SHRM2016年アニュアルコンファレンス参加報告(1)

世界最大の人事イベント

2016年11月01日

item_trend_shrm1_column_Trend03_hall-1.pngウォルター E ワシントン コンベンション センター

SHRM(Society for Human Resource Management、 全米人材マネジメント協会)のアニュアルコンファレンスが、2016年6月19日から4日間ワシントンDCで開催された。基調講演、メガセッション、並行セッションなど合計200以上のプログラムが行われるのと同時に、600以上の組織による展示が行われ、会場には世界各国から1万5,000人以上の参加者が集まり、非常に国際色豊かだった。コラムでは3回にわたってその内容を紹介する。

 

SHRMとは
米国を代表する人事担当・関係者の協会で世界最大。28万5,000人の会員は米国を中心に世界165カ国に在住している。米国企業の人事に従事する人々の多くはSHRMが認定する人事資格を有しており、SHRM会員としてコンファレンス参加者の大多数を占める。

コンファレンスのテーマは「ブレイクスルー(現状打破)」

オープニングセッションでは、経営危機にあったフォードを復活させたフォード前CEOのアラン・ムラーリー氏とテレビ司会者のマイク・ロウ氏が、自らの体験をもとにスピーチしたが、ロウ氏のブレイクスルー体験は会場を圧倒した。汚い下水管の中に入る下水管補修の仕事の取材は視聴者に強いインパクトを与え、それをきっかけに、それまで当たり障りのなかった番組を、ふだん日の目を見ない3Kの仕事を自ら体験して紹介する人気番組へと変更し成長させた。誰にもブレイクスルーをする機会は必ずあり、そのときに勇気を出して挑戦することが前進や変革につながるのだという。

ボーナス支給や性別移行支援など、多様性向上に向けた各社の取り組み

SHRM のセッションは多岐にわたり、雇用労働法関連、人材獲得戦略、人事戦略、グローバル人材戦略、福利厚生といったテーマもある。多様性を題材にしたものは数年前から人気があり、今回も複数のセッションが組まれていた。その中からSodexoとインテルの多様性戦略に関するセッションを紹介する。

<Sodexo>
米国内外の医療施設や学校で清掃サービスなどを提供するSodexoは、世界で18番目に大きい雇用主であり、132カ国の国籍、43万人の従業員を抱えている。ジェンダー、障害、LGBT、世代、文化・出身といったあらゆる面でのダイバーシティ&インクルージョンが奨励されるべきというアナンド副社長のスピーチは説得力があった。同社は長い間、女性やマイノリティのための進歩的な対応策をとることができなかった。しかし、80カ国の顧客に応えるためには文化的な機動性が必要だと考え、10年前に大々的なダイバーシティ&インクルージョン推進策を敢行した。トップダウンで公約を掲げ、メンタリング、ジェンダーイニシアティブなどを取り入れるとともに、多様性が向上するごとに役員や管理職にボーナスを支給するインセンティブを導入して、社内における多様性への理解を浸透させていった。その結果、顧客維持率が12%上昇、組織的成長率は13%上昇、粗利益は23%上昇した。一連の研究では、男女平等雇用の実現がGDP上昇に貢献することや、ダイバーシティの成功と業績が比例関係にあることなどが実証されている。

<インテル>
インテルのセッションはトランスジェンダーに特化したものだった。同社では優秀な人材を確保、維持し、多様性のある就業環境を形成することを目的に積極的に対応策を講じ、社内で教育訓練を実施している。トランスジェンダーの権利を守るため、カミングアウトした時点から万全の体制を整え、性別の移行段階では手術、投薬治療、ホルモン治療、セラピーなどの点でも手厚い支援を行っている。また、個人の要望はそれぞれ異なり、カミングアウトの時期や範囲には慎重な個別的考慮が必要であるが、職場内では宗教上の理由でトランスジェンダーを受け入れられないという社員がいたり、男女どちらのトイレを使用するかで揉めたりするなどトラブルが多発し、苦労がうかがわれた。マクロの政策ではミクロの問題を100%解決するのは難しい。ただ、米国ではLGBT労働者への不平等や差別は違法であり、企業には対応策や支援策を講じる法的責任、社会的責任がある。トランスジェンダーに特別な支援を行っている会社は少数だが、社会的要請と人材獲得競争の激化が相まって、今後は増加していくとみられる(図1)。

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12月施行の法改正で時間外労働賃金の適用基準が2倍に

2014年、オバマ大統領が連邦公正労働基準法の時間外労働規則を改正する大統領命令に署名した後、2016年5月にようやく詳細が決定し、12月1日から改正規則が施行されることとなった。コンファレンスではこれに関連したセッションが開かれ、ロビーでも「相談所」が設置されていた。

item_trend_shrm1_column_Trend03_FLSAConsultationBooth-1.pngロビーでの改正規則「相談所」に立ち寄る参加者

連邦公正労働基準法上、働く人はすべて労働者とみなされる。つまり、週40時間を超えると時間外労働規則にもとづき、時間外労働賃金が支払われる。規則には例外があって、役員、管理職、専門職、コンピューター関連専門職、営業職、および高額報酬労働者は、時間外労働規則の適用から外れる(いわゆる「ホワイトカラー・エグゼンプション」)。今回の主な改正は、この適用除外基準の改定である。

役員、管理職、専門職のうち時間外労働規則の適用が除外されるのはこれまで週給455ドルまたは年収2万3,660ドル以上の労働者だったが、この基準が週給913ドルまたは年収4万7,476ドルに引き上げられた。また、高額報酬労働者の適用除外基準は、週給1,924ドルまたは年収10万ドルから、週給2,577ドルまたは年収13万4,004ドルに引き上げられた(図2)。この規則は2020年1月1日以降3年ごとに自動的に改正され、次回更新時には役員、管理職、専門職の時間外労働規則の適用除外基準は5万1,000ドル以上になる予定である。

この改正により、これまで時間外労働規則の適用を除外されていた労働者のうち約420万人が適用を受けることになると予測されている(連邦労働省試算)。企業は該当する労働者を、適用を受ける労働者と分類し直す(時間外労働が発生したときには時間外労働賃金を支払う)か、新たな適用除外基準にまで賃金を引き上げるか、いずれかの対応をしなければならない。基準はこれまでの2倍以上になり、企業への影響は非常に大きい。ただ、これまで社員を年収2万4,000ドル前後で名目上管理職として採用し、時間外労働規則の適用から外していたとすれば、その会社の労働条件は良いとは言えない。今回の改正により米国版「名ばかり管理職」の労働条件が少しは改善されると期待できる。

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SHRM参加報告第2回目では、ギグ・エコノミーと個人事業主にまつわる法的リスクを扱ったセッションに着目する。

グローバルセンター
Keiko Kayla Oka(客員研究員)
石川ルチア

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