元通りのようで、変化はある ―宣言下のテレワーク経験が、職場制度にもたらした影響 ― 萩原牧子

2022年07月06日

フルタイム出社に元通り。結局、コロナを経ても、働き方は変わらなかった――。そう嘆くひとが多いかもしれない。書籍「仕事から見た「2020年」:結局、働き方は変わらなかったのか?」の第7章「テレワークへの移行と定着、そして効果」では、2020年の緊急事態宣言をきっかけに広く導入されたものの、そのあと実施率が減少したテレワークについて取り上げた。どのような職場が、いざというときにスムーズにテレワークに移行したり、宣言が明けたあとも継続できているのか、また、急なテレワーク実施によって長時間労働が生じたり、生産性が落ちていないのかなどを「全国就業実態パネル調査」(リクルートワークス研究所)で分析している。本コラムでは、「結局、何も変わらなかった」という冒頭の声に対して、7章からひとつの集計を取りあげ、元通りのようで、じつは生じている変化についてご紹介したい。

6割強がフルタイム出社に元通り

2020年の緊急事態宣言下ではじめてテレワークに移行したもののうち、宣言解除後(2020年12月時点)に週1時間以上のテレワークを継続しているのは36.7%に過ぎず、6割強がフルタイム出社に戻っていた。テレワークの実施には、テレワーク制度が一部の限られたひとのものではなく、全従業員を対象にしていることや、離れていても仕事が評価される仕組み(目標管理制度など)が整っていること、いちいち確認しなくても自分で決めて進められるように仕事がアサインされている状態であることが効果的であることがデータによって示されている(7章)。

図は、コロナ前(2019年12月)には、テレワーク制度や目標管理制度がなかった、もしくは、自分で決めて仕事が進められる状態ではなかったと回答していたものに限定して、それから1年後(2020年12月時点)、それぞれがどのように変化をしているのかをみたものだ。緊急事態宣言下にはじめてテレワークに移行したものを対象にして、宣言解除後(2020年12月時点)でもテレワークを継続している場合と、フルタイム出社に戻った場合に分けて集計している。

図:コロナ前(2019年12月)から1年後の職場制度の変化(もともと制度がなかったもの対象)
図 コロナ前(2019年12月)から1年後の職場制度の変化(もともと制度がなかったもの対象)

注)集計対象は2019年12月時点の仕事を2020年12月時点でも継続していて、かつ、コロナ前(2019年12月時点)にはテレワークをしていなかったが、緊急事態宣言下(2020年4,5月)にテレワークを実施した雇用者(休業者除く)。ウエイト集計。

まず、テレワーク制度をみると、テレワークを継続しているほうが、制度が導入された割合が9割強と高い。目標管理制度の導入や、自分で決めて仕事を進められるようになった割合も、継続しているほうが、それぞれ3割弱、3割強と高い。継続を決めた企業において、テレワークをしやすい状態へと、職場の制度やアサインのあり方が変更されている様子がうかがえる。

フルタイム出社に戻っていても職場は変化している

ただし、フルタイム出社に戻っている場合であっても、職場の制度を変える動きがみられることにも着目したい。新たにテレワーク制度を導入したのが4割弱、MBOの導入や仕事のアサインのあり方を変えている割合も一定数確認できる。継続している企業と比べて割合が低くても、宣言下のテレワーク経験が、フルタイム勤務に戻っている職場においても、これまでのやり方の見直しをもたらしているのだ。テレワーク制度の整備は、この後のテレワークをしやすくするし、客観的な評価制度の導入や、自律して仕事ができるようなアサインへの見直しは、これまで無駄の多かったリアルな職場の仕事の進め方を、生産性の高いものへの変化させるかもしれない。

宣言下のテレワーク経験によって得た気づきは、この後の働き方を継続的に変化させる可能性を持つ。一方で、宣言下でもテレワークを経験していない7割強の企業では、これまでの働き方を見なおす機会を得られず、それらの変化は生じにくいかもしれない。宣言下のテレワーク経験の有無が、働く「場所」に留まらず、これからの働き方の格差を広げる可能性があるだろう。

萩原牧子(主幹研究員・主幹アナリスト)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。

フルタイム出社に元通り。結局、コロナを経ても、働き方は変わらなかった――。そう嘆くひとが多いかもしれない。書籍「仕事から見た「2020年」:結局、働き方は変わらなかったのか?」の第7章「テレワークへの移行と定着、そして効果」では、2020年の緊急事態宣言をきっかけに広く導入されたものの、そのあと実施率が減少したテレワークについて取り上げた。どのような職場が、いざというときにスムーズにテレワークに移行したり、宣言が明けたあとも継続できているのか、また、急なテレワーク実施によって長時間労働が生じたり、生産性が落ちていないのかなどを「全国就業実態パネル調査」(リクルートワークス研究所)で分析している。本コラムでは、「結局、何も変わらなかった」という冒頭の声に対して、7章からひとつの集計を取りあげ、元通りのようで、じつは生じている変化についてご紹介したい。

6割強がフルタイム出社に元通り

2020年の緊急事態宣言下ではじめてテレワークに移行したもののうち、宣言解除後(2020年12月時点)に週1時間以上のテレワークを継続しているのは36.7%に過ぎず、6割強がフルタイム出社に戻っていた。テレワークの実施には、テレワーク制度が一部の限られたひとのものではなく、全従業員を対象にしていることや、離れていても仕事が評価される仕組み(目標管理制度など)が整っていること、いちいち確認しなくても自分で決めて進められるように仕事がアサインされている状態であることが効果的であることがデータによって示されている(7章)。

図は、コロナ前(2019年12月)には、テレワーク制度や目標管理制度がなかった、もしくは、自分で決めて仕事が進められる状態ではなかったと回答していたものに限定して、それから1年後(2020年12月時点)、それぞれがどのように変化をしているのかをみたものだ。緊急事態宣言下にはじめてテレワークに移行したものを対象にして、宣言解除後(2020年12月時点)でもテレワークを継続している場合と、フルタイム出社に戻った場合に分けて集計している。

図:コロナ前(2019年12月)から1年後の職場制度の変化(もともと制度がなかったもの対象)
図 コロナ前(2019年12月)から1年後の職場制度の変化(もともと制度がなかったもの対象)

注)集計対象は2019年12月時点の仕事を2020年12月時点でも継続していて、かつ、コロナ前(2019年12月時点)にはテレワークをしていなかったが、緊急事態宣言下(2020年4,5月)にテレワークを実施した雇用者(休業者除く)。ウエイト集計。

まず、テレワーク制度をみると、テレワークを継続しているほうが、制度が導入された割合が9割強と高い。目標管理制度の導入や、自分で決めて仕事を進められるようになった割合も、継続しているほうが、それぞれ3割弱、3割強と高い。継続を決めた企業において、テレワークをしやすい状態へと、職場の制度やアサインのあり方が変更されている様子がうかがえる。

フルタイム出社に戻っていても職場は変化している

ただし、フルタイム出社に戻っている場合であっても、職場の制度を変える動きがみられることにも着目したい。新たにテレワーク制度を導入したのが4割弱、MBOの導入や仕事のアサインのあり方を変えている割合も一定数確認できる。継続している企業と比べて割合が低くても、宣言下のテレワーク経験が、フルタイム勤務に戻っている職場においても、これまでのやり方の見直しをもたらしているのだ。テレワーク制度の整備は、この後のテレワークをしやすくするし、客観的な評価制度の導入や、自律して仕事ができるようなアサインへの見直しは、これまで無駄の多かったリアルな職場の仕事の進め方を、生産性の高いものへの変化させるかもしれない。

宣言下のテレワーク経験によって得た気づきは、この後の働き方を継続的に変化させる可能性を持つ。一方で、宣言下でもテレワークを経験していない7割強の企業では、これまでの働き方を見なおす機会を得られず、それらの変化は生じにくいかもしれない。宣言下のテレワーク経験の有無が、働く「場所」に留まらず、これからの働き方の格差を広げる可能性があるだろう。

萩原牧子(主幹研究員・主幹アナリスト)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。

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