AIが従業員サーベイの結果を分析し、改善策を提案する──従業員リスニングプラットフォーム

2024年02月02日

Employee Listening代表的なサービス従業員リスニングプラットフォームは、人事が主にエンゲージメントサーベイ、パルスサーベイ、ライフサイクルサーベイ、従業員クラウドソーシング、行動リスニングといった下記の5種類の調査手法を用いて従業員から継続的に収集したフィードバックを基に、従業員の要望や課題を把握し、従業員体験(EX)を向上させるシステムである。

〈エンゲージメントサーベイ〉
エンゲージメントサーベイは、会社、仕事、チームに対する従業員のエンゲージメント(信頼度や愛着)を測定する調査である。

〈パルスサーベイ〉
パルスサーベイは、オフィス回帰、DEI、職場での心理的安全性、従業員のメンタルヘルス、大規模なレイオフなどのトピックについて短期間で繰り返し実施する、従業員の意識調査である。

〈ライフサイクルサーベイ〉
ライフサイクルサーベイは、従業員が入社後30・60・90日目、勤続3・10年目、昇進・昇格、人事異動、退職時などの節目に行う調査である。たとえば新入社員からはマネジャーやチームメンバーとの関係性、中堅社員からはキャリア形成に関する希望、退職者からは退職理由や職場環境の問題点などのフィードバックを収集する。

〈従業員クラウドソーシング〉
従業員クラウドソーシングは、さまざまなトピックについて従業員からアイデアや意見を広く収集する手法である。たとえば、従業員に「働きやすい職場にするために必要なことは何だと思いますか」と質問し、従業員は自由記述形式で回答する。次にほかの従業員のコメントが2つ提示され、どちらがよいと思うか投票を行う。

〈行動リスニング〉
行動リスニングとは、従業員の行動データを自動収集し、EXの現状把握と改善を図る手法である。AIがSlackなどのコミュニケーションツール上でマネジャーがメンバーに「あなたはどう思う?」といった問いかけをどの程度行っているかを自動測定し、結果に基づいて「もっとメンバーに意見を求めましょう」などアドバイスを提供する。

タレントマネジメントテクノロジーマップにある従業員リスニングプラットフォームの主な機能は下記の4つに大別される。

  • サーベイの実施
    • サーベイの作成や自動配信
    • サーベイへの回答率を上げるポイント付与
  • サーベイ結果の分析
    • AIによるコメントの自動要約
    • AIによるセンチメント分析(テキストデータを基に従業員の感情を分析する)
    • AIによるテキスト分析(全従業員のフィードバックから最も話題となっているトピックを抽出する)
    • ワードクラウド(テキストデータの中の単語を出現頻度に合わせて大小をつけて視覚化する)
    • ベンチマーク(業界平均や従業員エンゲージメントの高い優良企業との結果の比較する)
    • ダッシュボード(データを図表や数値で表示する)
    • 離職率の分析(全社や部署別)
    • 離職やパフォーマンス低下の予兆を検知するアラート
  • AIによる改善アクションの提案
  • 行動リスニング

人事にとってのメリット

サーベイ実施後のアクションの促進
調査結果に基づいた改善策が提案され、どのようなアクションを起こせばいいかわからないというマネジャーの課題を解決できる。

エンゲージメントや会社への信頼度の向上
従業員クラウドソーシングでは、全従業員が会社の重要な意思決定プロセスに関わることができるため、エンゲージメントや会社への信頼度が向上する。また、従業員がどのような意見やアイデアを持っているのかがわかる。

各事業者のサービス概要

各事業者のサービス概要は下記のとおりである。多くのサービス事業者はEX向上全般をサポートするシステムであり、ツールの1つとして従業員リスニングを提供している。

  • Cooleaf:従業員体験管理プラットフォーム。エンゲージメントサーベイとレコグニション&リワード(報酬&称賛)の機能を統合する。サーベイの実施、アンケート回答者へのポイントの付与、センチメント分析、改善アクションの提案などの機能を備える。
  • Workleap Officevibe:従業員体験管理プラットフォーム。エンゲージメントサーベイ、レコグニション、パフォーマンス管理の機能を統合する。サーベイの実施やAIによるデータの自動分析などの機能がある。
  • Quantum Workplace:従業員の活躍を促進する従業員サクセスプラットフォーム。エンゲージメントサーベイとパフォーマンス管理の機能を統合する。サーベイの実施、コメントの自動要約や関心度の高いテーマの抽出、センチメント分析、ダッシュボード、改善アクションの提案機能を備える。
  • Culture Amp、Energage、Workday Peakon Employee Voice、Talmetrix、Microsoft Viva Glint、Sparkbay、TINYpulse、Motivosity:従業員体験管理プラットフォーム。サーベイの実施、センチメント分析、ワードクラウド、ベンチマーク、改善アクションの提案、ダッシュボード、離職やパフォーマンス低下の予兆検知などの機能がある。
  • Qualtrics:従業員や顧客の体験管理プラットフォーム。従業員のエンゲージメントおよびライフサイクルサーベイや180度・360度評価の実施、センチメント分析、改善アクションの提案などの機能を備える。
  • Qlearsite:ピープルアナリティクスプラットフォーム。サーベイの実施、センチメント分析、テキスト分析などの機能を備える。

サービス例

1. Perceptyx

従業員サーベイおよびピープルアナリティクスプラットフォーム。エンゲージメントおよびパルスサーベイの「Ask」、ライフサイクルサーベイの「Sense」、従業員クラウドソーシングの「Dialogue」、行動リスニングの「Cultivate」の4つの製品で構成されている。
「Ask」と「Sense」では、質問ライブラリを活用して数分でサーベイを作成・自動配信し、ダッシュボードでデータを確認できる。マネジャーへの改善アクション提案やベンチマーク、離職予兆検知の機能もある。
「Dialogue」では、作成したサーベイに全従業員の意見やアイデアを自由記述で回答させ、投票で絞り込む。人事や経営幹部はダッシュボードで投票の多い回答順に確認できる。
「Cultivate」では、マネジャーの同意のもと、AIがSlack、Microsoft Teamsなどコミュニケーションツール上でのマネジャーのリーダーシップやマネジメントに関する行動データを自動収集、分析し、改善アクションを提案する。
顧客は、Hitachi Human Capital Group、PepsiCo、Comcast、Dell Technologies、FedEx、Citi、Whole Foods、Norton Healthcareなど。

2. Worklytics

ピープルアナリティクスプラットフォーム。AIがZoom、Google Workspace、Office 365、Slack、JIRA、GitHubなどのツール上での従業員の行動データを自動収集し、匿名化や集計を行う。同僚との1週間の交流回数や1on1の頻度、会議の回数、1日の勤務時間などを基に、孤独やバーンアウトのリスクが高い従業員の割合を示す。
顧客は、Uber、Panasonic、Telefónica、WeWork、Gallagher Bassett、Glovoなど。

ビジネスモデル(課金形態)

企業がサービス事業者にシステム利用料を支払う
企業がサービス事業者に従業員の意見や行動データを収集するシステムの利用料を支払う。料金体系はサービス事業者によって異なり、一部の事業者は従業員数に応じた数種類の料金プランを設けている。月額利用料金は1人あたり3ドルからである。

Perceptyx ビジネスモデル図

今後の展望

人材の確保・定着を図るために従業員リスニングプラットフォームを利用する企業が増えており、マーケットは拡大傾向にある。複数の大手HCM(人的資本管理)もM&Aで従業員リスニング機能を強化している。
従業員リスニングプラットフォームは、従業員の働き方やニーズの変化に合わせ、従来のサーベイに加えて従業員クラウドソーシングや行動リスニングなど新たな調査手法を活用している。今後AIの発展により、行動リスニングのように従業員体験のデータを間接的に収集する機能が増えるだろう。

グローバルセンター
杉田真樹(リサーチャー)

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