第4回 何が「助け合い・支え合い」の輪の広がりに貢献するか:組織要因編(前編)
助け合い・支え合いの輪の広がりに貢献する職場要因とは
第2、3回のコラムでは、本業および本業以外の助け合い・支え合いを促す個人要因について見てきた。今回からは2回にわたり、組織要因について見ていきたい。本調査で測定した組織要因は、職場要因として「職場における互恵性規範」「上司の姿勢」の2つ、会社要因として「人間関係形成の仕組み」「柔軟な働き方」の2つの計4つである。本コラムでは職場要因の2つに焦点を当てる(図表1)。
図表1:助け合い・支え合いを促す要因として着目したもの
職場要因として着目した2つの要因について
ここで、本コラムで着目する2つの職場要因について説明しておきたい。1つ目の「職場における互恵性規範」であるが、これは「職場において人々は互恵的(お互いが他者の行為に対して何らかの形で報いている状態)であるべきという(社会)規範」を指す。その測定にあたっては、橋本(2015)により作成された尺度を使用している。
本尺度は、返報を必要または不要とする互恵性規範が自身の職場にあるかを尋ねるものとなっている。前者については、「たとえ負担がかかっても、助けてもらったらお返しすべきである」「誰かに何かをしてもらったら、お返しをするのは当然である」、後者については、「職場での助け合いでは、細かい貸し借りは気にしなくてもよい」「誰かに何かをしてもらっても、そのことで引け目を感じる必要はない」といった設問から構成されている。なお、測定にあたっては、「全くない」から「かなりある」の5件法とした。
2つ目の「上司の姿勢」については、リクルートワークス研究所(2021)において実施された「働く人の共助・公助に関する意識調査」にて尋ねている項目を使用した(図表2)。なお、測定にあたっては、自身の上司の姿勢について、これらの項目のうち該当するものを複数選択できる形で聞いた。
図表2:上司の姿勢に関する質問の選択肢
「職場における互恵性規範」と本業以外での助け合い・支え合いとの関係
まず、職場における互恵性規範と本業以外での助け合い・支え合い活動との関係を見たものが図表3である(*1)。ここでは、本業以外での助け合い・支え合い活動への参加の有無で、各要因の得点の平均値を比較している。
図表3:職場における互恵性規範と本業以外での助け合い・支え合い活動との関係
本業以外での助け合い・支え合い活動への参加の有無で、両規範がどう働いているかという点については、統計的に有意な差はあるが(*2)、その差はそこまで大きくなかった。
「上司の姿勢」と本業での助け合い・支え合い活動との関係
次に、上司の姿勢と本業での助け合い・支え合い活動との関係を見たものが図表4である。本業での助け合い・支え合い活動については、ソーシャル・サポートの提供側面(以下「提供ソーシャル・サポート」)に着目している。その得点について、3未満を低群、3以上5未満を中群、5以上を高群としたうえで分析している(7点満点)(*3)。
図表4:上司の姿勢と本業での助け合い・支え合い活動との関係
全体的に見て、提供ソーシャル・サポートの得点の高さと、評価している各上司の姿勢には関係があることが分かる(提供ソーシャル・サポート得点が高い者の上司ほど、多様な姿勢を示している)(*4)。特に評価されている姿勢は、「❶部下の仕事以外の事情に配慮している」「❷業務遂行がうまくいくよう部下を支援している」「❸部下が長時間労働にならないように推奨している」の3つである。上司が部下を配慮し支援する姿勢が、職場内で伝播している可能性がうかがえる。なお、こうした上司の姿勢(部下に対する配慮や心遣い)は、今日のマネジャーがより求められるようになっている代表的な役割の一つとされており(Vie,2010)、改めてそうした役割の意義が明らかになった(*5) 。
「上司の姿勢」と本業以外での助け合い・支え合いとの関係
加えて、上司の姿勢と本業以外での助け合い・支え合い活動(ボランティア活動・地域コミュニティ活動への参加有無)との関係を見たものが図表5である。
図表5:上司の姿勢と本業以外での助け合い・支え合い活動との関係
こちらも一貫して、本業以外での助け合い・支え合い活動に参加していることと、評価している各上司の姿勢には関係があることが分かる(本業以外での助け合い・支え合い活動に参加している者の上司ほど、多様な姿勢を示している)(*6) 。特に、評価されている姿勢も、前段と同様の傾向にあることが分かる。この結果は、上司が部下を配慮し支援する姿勢が職場外にも伝播している可能性を示唆している。
職場要因と本業での助け合い・支え合いとの関係
最後に、上記の関係に加えて、本業での助け合い・支え合い活動との関係について併せて見たものが図表6である。ここでは、前述の職場要因(職場における互恵性規範は返報「不要」、また、上司の姿勢は本業/本業以外での助け合い・支え合いと関係があった❶~❸の姿勢)、および本業以外での助け合い・支え合い活動への参加ありを説明変数、提供ソーシャル・サポートを被説明変数として重回帰分析を行うことで、本業以外での助け合い・支え合いが本業のそれにどう影響しているかという点について確認した(*7) 。
図表6:職場における互恵性規範と提供ソーシャル・サポートとの関係
その結果、いずれの要因も提供ソーシャル・サポートに対して正の関係があることが分かる(*8)。本業以外での助け合い・支え合い活動に参加すること、また、返報を不要とする互恵性規範(*9)や上司の姿勢は、いずれも職場内での助け合い・支え合い活動を促進しているのである。
今回のコラムでは、本業および本業以外の助け合い・支え合いを促す組織要因のうち、職場要因として「職場における互恵性規範」「上司の姿勢」について見てきた。次回は視点を変えて、会社要因について見ていきたい。
執筆:筒井健太郎(研究員)
(*1)因子負荷の高い項目を中心に選択したうえで、本調査の目的にかなう項目表現にして使用している。
(*2)t検定を通じて1%有意水準であることを確認した。
(*3)実際の設問は全6問で構成されているため、それらの得点を合計し項目数で除したうえで、3未満を低群、3以上5未満を中群、5以上を高群としている。
(*4)カイ二乗検定を通じて、いずれの上司の姿勢についても1%で有意な差であることを確認した。
(*5) 別の論点にはなるが、重要なことなのでここで付言しておきたい。こうした役割遂行に対して精神的負担や葛藤を感じているマネジャーがいることも分かっている(Vie,2010)。この新たな期待役割は、1on1に代表されるような、マネジャーの部下との双方向の対話に対するニーズを高めているが(坂爪,2020)、これは精神的な負担のみならず、ただでさえ限られた業務時間を圧迫しているという点で物理的な負担になっているのも事実である。
(*6)t検定を通じて、「上司は、自分の生活を大切にしている」は5%水準で、その他は1%水準で有意な差であることを確認した。
(*7)実際の分析にあたっては、説明変数として、本業以外での助け合い・支え合い活動への参加有無(ボランティア活動・地域コミュニティ活動への参加あり)、また、上司の姿勢(自身の上司が❶~❸のいずれかに該当する場合)をダミー変数として投入している。
(*8)本モデルにおいて要因間の多重共線性を確認したところ、それぞれのVIF値は1.1以下となっており、相関はそれほど見られなかった。
(*9)返報を不要とする互恵性規範に変えて、返報を必要とする互恵性規範を投入したモデルでも検証したが、図表6に示すモデルの方があてはまりが良かった(調整済R2乗の値が高かった)。
【参考文献】
橋本剛(2015)「貢献感と援助要請の関連に及ぼす互恵性規範の増幅効果」『社会心理学研究』,第31巻,第1号,35-45
リクルートワークス研究所(2021)「【データ集】働く人の共助・公助に関する意識調査」
坂爪洋美(2020)「管理職の役割の変化とその課題-文献レビューによる検討」『日本労働研究雑誌』No.725
Vie, O. E. (2010). Have post-bureaucratic changes occurred in managerial work?. European Management Journal, 28 (3),182-194.