どのような仕事で再就職すると働き続けやすいのか
再就職したあとも、家事・育児の負担が重い状況は変わらない
女性が再就職しようとするとき、立ちふさがる問題の1つが「仕事と家庭の両立」である。これまでの研究でも、一番下の子が6歳未満だと再就職の確率が低下することや、夫の家事・育児時間が短いほど女性が再就職しにくくなること など、仕事と家庭の両立の負担が女性の再就職に影響することが指摘されてきた(※1)。
しかし考えてみれば、仕事と家庭の両立に関わる問題が、よりリアルな形で女性の前に立ちふさがるのは「再就職したあと」だ。そうであるならば、仕事と家庭の両立負担は、再就職したあとに女性が働き続けられるかどうかにも関わっていると考えるのが自然だろう。
最初から両立負担が重いケースで、働き続ける確率が低下する
リクルートワークス研究所「ブランクのある女性のキャリア3千人調査(※2)」のデータを用い、再就職時点での仕事と家庭の両立負担に関わる状況別に、再就職後に働き続ける確率がどう変化していくのかを、視覚的に示した (図表1)。この図表では、縦軸に再就職後に働き続ける確率 を、横軸は再就職後の年数を取っている。
仕事と家庭の両立に関わる負担は、以下の3つに注目した。
1.再就職時の週就業時間
2.再就職時の末子年齢
3.離職期間
再就職の時点で最初から働く時間が長ければ、それだけ家事・育児と仕事を両立するための、精神的・身体的な負担が重くなると考えられる。また、子どもが小さいうちは育児に手がかかりやすいことや、待機児童の問題から保育所を安定して確保しにくいこと、子どもを置いて働くことに後ろめたさを感じやすいことから、再就職時の末子年齢が低い場合には、やはり負担が重くなると考えられる。最後に、離職期間が長いほど、仕事と育児を両立する新しい生活スタイルに適応する負担が高まることが考えられる。
結果は、図表1のとおり、1~3のすべてで、両立負担が重い場合に、再就職後に働き続ける確率が低下する傾向が見られた。まず、再就職時の週就業時間別には、「週30時間以上40時間未満」「週40時間以上」の場合、再就業時の末子年齢別には「3歳以下」の場合に、働き続ける確率がより低い。また、離職期間別には調査上で最短である「3年以上5年未満」に対し 、離職期間が長くなるほど、再就職後に働き続ける人の割合が低くなる傾向がみられた。
図表1 再就職時点での仕事と家庭両立負担の状況別にみた、再就職後に働き続ける確率
(a)再就職時の週就業時間別
(b)再就職時の末子年齢別
(c)離職期間別
注:縦軸の働き続ける確率は、累積生存率(再就職から当期までの各期で働き続ける確率の積)。100%=1.00で表記。
仕事と家庭の両立負担は、再就職後にも影響
次に、女性の居住地や離職前の雇用形態、調査時点の年齢などの影響をコントロールしたうえで、再就職後の離職と、離職期間中の学びや再就職時の仕事と家庭の両立負担などの変数との関わりについて、統計的な手法を用いて分析した。
図表2は、その分析結果のうち、再就職時の仕事と家庭の両立負担に関わる部分を抜粋したものである(ここで示す結果は、前回コラムと同じ分析に基づいている)。係数がプラスである場合は、基準となる状況と比べて、離職の確率を高め、マイナスである場合は離職の確率を低めていることを意味している。なお、統計的に意味のある結果がみられた場合にのみ、係数と影響を記した。
まず、再就職時の末子年齢についてみると、基準である「3歳以下」に対して、「4~5歳」「6~11歳」「12歳以上」で、再就職後に離職する確率が低下していた。次に、再就職時の週就業時間についてみると、基準である「週20時間未満」に対し、「週30時間以上40時間未満」「週40時間以上」の場合に、再就職後の離職の確率が有意に高まっていた。最後に、離職期間についてみると、基準である「3年以上5年未満」に対し、「5年以上10年未満」と「10年以上」で離職の確率が高まっていた。いずれも、再就職の時点で仕事と家庭の両立負担が重い場合に、再就職後に働き続けにくくなる影響が生じていた。
図表2 再就職時の仕事と家庭の両立負担と再就職後の離職に関する分析結果
注:***は1%、**は5%、*は10%で有意に相関のあることを示す。係数は偏回帰係数。リクルートワークス研究所「ブランクのある女性のキャリア3千人調査」のデータをもとに分析した結果による。
問題は環境の側にある
この分析から、「再就職時の仕事時間は必ず短くしなければならない」とか、「子どもが小さいうちは再就職を控えた方がいい」と単純に解釈することは避けるべきだろう。
働く女性全般の状況を見わたせば、企業の両立支援の充実などにより、出産後に育児休業を取得したのち復職する女性が増えている。育児休業を取得して離職せず働く女性の場合、子どもが小さいうちからある程度まとまった時間を働くことは、もうかなり可能なのだ。一旦離職した女性で特に、再就職時の子どもの年齢や働く時間が問題になるとすれば、そこには「子どもも含めて新しい生活に適応する必要がある」「働いていなかった時の家族内の役割分業をひきずりやすい」「離職期間があることで、過去の知識や経験が考慮されにくい」「小さい子どもを預かってくれる保育所を新たに確保することが難しい」など、再就職する女性特有の環境に問題があると考えられる。
このような環境を変えていくためには、保育など子どもが安心して日中を過ごせる環境の整備や、女性が働くことを始め、性別と結びついた役割意識の転換など、幅広い対応が必要だろう。だが、比較的すぐできる対応もある。例えば、過去の専門的な経験を活かせる短時間の仕事を増やすこと、最初は短時間だが、子どもの成長や本人の希望に応じて就業時間や仕事の範囲を広げられる仕事を創出することである。地方自治体のなかには、地元企業と連携してそのような仕事の創出に取り組むところも現れている。こうした仕事の創出は、再就職する女性の負担を軽減すると同時に、先々の仕事やキャリアの展望を持つ上で有効だろう。
(※)本連載の分析はWorks Discussion Paper Series No.28「再就職した女性の就業継続と仕事満足」をもとにしています。
(※1)樋口美雄・坂本和靖・萩原里紗(2016)「女性の結婚・出産・就業の制約要因と諸対策の効果検証:家計パネル調査によるワーク・ライフ・バランス分析」『三田商学研究』Vol.58、平尾桂子(2005)「女性の学歴と再就職」『家族社会学研究』17(1)など
(※2)リクルートワークス研究所「ブランクのある女性のキャリア3千人調査」は、3年以上の離職期間を経て再就職した経験がある25~54歳の女性(首都圏と地方政令都市在住、配偶者と子どもあり)を対象に行ったアンケート調査である。詳細は連載第1回(「再就職後のキャリアに関わる情報が不足している」)参照。