、柔軟な働き方を実現できている可能性が示唆されている。

図表8:上司との定期的な面談と作業スケジュールの自主性の関係

図表8上司との定期的な面談と作業スケジュールの自主性の関係

図表9:上司との定期的な面談と休暇取得の関係

図表9上司との定期的な面談と休暇取得の関係

前回から2回にわたって、本業および本業以外の助け合い・支え合いを促す組織要因について見てきたが、改めてマネジャーの果たす役割の重要性が浮き彫りとなった。マネジャーが起点となり、助け合い・支え合いの輪が広がる可能性が示唆されているわけだが、そもそも、そうしたマネジャー自身に対して十分な助け合い・支え合いの手を差し伸べられていないことが指摘されている(*8)。孤独なマネジャーと比較して、サポートを得られているマネジャーの職場は業績が良いことも分かっており(中原,2021)、組織的な観点で見れば、マネジャーに対する支援を積極的に考えていくことが重要な一手となるかもしれない。

執筆:筒井健太郎(研究員)

 

(*1)実際の設問は全6問で構成されているため、それらの得点を合計し項目数で除したうえで、3未満を低群、3以上5未満を中群、5以上を高群としている。

(*2)カイ二乗検定を通じて、「会社総会など、社員全体で集まる機会」「カウンセラー、コーチなど専門家への相談制度」は5%水準で、その他は1%水準で有意な差であることを確認した。

(*3)t検定を通じて、「会社総会など、社員全体で集まる機会」は10%水準で、「社内報」「固定席でないオフィス(フリーアドレス)」は5%水準で、その他は1%水準で有意な差であることを確認した。

(*4)カイ2乗検定を通じて、「作業のスケジュールを自分で決めることができた」は10%水準で、「おおむね希望どおり休暇を取ることができた」「その日の都合に応じて、始業、終業の時間を自分で決めることができた」は5%水準で、「始業、終業の時間の繰り上げ・繰り下げができた」「在宅勤務やリモートワークをすることができた」は1%水準で有意な差であることを確認した。なお、「就業時間の途中で職場を離れること(中抜け)ができた」が有意な水準で差があることは確認できなかった。

(*5)なお、堀田(2016)でも仕事のコントロールが対人的援助に正の影響を与えることが指摘されている。

(*6)t検定を通じて、「作業のスケジュールを自分で決めることができた」は10%水準で、「その日の都合に応じて、始業、終業の時間を自分で決めることができた」は5%水準で、「おおむね希望どおり休暇を取ることができた」「始業、終業の時間の繰り上げ・繰り下げができた」「在宅勤務やリモートワークをすることができた」は1%水準で有意な差であることを確認した。なお、「就業時間の途中で職場を離れること(中抜け)ができた」が有意な水準で差があることは確認できなかった。

(*7)表中の数字の色は統計的に優位な差があったか否かを表しており、青字は1%水準で優位であることを示している(黒字は1%水準で有意ではない。なお、本図表ではすべて青字となっている)。また、セルの色は関係性の強さを表しており、黄色地は一定の関係性があること(カイ二乗検定を行ったうえで、クラメールの連関係数を算出して判断している)を示している(なお、本図表ではすべて黄色地となっている)。

(*8)例えば、RMS(2010)では、人事として管理職の負担が高いことは認識していてもその対策が打たれていないことが指摘されている。

【参考文献】

堀田裕司(2016)「職場における組織市民行動と関連する要因の検討」『広島大学大学院教育学研究科紀要』第三部,第65号,87-91
中原淳(2021)『増補版 駆け出しマネジャーの成長論』中公新書ラクレ
リクルートマネジメントソリューションズ(2019)「職場におけるソーシャル・サポート実態調査」
リクルートマネジメントソリューションズ(2020)「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2020年」
リクルートワークス研究所(2021)「【データ集】働く人の共助・公助に関する意識調査」

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