人材の定着、配置、育成を最適化するタレントマネジメントテクノロジー8領域
タレントマネジメントテクノロジーは、従業員のエンゲージメント、配置、評価・測定、育成を実現するシステムである。世界の「タレントマネジメントテクノロジー」コラムでは、「タレントマネジメントテクノロジーマップ1」に掲載されている19領域の中から8領域に着目し、主要なサービス事業者と製品サービスの特徴、ビジネスモデルについて紹介してきた。
最終回にあたる本稿では8領域のプラットフォーム(以下、PF)の特徴やメリットなどの概要をとりまとめた。
- エンゲージメント(オンボーディング、従業員リスニング、行動的ウェルビーイング)
「オンボーディングPF」は、新入社員の入社手続きのデジタル化や定型業務の自動化を行い、エンゲージメントを高める。「従業員リスニングPF」は、サーベイなどで従業員からのフィードバックを継続的に収集する。「行動的ウェルビーイングPF」は、アプリや対面でコーチングやセラピーのセッションを提供する。 - 評価・測定(労働需要&要員計画、労働力ベンチマーキング&アナリティクス、従業員の生産性向上)
「労働需要&要員計画PF」は、社員の要員計画、プロジェクトの要員計画、店舗の要員計画と人材の最適な配置をサポートする。「労働力ベンチマーキング&アナリティクスPF」は、他社と自社の人材データを比較分析したり、社内のシステムに分散する人材データを一元化する。「従業員の生産性向上PF」は、従業員のPC利用時間やソフトウエア、ウェブサイトの利用状況を可視化し、ゲーミフィケーションのしくみで生産性を高める。 - 育成(キャリア開発&サクセッションプランニング、社内タレントマーケットプレイス)
「キャリア開発PF」は、従業員にアプリやPC経由でコーチングセッションを提供する。「サクセッションプランニングPF」は、次世代リーダー候補者の選出をサポートする。「社内タレントマーケットプレイス」は、スキルや興味に基づいてAIが社内の空きポジションやプロジェクト、メンターと従業員とのマッチングを行う。
【図表】2023-2024タレントマネジメントテクノロジーマップから紹介した8領域
ステージ | 領域 | 機能の特徴 | メリット |
---|---|---|---|
エンゲージメント | オンボーディング |
|
|
従業員リスニング |
|
|
|
行動的ウェルビーイング |
|
|
|
評価・測定 | 労働需要&要員計画 |
|
|
労働力ベンチマーキング&アナリティクス |
|
|
|
従業員の生産性向上 |
|
|
|
育成 | キャリア開発&サクセッションプランニング |
|
|
社内タレントマーケットプレイス |
|
|
出所:リクルートワークス研究所
右肩上がりで拡大するタレントマネジメントテクノロジーマーケット
タレントマネジメントテクノロジーの市場は右肩上がりで拡大している。DataHorizzon Researchによると、2022年時点で世界のタレントマネジメントソフトウエアの市場規模は79億ドルであり、2032年までに239億ドルに達すると予測されている。
2023年12月にGartnerが米国企業の人事リーダー113人を対象に実施した調査「HR Investment Trends for 2024」によると、企業の28%が「タレントマネジメントの予算を増やす予定」と回答していた。特にパフォーマンス管理、従業員体験の向上と成長、リーダーシップ開発の強化に焦点を当てているようである。
Gartner人事施策調査部門ディレクターのハンネ・ニーバーグ氏によると、企業が人手不足に対処するためには、「スキルギャップの解消や従業員の成長、従業員体験の向上につながる社内タレントマーケットプレイスやAI実装のスキル管理ツールなどへの投資を増やす必要がある」という。
投資家も、従業員の成長や従業員体験の向上をサポートするテクノロジー領域に注力している。WorkTech by LAROCQUEによると、2023年のベンチャーキャピタルによるHRテックへの出資額は、世界全体で48億ドルに達した。出資件数は254件であった。このうち、タレントマネジメントへの出資額は約7億8000万ドル(68件)で、ラーニングやコーチングなどが多くの出資を受けている分野であった。
各領域のサービス事業者が拡充する機能
多くのオンボーディングPFに共通する機能の1つは、入社手続きに関連する業務フローの自動化である。新入社員や従業員へのタスクの依頼や資料の配信などを自動化することで、新卒者などの大量採用時でも業務を効率的に処理できる。
従業員リスニングPFでは、従業員サーベイの結果を基に、具体的なアクションをマネジャーに提案する機能が多くみられた。
また一部の労働ベンチマーキング&アナリティクスPFでは、データに慣れていなくても、対話形式で求めるデータを簡単に探せる生成AI機能を実装し、他社との差別化を図っていた。
会社を取り巻く環境や働き方の変化、労働力人口の減少が進むなか、企業は人材の確保・育成・配置を強化する必要がある。上記のようなタレントマネジメントテクノロジーを活用して従業員のスキルや要望を把握し、多様な個が能力を最大限に発揮できる環境を整えることで、自社の成長を促進することができるだろう。
グローバルセンター
杉田真樹(リサーチャー)