第3回 何が「助け合い・支え合い」の輪の広がりに貢献するか:個人要因編(後編)

2023年04月14日

「トータル・リワード」とは

前回は、本業および本業以外の助け合い・支え合いを促す個人要因のうち感謝および心理的負債感について見てきた。今回は残る「トータル・リワード」と「仕事の負担感」について見ていきたい(図表1)。

図表1:助け合い・支え合いを促す要因として着目したもの

図表1助け合い・支え合いを促す要因として着目したもの
ここで、「トータル・リワード」という概念について簡単に説明しておきたい。これは従業員に対する報酬を、金銭的な報酬に限らず非金銭的な報酬も含めて、総合的な動機付けの仕組みとして捉える考え方である。今回の調査においては、井川ら(2015)により作成された尺度を踏まえて、成長的報酬、対人的報酬、社会的報酬、経済的報酬、安定的報酬の5つの観点から把握することとした(*1) 。具体的な質問項目は図表2に示すとおりである。

図表2:トータル・リワードに関する具体的な質問項目

図表2トータル・リワードに関する具体的な質問項目

「トータル・リワード」と本業以外における助け合い・支え合いとの関係

まず、トータル・リワードと本業以外の助け合い・支え合い活動との関係を確認するにあたり、トータル・リワードの因子構造について確認した(*2) 。その結果、本調査においては、元の5因子ではなく3因子構造となっていることが確認された(図表3)(*3) 。今回は、それぞれの因子を「地位的報酬」「非地位的報酬(成長・対人)」「非地位的報酬(安定)」と命名した(*4) 。

図表3:トータル・リワードの再分類結果

図表3トータル・リワードの再分類結果
これらトータル・リワードの下位3因子と助け合い・支え合い活動との関係を見たものが図表4である。ここでは、本業以外での助け合い・支え合い活動の参加の有無で、各要因の得点の平均値を比較した。

図表4:「トータル・リワード」と本業以外での助け合い・支え合い活動との関係

図表4「トータル・リワード」と本業以外での助け合い・支え合い活動との関係

本業以外での助け合い・支え合い活動への参加の有無に着目した場合、統計的に有意な差が見られたのは、「非地位的報酬(成長・対人)」と「地位的報酬」であった(*5) 。前者の方がややその差が大きくなっており、本業において成長的報酬や対人的報酬をより感じている人ほど、本業以外での助け合い・支え合い活動に参加している可能性が見て取れる。

「仕事の負担感」と本業以外における助け合い・支え合いとの関係

次に、本業以外の助け合い・支え合い活動の参加の有無で、「仕事の負担感」(*6) の得点の平均値を比較したものが図表5である。

図表5:「仕事の負担感」と本業以外での助け合い・支え合い活動との関係

図表5「仕事の負担感」と本業以外での助け合い・支え合い活動との関係

本業以外での助け合い・支え合い活動への参加の有無に着目した場合、統計的に有意な差が確認できた(*7) 。この結果から、人は仕事での忙しさや大変さにかかわらず(むしろそうである人ほど)、職場外の助け合い・支え合い活動に参加している姿が見て取れる。人はストレスがかかるとむしろ、他人を思いやり、絆を深めようとする(tend and befriend)ことが分かっており(Taylor et al.,2011)(*8) 、本結果の背景にはこうした心理的作用が働いているのかもしれない(*9)。

本業場面に限定した個人要因と本業内での助け合い・支え合いとの関係

最後に、上記の関係に加えて、本業での助け合い・支え合い活動との関係について併せて見たものが図表6である。ここでは、前述の本業場面での個人要因、および本業以外での助け合い・支え合い活動への参加ありを説明変数、提供ソーシャル・サポートを被説明変数として重回帰分析を行うことで、本業以外での助け合い・支え合いが本業のそれにどう影響しているかという点について確認した(*10) 。

図表6:本業場面での個人要因と提供ソーシャル・サポートとの関係

図表6 本業場面での個人要因と提供ソーシャル・サポートとの関係

その結果、いずれの要因も提供ソーシャル・サポートに対して正の関係があることが分かる(*11) 。多面的な報酬実感を持っている人ほど、本業での助け合い・支え合い活動に参加しているのである。また、仕事の負担感がある人ほど、逆に周りの人を手助けしていることがうかがえる。

前回・今回の2回にわたって、どういった個人の要因が本業および本業以外の助け合い・支え合いを促しているかについて見てきた。これらの結果を通じて分かることは、助け合い・支え合いの輪の広がりは、感謝し、感謝されるといった人が持つ純朴な関係性から始まるということなのかもしれない(*12)。次回からは組織の要因に焦点を当てて見ていきたい。

執筆:筒井健太郎(研究員)

 

(*1)実際の測定にあたっては、因子負荷の高い項目を中心に選択したうえで、本調査の目的にかなう項目表現にしている。「あてはまらない」から「あてはまる」の5件法で測定した。

(*2)安定的報酬については逆数を取っている。以下の分析についても同様である。

(*3)因子分析においては、最尤法を採用しプロマックス回転を行った。なお、回転前の3因子での累積寄与率は65.31%であった。

(*4) 他人との比較によって生じるか否かで財の性質を「地位財」「非地位財」に分類するFrank(2017)による考え方(比較によるものを地位財としている)に準じて命名した。

(*5) t検定を通じて1%有意水準であることを確認した。

(*6)仕事の負担感の測定にあたっては、職業性ストレス簡易調査票(下光,2005)にある「心理的な仕事の負担(量)」「心理的な仕事の負担(質)」に関する質問を使用した。前者は「非常にたくさんの仕事をしなければならない」「時間内に仕事が処理しきれない」、後者は「かなり注意を集中する必要がある」「高度の知識や技術が必要な難しい仕事だ」といった質問について、「全くない」から「いつも感じる(毎日)」の7件法で測定した。なお、本調査においては、因子分析の結果、元の2因子ではなく1因子構造となっていることが確認されたため(最尤法を採用しプロマックス回転を行った。なお、回転前の1因子での累積寄与率は66.88%であった)、分析においては1因子として投入している。

(*7)t検定を通じて1%有意水準であることを確認した。

(*8)当初こうした反応は女性特有のものと考えられていたが(Taylor et al.,2000)、女性に限らず男性にも見られる可能性が示唆されている。

(*9)また、誰かを手助けすることに時間を使った人は、時間がないという感覚が和らぐことも分かっており(Mogilner et al.,2012)、こうした作用も働いているのかもしれない。

(*10)実際の分析にあたっては、説明変数として、本業以外での助け合い・支え合い活動への参加の有無(ボランティア活動・地域コミュニティ活動への参加あり)をダミー変数として投入している。

(*11)本モデルにおいて要因間の多重共線性を確認したところ、それぞれのVIF値は2.0以下となっており、相関はそれほど見られなかった(最大は非地位的報酬〈成長・対人〉の1.71)。

(*12) 前回のコラムでも言及したが、こうした互恵性は人が持つ社会規範の中で最重要なものの一つとされている(Gouldner,1960)。

 

【参考文献】
Frank, Robert. (2013) Falling Behind: How Rising Inequality Harms the Middle Class. Univ of California Press. (金森重樹.監修(2017)『幸せとお金の経済学』フォレスト出版)
Gouldner, A. W. (1960) The norm of reciprocity: A preliminary statement. American Sociological Review, 25 (2), 161-178
井川純一・中西大輔・浦光博・坂田桐子(2015)「仕事への情熱とバーンアウト傾向の関係-報酬との交互作用に着目して-」『社会情報学研究』Vol.20
Mogilner, C., Chance, Z., and Norton, M.I. (2012) Giving Time Gives You Time. Psychological Science, 23 (10), 1233-38.
下光輝一(2005)『職業性ストレス簡易調査票を用いたストレスの現状把握のためのマニュアル』http://www.tmu-ph.ac/news/data/manual2.pdf(閲覧日2023年4月10日)
Taylor, S. E., Klein, L.C., Lewis, B. P., Gruenewald, T. L., Gurung, R. A. R and Updegraff, J. A. (2000) Biobehavioral Responses to Stress in Females: Tend-and-Befriend, Not Fight-or-Flight. Psychological Review, 107 (3), 411-29.
Taylor, S. E., and Master, S.L. (2011) Social Responses to Stress: The Tend-and-Befriend Model. The Handbook of Stress Science: Biology, Psychology, and Health, 101-109.

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