無償でデジタルスキルトレーニングを提供。Google が目指す、デジタル格差のない社会とは。

2021年04月27日

日本でも、企業や個人がデジタルスキルを学び、リスキリングをする機会が広がっている。
その 1 つが、2019 年4月に Google がスタートさせた、無料のデジタルスキルトレーニングを提供するプロジェクト「Grow With Google」だ。コンテンツは、ビジネスパーソンに向けた効果的なテレワークの方法や、教員に ICT 導入の基礎を伝える講座、中小企業向けのオンラインショップ開設ノウハウなど多岐にわたる。
「新しいスキルを、すべての人に」をテーマに掲げ、中小企業や個人、学生や教育者などあらゆる人々のデジタルスキル習得を支援する Google の目指すところとは。
同社のプロダクトマーケティングマネージャーである岡村有人氏にプロジェクトの目的や、DX に関する日本の課題などについて話を聞いた。

すべての人が、平等にデジタルスキルを学べる社会へ

―Grow with Google を立ち上げた経緯を教えてください。

私たちを取り巻く世界では、ビジネスでも普段の生活においても、何らかの形でデジタルスキルが必要とされる時代が到来しています。新型コロナウイルス感染症の発生によって、テレワークなどを活用した柔軟な働き方も、これまで以上に求められるようになりました。
一方で、 ICT の活用ができていなかったり、デジタル活用のノウハウ不足に悩む人がいるなど、企業・個人のデジタルスキルには格差があるのが現状です。
働き方改革や個人のデジタルスキルの向上が求められる中、Google は経営者や働きやすい環境を求めるあらゆる方を対象に、幅広い層のデジタルスキル習得をサポートする必要があると考え、Grow with Google を立ち上げました。
プロジェクトは世界 80 カ国以上で展開されており、日本でも 2019 年に開始し、すでに 550 万人の方に受講頂いています。

―DX を進めるにあたって、日本社会にはどのような課題があると考えていますか。

例えば政府の調査によると、企業のテレワーク導入率は 2020 年4 月の 27%(※1) から、同年6 月には35%(※2) まで高まり、4 月に行った調査によるとテレワーク経験者の約半数がテレワークの継続を希望していました。しかし諸外国に比べるとまだまだテレワークの普及は遅れており、政府目標の7 割にも及びません。
特に従業者規模が小さい企業ほど、クラウドを活用した働き方改革やデジタルマーケティング遅れているのが現状です(※3) 。GoogleがIpsos社に委託して行った調査によると、インターネットを活用している中小企業についても、全体の 41% に留まっており、最初の緊急事態宣言の期間中、新たに通販サイトを立ち上げた会社も 5% に届きませんでした。
このように、ビジネスの規模や地域によっても、デジタルスキル習得の格差が存在することが課題だと感じています。

中小企業の E コマース、働き方改革を支援 デジタル初心者にも分かりやすく

―中小企業が社員のリスキリングを支援するのは限界があります。Grow with Google では、特に中小企業向けにはどのような支援をしていますか。

経産省の調査(※4) によると、中小企業が IT 投資をしない主な由は「使いこなす人材がいないから」で、IT を導入したくとも知識を持つ人がおらず、どこから手を付けたらいいか分からない、という課題が浮き彫りになりました。このため、Google ではデジタルに苦手意識のある人でも一歩を踏み出せるよう、すべての人にとって分かりやすいトレーニングを提供しています。今年 3 月に開始した「いますぐはじめる e コマース」では、オンラインショップの活用方法や効果的にオンライン上でビジネスを宣伝する方法、より良いサービスを提供するノウハウなどを、事例とともにお伝えしています。
デジタルマーケティングや動画活用に関するトレーニングでは、ツールの基本的な使い方や、効果的な活用方法などもご紹介しています。
また中小企業は今後、テレワークなど離れた場所で働きつつ、チームとしての生産性も高めることが求められます。このため、Grow with Google では柔軟な働き方の導入支援にも力を入れています。具体的には、効果的なテレワークの方法やオンラインでのコミュニケーションの質を高めるノウハウなどをご紹介するトレーニングも設けています。

―中小企業がデジタル技術を習得することは、日本にどのような効果をもたらしますか。

日本企業の総数に占める中小の割合は 99.7%、従業員数に占める割合も 70% に上り(※5) 、中小企業が日本経済の根幹を支えていると言っても過言ではありません。
デジタルスキルの習得によって、中小企業は大きな成長が見込める上、困難な状況に直面した時のレジリエンス、つまり立ち直る力も高まります。
前出のGoogle が Ipsos 社に委託して実施した調査によると、ウェブサイトや E コマースを導入した企業のうち 56% が、コロナ禍においてこれらが役立ったと回答しました。例えば、大阪にある武道の道場はオンラインレッスンの配信によって、また大手の生花通販サイトは検索ワードの傾向をグラフ化した「Google トレンド」の解析や YouTube 広告の活用によって、それぞれ新規の顧客獲得に成功されています。中小企業のビジネスのデジタル化を支援することは、地方創生にも、アフターコロナにおける経済成長にも不可欠だと考えています。

130 のパートナーと連携 若者の就労支援トレーニングも提供

―どのような形で、企業や教育現場などへコンテンツを届けているのでしょうか。

自治体や地元商工会議所などの団体、そして一般企業など、各地でハブとなる行政や民間の組織とパートナーシップを組み、一緒にトレーニングを実施することで、より多くの企業・個人のニーズに合ったコンテンツを活用してもらいたいと考えています。
現在は 130 を超えるパートナーの皆様がいらっしゃいます。
具体的な例として 2020 年、「デジタルファースト宣言」を出した宮城県の協力のもと、仙台商工会議所の加盟企業などに向けた研修を実施しました。
また、2021 年 4 月からは、大阪府と Google を含む民間企業との協働による「公民のパートナーシップによる若者の DX(IT)人材就職支援モデル事業」もスタートします。Google は就職を希望する若者に無料でデジタルスキルの習得機会を提供するという観点から、職探しや就活をサポートします。新型コロナウイルス感染症の発生により求職者が増加する中、より多くの若者が仕事を得られるよう、求められるスキルの習得と活用方法を提供することで皆様のお役に立ちたいと考えています。

―パートナーとの連携にあたり、最も重視していることは何でしょうか。

私たちのトレーニングを最大限に活用してもらうためには、各地域・各コミュニティのニーズを細かく把握しているパートナーの皆様からの協力が欠かせません。
例えば、自治体や商工会議所が地元企業の経営者に「オンライン上に会社の最新の情報が表示されることが、いかにビジネスに役立つか」を具体的に伝えることができれば、地元企業の人たちのトレーニングを受講する意欲も高まります。
各パートナーと協力し、その地域、事業者の皆様のニーズをより理解した上で、デジタルスキル習得の機会を提供していきたいと考えています。また、地域全体のデジタル化を加速するには、企業だけでなく自治体職員などあらゆる立場の方に、デジタルスキルの重要性を理解してもらう必要があると考えています。
このため、2021 年 3 月には、自治体の職員の方を対象としたオンライントレーニングの提供も開始しました。

―「新しいスキルを、すべての人へ」提供し、デジタル技術を底上げすることの重要性について、教えてください。

Grow with Google は学生から遠隔地に住む方、小売店の経営者、旅館組合など幅広い年齢や立場の方に向けたトレーニングを提供しています。「一歩を踏み出せる」「やってみよう」という気持ちが高まるようなコンテンツづくりを心がけています。
テクノロジーは企業の生産性を高め、イノベーションを生み、時間と場所にとらわれない働き方を可能にするだけでなく、人々の生活を豊かにしてきました。
私たちはまだデジタルを活用したことがない人が一歩を踏み出すお手伝いをすることで、イノベーションを生み出す社会を後押ししていきたいと考えています。
(執筆:有馬知子)

(※1)厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11109.html)
(※2)内閣府「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」(https://www5.cao.go.jp/keizai2/manzoku/pdf/shiryo2.pdf)
(※3)中小企業庁「平成29年通信利用動向調査報告書(企業編)」(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/pdf/HR201700_002.pdf)
(※4)経済産業省「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」2017年10月(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/suishinkaigo2018/chusho/dai1/siryou1.pdf)
(※5)中小企業庁調査室「2020年版中小企業白書・小規模企業白書<講演用資料>」2020年6月(https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/kaisetsu.pdf)

 

3-5 Photo.jpg岡村有人(オカムラ・アルト)氏 
グーグル合同会社 プロダクト マーケティング マネジャー 

大手広告代理店にて10年以上勤務。
その後、米国カリフォルニア州でのMBA取得を経てGoogleへ入社。
プロダクトマーケティング マネジャーとして無料のデジタルスキルトレーニングを提供するプロジェクト「Grow with Google」を推進中。

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