学習者の創造性を引き出す体験がDXマインドを作る。ライフイズテックの視点からみた、従業員のリスキリングの鍵とは
ライフイズテックは、中学生・高校生向けのIT・プログラミング教育サービスや学校向けオンラインプログラミング教材の提供に取り組んできたEd-Tech企業だ。同社は2021年7月より、従業員のDXマインドや基礎的なデジタルリテラシーを、体験学習を通じて育成するプログラムを企業向けに提供している。企業が従業員のDXマインドやデジタルリテラシーを育成するための鍵は何か。取締役副社長COOの小森勇太氏に聞いた。
社会人向け講座で、プログラミングを学んだ子どもたちの活躍の場を広げる
―――これまで中学生・高校生向けのプログラミング教育を行われてきましたが、2021年に社会人向け講座を開始された背景には、どのような考えがあったのでしょうか。
11年間、中学生や高校生の可能性を最大化させることをミッションに、デジタルスキルの育成を行ってきました。中学生や高校生だった生徒は大学生になったり、社会人になったりしています。ライフイズテックで活躍した卒業生が、就職先で新人賞を受賞するという嬉しいニュースが3年連続で起き、教育を通じて子どもたちの可能性を拓いてきたという自負があります。
一方で、自分たちが教えてきた中学生や高校生が、社会でどう活躍しているのかが気になり始めました。そこで育成してきた子どもたちの進路をみると、多くがテック系の企業やDXに成功する企業に就職しており、デジタル技術活用に苦戦するその他の企業には就職していなかったり、就職しても定着できていない、という状況がみえてきました。
テック系企業への就職も素晴らしいですが、そこに偏りすぎることは問題です。特に大企業はグローバルに事業を展開していることも多く、これら企業のデジタル化をサポートする社会人向けの講座を提供することが、私たちが育成した中学生や高校生がグローバルに活躍するフィールドを広げることにつながると考えるようになりました。
本人の創造性を引き出す学習体験を重視
―――社会人向けの講座では、これまでの事業経験はどのように活かされているのでしょうか。
大切にしているのは、ラーニング・エクスペリエンス(学習者体験)です。私たちがプログラミング教育を始めた11年前には、中学生・高校生がプログラミングをあえて学ぶ理由はありませんでした。だからこそ、「ゲームを作りたい」「映像を作りたい」など、子どもたちが学びたいと思える環境を整える必要がありました。そのために学習者が何を感じているのかに向き合ってきましたし、小さなアクティビティを盛り込んで関係性を作り、本人のクリエイティビティを引き出すことにも試行錯誤を重ねてきました。私たちが提供する社会人向け講座も、本人の創造性を引き出し、ワクワクしながら学んでもらうことを大事にしています。
全社員がDXマインドを身につける鍵は「実践・アウトプットの機会」
――企業がDXを成功させるために、人材育成上はどのような点に留意する必要があるのでしょうか。
DXを成功させるためには、全社員を対象とするデジタル人材育成が必要です。デジタル技術を用いた課題解決のプロセスには、問題の発見と課題設定を行う「着想フェーズ」、課題解決を構想したり要件定義を行う「構想フェーズ」、システムの開発を行う「実装フェーズ」、システムの浸透を図る「定着フェーズ」があります。このうち特に構想フェーズや定着フェーズでは、IT部門とビジネス部門の双方がオーナーシップを持ち、緊密なコミュニケーションを行うことが必要です。そのためには組織や役職によらず、全社員がデジタル技術にポジティブなマインドや基礎的なスキルを持つことが欠かせません。
―――社員のなかにはデジタルに苦手意識を持つ人もいます。それらの人も含めて全員がDXマインドやデジタルリテラシーを身につけるために重要なことは何でしょうか。
座学だけでなく、実践やアウトプットの機会を作ることがポイントです。座学は基本的な内容をちょっと知りたいという時に効率的な手段ですが、デジタルを「知ること」「分かること」だけでなく、「できる」「使える」まで進むためには、実際の体験が必要だからです。また座学の場合、もともとモチベーションが高い人は前のめりで学習できるのですが、デジタルに対して苦手意識がある人は最初のステップでつまずくことが少なくありません。
―――デジタルに苦手意識を持つ人の考え方を変えるために、具体的にどんなアウトプットの機会があるといいのでしょうか。
デジタルで「ものづくり」をしてみる体験が有効だと考えています。日本企業の強みはものづくりにあり、多くの人はリアルに何かを作ることが得意だったり、はっきりとイメージを持つことができます。私たちの社会人向け講座では、簡単なアプリケーションを作ることまで体験しますが、デジタルでものを作る体験をすると、これまでのものづくりに引き付けて、デジタルをぐっと身近に感じることができるようです。
世代にかかわらず、DXマインドの形成は可能
―――世代にかかわらず、DXマインドやデジタルのベーススキルを身につけることは可能でしょうか。
可能です。私たちの社会人向け講座では各自の身近な問題を取り上げて課題を整理し、課題解決に向けたフローチャートを描いて、企画をアウトプットとしてまとめていくところを中心に体験します。この体験を通じて課題解決こそが重要であり、デジタルはそのためのツールであると実感した時、参加者にはマインドセットの変化が起きます。
そのようなマインドセットができると、解決したい課題に対し、どんなツールが必要かと発想できるようになりますし、ツールにどんな機能があるかに縛られず、課題解決に必要なものだけをシンプルに選択できるようになります。私たちの社会人向け講座の受講者の約2割は中高年の方々ですが、デジタルツールやシステムの活用ありきで考えていた方々が、課題解決のためにデジタルツールがあると発想を転換していただけた時などには、大きな手ごたえを感じています。
執筆:大嶋寧子