20年で「職業の選択肢」になったNPOを10倍増やすには?
NPO(民間非営利組織)にはボランティアのイメージがいまだに強く、職業として生計を維持し、この業界でキャリアアップしていこうと考える人は少ないかもしれません。しかし社会課題が次々と生まれる中、解決の担い手となるべきNPOは足りず、この業界で働く人を増やすことが、喫緊の課題となっています。
NPOと自治体、企業などとの連携をコーディネートする団体、一般社団法人RCFの藤沢烈代表理事に、NPOの現状や、働き手を増やすための方策などについて聞きました。
藤沢 烈 氏
一般社団法人RCF代表理事。1975年京都府生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、NPO・社会事業などに特化したコンサルティング会社を経営。東日本大震災を機にRCF復興支援チーム(現RCF)を設立し、被災した自治体や支援団体など関係者間の調整を担う。その後も愛媛県宇和島市や熊本県人吉市など、災害で被災した自治体の復興事業に、アドバイザーなどの立場で関わっている。内閣官房参事官補佐、文部科学省教育復興支援員、復興庁政策調査官等を歴任。新公益連盟事務局長。
NPOは引っ張りだこ、圧倒的に数が足りない
――1998年にNPO法ができて20年以上たちました。日本におけるNPOの現状について教えてください。
内閣府の調査によると、NPOの数は2014年ごろから、5万超で頭打ちの傾向です。しかし行政のニーズに対して、NPOの数は圧倒的に足りません。本当は今の10倍以上が、全国津々浦々にあってしかるべきだと、私は思います。
東日本大震災を機に、被災者の心のケアなどソフトの面でNPOが果たす役割が社会に広く認識されるようになりました。日本は震災後も多くの災害に見舞われ、高齢化・過疎化も進みました。さらに昨年以降、コロナ禍による失業や貧困などの問題も深刻化しています。
しかし自治体の多くは、こうした課題解決のための事業に取り組む人的な余裕がなく、事業を任せられるNPOも地域に存在しません。国から地方へ交付金などの形で、1兆円単位のお金が流れることもありますが、箱ものづくりなどの「ばらまき」に終わってしまうのです。
――NPOを増やすには、どうすればいいでしょうか。
高齢者がリタイア後に作るNPOも大事ですし、数も多いのですが、ボランティアの要素が強くなりがちです。雇用の受け皿となり、持続可能性の高い団体を増やすには、20~40代ぐらいの若い社会起業家を育てることが重要です。そのためには、社会起業家を志す人の教育と支援を担う「塾」のような場を増やさなければいけません。先輩の社会起業家がメンターとして寄り添い、資金調達の方法やビジネスモデルについて、アドバイスすることも有効です。
また2020年、クラウドワークスの吉田浩一郎CEOが中心となって、災害支援のNPOを立ち上げました。今後は、こうした企業内NPOを立ち上げる動きも広がると期待しています。成功したベンチャー起業家は、NPOを作って社会貢献に取り組むのが当たり前、という社会の空気もつくり出したいですね。
――事業を通じて社会課題解決を目指すベンチャーも増えていますね。
企業発のアプローチは歓迎すべきですが、テクノロジーを通じた社会変革やベンチャーの起業に若者の意識が偏り、NPOを志す人材が減っているようにも感じます。しかしテクノロジーでは解決できず、利益も生みづらい貧困などの社会課題に、企業が取り組むのは限界があり、NPOの存在が絶対に必要です。
寄付やふるさと納税もNPOの有力な資金源
――欧米では、成熟した寄付文化がNPOを支えている面もあります。日本の寄付文化は、今後広がるでしょうか。
クラウドファンディングなども定着する中、寄付文化は今後、さらに拡大すると期待しています。現在、100くらいのNPOが年間1億~2億円の寄付を集めていますが、こうした団体が10~20倍に増える可能性もあります。寄付金は、ドナーへの説明責任はありますが、行政の資金と違って特定の事業に使うなどの縛りが緩く、自由度が高いことが魅力です。
寄付とはやや違いますが、ふるさと納税の一部もNPOに渡り、財源として使われています。また休眠預金等活用法が成立し、10年以上金融機関の口座に眠っていた預金から、年間40億円程度を公益セクターが使えるようになりました。NPOを巡る資金循環の仕組みは、近年大きく変化しつつあるのです。
――行政からNPOへの資金の流れにも、変化は見られますか。
はい。かつて行政からNPOへ渡されるお金は多くの場合、期間限定の補助金で、人件費も含まれませんでした。それがこの10年間で、NPOに事業を委託して継続的に資金を渡す形に移行し、持続可能性がかなり高まりました。しかし事業を請け負えるNPOが少ないため、行政からNPOへの資金の流れが細ってしまい、そのため団体が余計に増えづらくなるという悪循環が起きています。
また、NPOをボランティア団体と混同する行政担当者や、過激な市民運動と勘違いして嫌悪感を抱く政治家もまだ多く、特に地方に行くほどこの傾向が強まります。資金循環を円滑にするには、NPOをもっと理解してもらい、不信感を払拭する必要もあると感じます。
中小企業より高賃金のNPOが続々と誕生
――NPOで働きたい、という人は増えているのでしょうか。
内閣府の調査によると、NPOの半数以上は、職員5人以下の団体です。業界全体の職員数は10万~20万人といったところでしょうか。社会課題の解決を仕事にしたいと望む若者は増えていますが、NPOの絶対数が少なすぎる上、人材の採用と育成ができる団体はさらに限られ、「狭き門」になっているのが実態です。
NPOに関心はあっても、ロールモデルが周りにいなくて具体的なイメージがつかめない、転職や定着の支援機関が少なく、失敗しても誰も助けてくれないといった理由から、転職をためらう人もいます。多くの人に参入してもらうには、人材と団体とのマッチングの場や、転職後の人材をフォローする仕組みを整える必要があります。
――NPOで家族を持って食べていけるかという、待遇面の不安も強いのでは。大学生の約5割が奨学金を受給している中、若者を引き込むには、一定以上の賃金も不可欠です。
社会変革型のNPOが集まる「新公益連盟」(新公連)には、業界内でも比較的雇用吸収力が高く、人材育成の機能も備えた100団体ほどが加盟しています。NPO全体の一般職員の平均年収は260万円程度ですが、新公連加盟団体の一般職員の年収は、約339万円。中小企業の年収292万円を上回り、職業の選択肢には十分入るのではないでしょうか。
ただ大企業の会社員出身などのハイキャリア人材への処遇はまだまだ不十分で、業界としても課題となっています。RCFの職員が、自治体の復興事業などで大手企業の社員と協働すると、能力的にも仕事内容も変わらないのに、両者の収入が倍以上違うこともしばしばです。
NPOと中小企業の平均年収の比較
出所:新公益連盟「ソーシャルセクター組織実態調査2017」
――今、企業で高収入を得ている人材にNPOに関わってもらうには、どうすればいいでしょうか。
新公連の調査によると、NPOは比較的残業や労働時間が短く、人間的な働き方が浸透しています。人が少ない分、若手でも大きな仕事を任されることが多く、早くからスキルが身につきますし、自分の仕事が社会を動かしている、という手ごたえも得られます。また初職でRCFに入った人はその後、いろいろな団体の事務局長やNPOリーダーとして活躍しており、業界内でのキャリアアップの道も開かれています。
大企業のような高収入を得ることができなくとも、NPOの社会変革というミッションや労働環境、自分の成長可能性に、魅力を感じる人もいるのではないでしょうか。
――兼業、副業でNPOに関わることについてはどうお考えですか。
企業の兼業、副業解禁は、企業人がNPOに参加する絶好のチャンスです。ひとまず業務委託などの形で関わり、専業で働けそうだと思えば転職してもいいし、兼業、副業のまま続けてもいい。NPOには地方自治体のサポートなど、オンラインでできる仕事も多いので、リモートワークの普及も追い風になると期待しています。
学生インターンや企業からの出向……若者とNPOの接点を増やす
――NPOを志す人材を育てるために、最も大事なことは何でしょうか。
企業からの出向や学生インターンとして、若いうちに1~2年、NPOで経験を積んでもらうことです。その後民間セクターに就職したとしても、転職や副業の選択肢として、常にNPOを考えるようになると思います。また実際に転職やプロボノなどの形で再度、NPOに参加した時も、勝手が分かっているので、スムーズに仕事を進められます。
大学が地域のNPOと協働して、社会貢献の事業に取り組むことも、将来のNPO予備軍の育成につながるでしょう。学生もボランティアなどとして、障害者支援や子ども宅食など、実践的な活動に関わることで、講義や研究では得られない経験を積むことができます。
――NPOから企業への人の流れを作り出すには、どうしたらいいでしょうか。
企業のCSRやSDGsなどの部署に、NPO出身者を登用することなどが考えられます。
日本企業の社会貢献部門には、ジョブローテーションで門外漢の社員が座り、数年で異動するケースがほとんどです。しかし企業は投資家、消費者、従業員といったステークホルダーから、本質的な社会課題にどこまで向き合っているかを厳しく問われるようになりました。これからの企業は、SDGsもダイバーシティもESG投資もと、総花的に薄く手を付けて「取り組んだふり」をしていては生き残れません。専門人材を活用し、トップのビジョンを明確にした上で、それぞれの課題に本気で向き合うべきでしょう。
聞き手:中村天江
執筆:有馬知子