再就職前にどんな学びをしていると働き続けやすいか

2019年12月20日

女性の再就職支援の柱としての「学び直し」

結婚・出産、夫の転勤などの理由で仕事を辞めたあと、再就職する女性が増えている。しかし、再就職のあとにすべての人が仕事を続けている訳ではない。リクルートワークス研究所が行ったアンケート調査(「ブランクのある女性のキャリア3千人調査」 (※1))によれば、首都圏と政令指定都市に住み、3年以上の離職期間を経て再就職した女性のうち、4人に1人が調査時点で仕事を辞めていた(※2)。再就職したあと、自分らしいキャリアを作るためには「働き続ける」というハードルを越える必要があるのだ。

ここで気になるのは、「学び直し」の効果だ。女性の働く希望の高まりや人手不足の深刻化を背景に、政府は女性の再就職支援に力を入れている。その柱と位置づけられているのが、「学び直し」である。実際、2018年1月より、雇用保険から支給される教育訓練給付の受講条件が大幅に緩和され、出産・育児等で仕事を辞めた女性が給付金を受けやすくなっている。教育訓練給付金には、妊娠・出産等で離職し、教育訓練を受講できなくなった場合に、申請すれば離職から一定期間、引き続き給付の対象となる期間が設けられている。この期間がそれまでの最大4年から、最大20年にまで拡大されたのだ。さらに、学び直しの経済的負担を軽減するために、中長期的なキャリア形成に関わる学びをサポートする専門実践教育訓練給付についても、支給要件の緩和や支給率の引き上げが行われている。

しかし一言で学び直しと言っても、国家資格や民間資格の取得に関わるもの、オフィス事務やパソコン操作など、より汎用性の高い実務的知識・スキルの習得に関わるもの、履歴書の書き方・面接指導など就職活動に関わるもの、キャリアの棚卸しやネットワーク作りに関わるものなど、その中身は多様である。離職期間中にどのような学び直しを行っていると、再就職後も働き続けやすいのだろうか。

学びの種類によって、再就職後に働き続ける確率に差がある

まず、離職期間中の学びの有無によって、再就職後に働き続ける確率がどう違うのかを、視覚的に示した(図表1)(※3)。図表の縦軸は、再就職後に働き続ける確率(※4)、横軸は再就職後の年数である。仕事を離れていた期間の学びは、以下の3種類に注目している。

1.セミナーやスクールでの仕事に役立つ知識やスキルの勉強(以下、スクール型の学び)
2.参考書などを利用した、独学での仕事に役立つ知識やスキルの勉強(以下、独学による学び)
3. 大学や地方自治体が主催する講座への参加(以下、大学・自治体講座による学び)

図表1 離職期間中の学びの有無別にみた、再就職後に働き続ける確率

(a)スクール型の学びの有無別
図表1.jpg




(b)独学による学びの有無別
図表2.jpg







(c)大学・自治体講座による学びの有無別
図表3.jpg

注:縦軸の働き続ける確率は累積生存率(再就職から当期までの各時点で働き続けている確率の積)。100%=1.00で表記。

図表より、スクール型の学びについてみると、学びを行った人で行っていない人より働き続ける確率がやや高いものの、その違いはあまりはっきりとしたものではない。次に、独学による学びについてみると、やはり学びを行った人と行わなかった人の違いは小さく、再就職から約10年を過ぎると、学びを行わない人の方が働き続ける確率がやや高い傾向もみられた。最後に、大学・自治体講座による学びについてみると、再就職の直後から、学びを行った人で働き続ける確率がより高い傾向がみられた。

大学・自治体講座型の学びをした女性で、働き続ける人が多い

しかしこの結果だけでは、分からないことも多い。なぜなら、女性が再就職後に働き続けることと、大学・自治体講座による学びの双方に関わる要因が存在し、偽の関係性をつくりだしている可能性があるためだ。そこで、居住地、結婚・出産等で辞めた仕事、教育などによる影響をコントロールしたうえで、再就職後の離職が、離職期間中の学び直しや再就職時の仕事と家庭の両立負担などの変数と、どう関係しているのかを統計的な手法を用いて分析した。

図表2は、離職期間中の3つの学びについての分析結果を抜粋したものだ。図表中の係数は、プラスである場合に離職の確率を高めることを、マイナスである場合は離職の確率を下げることを意味している。統計的に意味のある結果がみられた場合にのみ、係数と影響を記した。
分析結果によれば、スクール型の学び、独学による学びは再就職後の離職と統計的に意味のある関わりを持たなかった。一方、大学・自治体講座による学びは、再就職後の離職に対し、有意にマイナスであった(図表2)。つまり、他の要因による影響をコントロールしたうえでも、大学・地方自治体講座による学びを行ったことは、再就職後の離職を抑制していると言える。

図表2 離職期間中の学びと再就職後の離職に関する分析結果

図表4.png

注:***は1%、**は5%、*は10%で有意に相関のあることを示す。係数は偏回帰変数。大学・自治体講座による学びのオッズ比は0.3475.リクルートワークス研究所「ブランクのある女性のキャリア3千人調査」のデータをもとに分析した結果による。学びの種類によって、得られるものが大きく異なる

なぜ、学びの種類によって、再就職後の離職との関わり方が違うのだろうか。その理由として考えられるのが、学びの種類によって、得られるものや再就職後の活用しやすさが違うことだ。スクール形式の学びや独学による学びで得られるものは、資格などの取得に関わる専門的な知識・スキルや、オフィスで活用しやすい実務的な知識・スキルなどが中心である。通常であれば、これらの知識・スキルの習得は生産性を高め、再就職後の労働条件を良くすることを通じて、再就職後の離職を抑制すると予想される。しかし現実には、再就職する際に多くの女性が働く時間の制約を抱えていることなどから、離職期間中に得た知識やスキルを活かせる仕事に就けるとは限らない。その結果、学び直しが再就職後の離職と関わりを持ちにくくなっているのであろう。

一方、大学のリカレント教育や自治体の再就職支援講座による学びでは、具体的な知識・スキルの習得というより、仕事と家庭の両立不安の軽減に関わる支援や、キャリアの棚卸し、ロールモデルや同様の経験を持つ女性とのネットワーク作り、就労体験などに力点が置かれることが多い。これらの学びを通じて得られるものは、自分の知識や経験、働く意味についての再確認や、相互に支えあえる関係性であり、再就職後の仕事の種類にかかわらず活用することが可能である。さらに、似たような経験や希望を持つ仲間とのネットワークは、仲間との支え合いを通じたサポートを提供し、再就職した女性が働き続ける可能性を高めていると考えられる。

(※)本連載の分析はWorks Discussion Paper Series No.28「再就職した女性の就業継続と仕事満足」をもとにしています。

(※1)リクルートワークス研究所は、2018年12月に、首都圏と地方政令都市に居住する、結婚・出産、育児、夫の転勤等で離職した後、現在に至るまでに3年以上仕事に就いていなかった期間を経て、仕事に就いた経験がある25~54歳の配偶者と子どもがいる女性を対象にアンケート調査を行った。本コラムの連載で用いるデータは、断りがない限りこの調査にもとづく。
(※2)調査時点で再び仕事を離れていた人のうち、内定ありの人、求職活動中の人は就業者とみなした。これらの人は、アンケート回答者の2%であった。
使用するデータは、結婚・出産等で離職した時点、再就職の時点、現在、前職を離職した時点(現在非就業者)などの情報を収集している。この情報を活かして個人ごとに再就職から離職(就業継続している人は現時点)までのデータ(パーソン・ピリオドデータ)を作成することで、時間の概念を反映した分析を行うことができる。本図表は、このデータをもとにカプラン・マイヤー法による累積生存率曲線を示したもの。
(※3)ここで言う「働き続ける確率」は、その時点で該当するグループの人が働き続けている累積の確率(累積生存率)である。具体的には再就職から当該時点までの各時点に到達した人が働き続ける確率の積として計算される。
(※4)再就職から離職までの時間差を考慮したうえで、分析には、結婚・出産等で離職した仕事、居住地、教育歴、現在年齢、再就職時の仕事のほか、離職期間中の学び、再就職時点の両立負担に関わる変数、再就職時点の夫の家事・育児への協力、再就職から現在までの仕事やキャリアについての相談状況などの変数を考慮したイベントヒストリー分析を行った(離散時間ロジットモデル)。