企業内の人材データを集約、組織課題を可視化する──労働力ベンチマーキング&アナリティクスプラットフォーム

2024年03月08日

労働力ベンチマーキング&アナリティクスの代表的なサービスTalent Tech Labs(TTL)は、タレントマネジメントテクノロジーマップの19領域の中で、下記3つのサービスを「ピープルアナリティクス」と位置付けている。いずれも、社内に分散する従業員の属性データ(年齢や性別)や行動データ等を収集・分析し、客観的な情報を基に採用・配置・育成・評価・報酬など人事領域におけるさまざまな施策の実行や意思決定をサポートするシステムである。

労働需要&要員計画(Demand & Workforce Planning)
・ ペイエクイティ&インセンティブ報酬管理(Pay Equity & Incentive Pay Management)
・ 労働力ベンチマーキング&アナリティクス(Workforce Benchmarking & Analytics)

労働需要&要員計画は、将来的に必要とされる人員数や人材の構成(職種やスキルなど)を見積もる要員計画と最適な人材配置をサポートするためのシステムである。
ペイエクイティ&インセンティブ報酬管理は、顧客管理システムのデータを収集・分析し、営業職などの従業員の給与、歩合給、オプションの支給額の計算や管理業務を自動化するシステムである。今回は労働力ベンチマーキング&アナリティクスプラットフォーム(以下、PF)を紹介する。

「労働力ベンチマーキング」とは、企業が同業他社や他業種の企業の従業員の男女比率、年齢層、勤続年数、昇進率、退職率、給与水準を検索し、自社のデータと比較・分析して自社の改善点を明らかにするためのシステムである。
「労働力アナリティクス」とは、全社や部門別の従業員構成(性別や人種、年齢層、年収)、定着率、従業員のエンゲージメントなど、社内のシステムに分散する人材データを収集・分析するシステムである。組織の課題を可視化し、人材配置の最適化や人件費の適正化、多様性の向上などを図ることができる。システム上での従業員間のコミュニケーションや協働の実態を示すデータを自動収集するシステムもある。

労働力ベンチマーキング&アナリティクスPFの機能は下記の4つに大別される。
1. 人材データの一元管理
2. 人的資本レポートの作成
3. ベンチマーキング
4. 社内コミュニケーションや協働に関するデータの自動収集

人事にとってのメリット

公平・公正な意思決定
さまざまな人材データを収集・分析できるため、客観的なデータに基づいた公平・公正な意思決定が可能となる。

情報開示義務に対応
人的資本レポートの作成機能を活用し、人的資本の情報開示の要求に対応できる。

改善点の把握
ベンチマーキング機能により、自社のデータを市場や同業他社のデータと比較し、改善点を見つけることができる。

リスクを把握し未然防止
従業員間のコミュニケーションや協働に関するデータを収集することで、リモートワークをする従業員のバーンアウトや孤立、コミュニケーション不足などが可視化され、事前にリスクを把握し対策を講じることができる。

各事業者のサービス概要

各事業者のサービス概要は下記のとおりである。

  • Crunchr、One Model:ピープルアナリティクスPF。企業は部門や雇用形態別の従業員の人数、多様性、男女比率、離職率、年収、エンゲージメントの高さを把握できる。
  • People Insight:ピープルアナリティクスPF。企業は採用の成果、離職の原因、定着率の向上につながる要因を把握できる。ベンチマーキング機能では、業界の給与水準と自社の報酬の比較・分析もできる。
  • Knoetic(旧Twine Labs):ピープルアナリティクスPF。企業は全社や部門別の従業員構成・離職率・報酬、各従業員の昇給・昇格・異動履歴や業績評価を把握できる。
  • HCMI:労働力アナリティクスPF。企業は従業員の人数や構成、年収、従業員1人当たりの売上高、離職率、エンゲージメントスコアを把握できる。ISO30414(人的資本に関する情報開示の国際ガイドライン)に準拠した人的資本レポートの作成機能もある。ベンチマーキング機能では、自社の人的資本ROI(投資利益率)を測定し、1万社以上の優良企業と比較・分析することも可能である。
  • LaborIQ:給与のベンチマーキングPF。企業は約2万職種と地域別の給与額の相場を把握できる。
  • SWOOP Analytics:デジタルワークプレイスアナリティクスPF。Microsoft 365、SharePoint、Microsoft Teams、Viva Engage、イントラネットなどシステム上で行われている従業員間のコミュニケーションや協働のパターンを分析する。

サービス例

1. Visier

ピープルアナリティクスPF。データ一元管理の機能では、ATS(応募者追跡システム)、HCM(人事管理システム)、パフォーマンス管理システム、給与管理システムなどから、従業員の属性(年齢・性別・人種・年収・勤続年数)、スキル、人事評価、学習状況、人事異動などの人材に関するデータを自動的に収集・分析し、視覚的に表示する。企業の人事や上級幹部は、生成AIに質問してデータを簡単に検索できる。上級幹部の男女比や障がいのある従業員の割合、男女間の賃金格差といった、ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)で情報開示が義務付けられている情報をまとめ、人的資本レポートを作成することもできる。
ベンチマーキングの機能では、約20万社の顧客の人材データやBLS(米国労働統計局)など政府の統計データを収集する。企業は同業他社や他業種の企業の従業員の男女・人種比率、年齢層、在職年数、昇進率、退職率を検索できる。
さらにGSuite、Office 365、Microsoft Teams、Slack、Zoomなどのツール上での従業員間のコミュニケーションや協働に関するデータを収集・分析する機能もあり、従業員の協働スキルや周りからの評価、バーンアウトのリスクなどを可視化する。マネジャーは新入社員がチーム内にどの程度馴染んでいるかも把握できる。人事は従業員の孤立や離職リスクが高い部署を特定できる。
顧客は、Ford、Panasonic、Bridgestone、eBay、Standard Bank Group、Amgenなど。

2. Humanyze

労働力アナリティクスPF。電子メールやMicrosoft Teams、カレンダーから従業員の残業時間や、マネジャーと会話した時間、会議の時間などのメタデータを収集・暗号化し、リモートワークする従業員の働き方や協働の傾向を明らかにする。マネジャーは、メンバーと十分にコミュニケーションをとれているかや、会議が多すぎてチームの業務の妨げになっていないか、メンバーが誰と密にコミュニケーションをとっているかがわかる。たとえば、人事は離職率の高いチームや部署のメンバー間のコミュニケーションや協働の頻度を調べ、改善策を講じることができる。
顧客はBank of America、NASA、米陸軍など。

ビジネスモデル(課金形態)

企業がサービス事業者にシステム利用料を支払う
企業がサービス事業者に人材データの一元管理やベンチマーキングに役立つシステムの利用料を支払う。料金体系はサービス事業者によって異なり、一部の事業者は従業員数や利用できる機能の数に応じた数種類の料金プランを設けている。

Visierのビジネスモデル図

今後の展望

データドリブンな人事戦略を取り入れる企業の増加や人的資本への関心の高まりなどにより、労働力アナリティクスPFの市場は拡大している。Fortune Business Insightsによると、世界の労働力アナリティクスPFの市場規模は、2030年には47億8000万ドルになると予測されている。
人手不足により、企業は人材だけでなく、AIやロボットも自社の重要な労働力の一部として捉えるようになり、活用が進むだろう。この動きを受けて、ベンチマーキング&アナリティクスPFは、いずれ(もしくは近い将来)社内で利⽤するAI・ロボットについてのデータも収集し、⼈材・AI・ロボットを含むすべての労働⼒の配置を最適化できる機能が追加されるだろう。

グローバルセンター
杉田真樹(リサーチャー)

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