従業員の稼働状況のモニタリングやゲーミフィケーションでモチベーションを向上──生産性向上プラットフォーム

2024年03月27日

Employee Productivityの主なサービス事業者従業員の生産性向上プラットフォーム(以下、PF)は、従業員の働きぶりを客観的に把握し、生産性を向上させるためのシステムである。従業員のPC利用時間やソフトウエア、ウェブサイトの利用状況を可視化する。さらにキーボードやマウスの操作、PC画面のスクリーンショットを自動記録する機能も備えている。
マネジャーはダッシュボードを通じて、従業員がどのタスクにどれだけ時間を費やしているかを把握できる。業務過多の従業員には業務量の調整を行ったり、単純作業に長い時間を費やしている従業員にはほかの従業員にそのタスクを振り分けて、より付加価値の高い業務に専念させるなどの対策を講じ、生産性を上げることができる。また、従業員自身も自分の作業状況を把握することで、時間管理を意識しながら業務効率を高めることができる。
企業は、リモートワークをする従業員の稼働状況や進捗が見えにくいという課題を解決するために、このようなシステムを導入している。
また、営業やコールセンターなどの従業員のパフォーマンス管理にゲーミフィケーションの仕組みを取り入れ、KPIの達成度を可視化し、ポイントを付与することでモチベーションを高めることもできる。

生産性向上PFの主な機能は下記の7つに大別される。

  1. タイムトラッキング:ソフトウエアやウェブサイトの利用状況を規則的に記録し、どの作業にどれくらいの時間がかかっているかを測定する
  2. 監視機能:キーボードやマウスの操作、PC画面のスクリーンショットを自動的に記録する
  3. ソフトウエアやウェブサイトの自動分類:利用するソフトウエアやウェブサイトを生産性レベルに応じて自動的に分類する
  4. 従業員の生産性をスコア化:従業員の生産性を数値化する
  5. パフォーマンス管理:KPIやタスクの達成状況をリアルタイムで数値やグラフで表示する
  6. ゲーミフィケーション:KPIやタスクの達成度に基づいて上位者を表示するリーダーボードやポイントの付与を行い、従業員のモチベーションを高める
  7. ピアボーナス:従業員同士が互いの仕事の成果や貢献を賞賛するコメントを送る

人事にとってのメリット

稼働状況の把握
タイムトラッキング機能を利用して、従業員の稼働状況や業務の進捗を客観的に把握できる。

さぼりの防止
監視機能を活用することで、従業員は適度な緊張感を持ち、怠けたい気持ちを抑えることができる。

モチベーションの向上
リーダーボードに上位者を表示し、従業員同士が目標達成に向けて競い合うことを促し、ポイントを付与したりすることで、仕事に対するモチベーションを高めることができる。

業務効率の向上
ピアボーナスの仕組みにより、お互いの仕事を評価する文化が広まり、従業員同士の連携が強化され、全体の業務効率が向上する。

各事業者のサービス概要

各事業者のサービス概要は下記のとおりである。

  • enaible:生産性モニタリングPF。タイムトラッキング機能ではアルゴリズムが、従業員が使用しているソフトウエアやウェブサイトを基に、従業員がいつ何に取り組んでいるかを自動認識する。そして作業内容をコラボレーションやクリエイティブな作業、事務作業、会議やメールの閲覧・作成などに分類し、費やした時間をグラフや数値で示す。タスクの切り替えが多すぎて集中力の低下がみられる時間や、1つの業務に集中している時間も分析し、これらのデータを基に、従業員の生産性を0から300のスコアで評価する。
  • Hubstaff:生産性モニタリングPF。タイムトラッキング機能に加えて、キーボードやマウスの操作を基に10分毎に従業員のアクティブ度合いを示したり、PC画面のスクリーンショットを自動で記録したりする機能もある。
  • WorkMeter:生産性モニタリングPF。タイムトラッキング機能では、従業員のPC上での活動データを自動収集し、PC作業や会議・電話・顧客サービスといったオフラインでの業務の時間を分析する。利用したウェブサイトを記録する機能もある。
  • Centrical:パフォーマンス体験PF。パフォーマンス管理の機能は、顧客管理やコールセンターのシステムと接続し、営業やコールセンターの従業員のKPIをリアルタイムで表示する。ゲーミフィケーション機能では、KPIの達成状況や、問題解決に役立つアドバイスやナレッジをチームメンバーと共有した回数に応じて、従業員にポイントを付与する。ポイントはStarbucksやNike、Uberなどのオンラインショップやサービスで利用できる。従業員はMicrosoft Teams上でボットに質問し、自分のKPIやポイント数を確認できる。上司や同僚が従業員に称賛のコメントを送るピアボーナスの機能もある。

サービス例

1. Insightful(旧Workpuls)

生産性モニタリングPF。従業員が利用するソフトウエアやウェブサイトを、次の3つのレベルに自動分類する。
①生産的:業務に必要なもの(例:Microsoft WordやSlack)
②中立的:業務に直接関係ないが妨げにはならないもの
③非生産的:私的利用や仕事の妨げになるもの
マネジャーは部署やチームの業務内容に合わせて分類を調整できる。
また、タイムトラッキング機能では、ソフトウエアやウェブサイトの利用状況を自動的に記録し、従業員の一日の労働時間を「生産的」「中立的」「非生産的」に分けて表示する。仕事中のPC画面のスクリーンショットも自動で記録できる。
オフラインでの業務時間(電話や社内会議、顧客との面談、研修など)については、「マニュアルタイム」として従業員がシステム上に入力し、マネジャーから承認を受ける。
ダッシュボードを通じて、人事は全社規模で従業員の生産性を確認し、従業員自身も把握できる。また、マネジャーは部下のPC稼働時間や利用しているソフトウエア、ウェブサイト、記録されたスクリーンショットを確認できる。
顧客は、HARE、SupportZebra、Farmers Insuranceなど約3000社。

2. Mambo.IO

ゲーミフィケーションPF。顧客管理やコールセンターのシステムと連携し、営業、コールセンター、ソフトウエア開発などの業務に従事する従業員のパフォーマンス向上を促進する。下記の機能を備える。
・パフォーマンス管理機能:営業メールの送信件数、平均成約率、売上目標の達成率、オペレーターへの平均応答時間、初回解決率、顧客満足度など、従業員のパフォーマンスを示すKPIをマネジャーや従業員に数値やグラフでリアルタイムに表示する。また、タスクの進捗状況(コードレビューやバグの修正など)も追跡できる。
・ゲーミフィケーション機能:KPIの高い従業員10名の氏名をリーダーボードに日・週・月単位で表示する。さらに、タスクの完了やKPIの達成状況に応じて従業員にポイントを付与する。ポイントは、コーヒーチケットや商品の割引クーポンと交換できる。
そのほか、ピアボーナスの機能もある。
顧客は、BMW、Mercedes-Benz、Discovery、KBC、McDonald’s、WWF(世界自然保護基金)など。

ビジネスモデル(課金形態)

企業がサービス事業者にシステム利用料を支払う
料金体系は、サービス事業者によって異なり、利用できる機能や従業員数に応じた料金プランを設けている事業者もある(月額利用料金は従業員1人当たり4.80ドルから)。

Insightfulのビジネスモデル図

今後の展望

Insightfulによると、生産性向上PFの市場規模は2030年までに1497億4000万ドルに達すると予測されている。米国では、一部の企業でリモートワークから出社回帰する動きが見られるが、大多数は今後もリモートワークやハイブリッドワークを継続することが見込まれ、生産性向上PFは高い需要を維持すると予想される。
上述のサービスは、従業員のPCの利用状況や稼働時間を測定することはできるが、仕事の質を把握することは難しい。将来的にはAIによって仕事の質を測る機能が追加され、従業員の働きぶりを多面的に把握できるようになるだろう。

グローバルセンター
杉田真樹(リサーチャー)

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