要員シミュレーションで組織変更の検討を行い、採用や配置を最適化──労働需要&要員計画プラットフォーム
「要員計画」とは、ビジネス戦略や事業計画に基づいた、採用や配置、異動に関する計画を指す。具体的には、将来的に必要とされる人員数や人材の構成(職種やスキルなど)を見積もり、人材を確保・教育・配置するための戦略を策定する。
要員計画の策定は、①現状把握、②ニーズの調査、③必要な要員数の算出、④採用計画の立案、⑤要員計画の決定・運用・配置の5つのステップで構成される。
タレントマネジメントテクノロジーマップにある労働需要&要員計画プラットフォームは、社員の要員計画、プロジェクトの要員計画、販売・サービス業などの時給制従業員の要員計画と人材配置をサポートする。企業はピープルアナリティクスの機能で現状を把握し、需要を基に要員計画を立て、適切な人材を配置することができる。要員計画のステップとサービス事業者が提供する機能は下記のとおりである。
図 要員計画のステップとサービス事業者が提供する機能
人事にとってのメリット
人件費の管理
要員シミュレーション機能により、増員や昇進などの前後で各部署の人件費がどれくらい増減するか把握可能なため、適正な人件費から必要な人員数を決定し、予算内で人員を補充できる。
人員配置の最適化
需要予測の機能により、適切な時間に適切な人数を配置できる。また従業員のスキルに基づくシフトの自動割り当て機能により、適材の配置が可能となる。
各事業者のサービス概要
各事業者のサービス概要は下記のとおりである。多くのサービス事業者は労働力の管理をサポートするシステムで、ツールの1つとして要員計画のサービスを提供している。
- Vemo:社員とプロジェクト人材の労働力管理プラットフォーム。ピープルアナリティクス、要員計画、リソース管理の機能を備える。ピープルアナリティクスでは、従業員の人数や年齢、スキル、離職率、人件費などを図やグラフで把握できる。要員計画では、必要な人員数や離職者数などを予測するプレディクティブアナリティクス(予測分析)機能がある。
- Vena:業績管理プラットフォーム。要員計画、財務計画&分析、営業成績管理、決算管理などの機能を統合する。要員計画では、テンプレートを活用した要員計画の作成や、人件費の算出・管理・予測などの機能を備える。
- Homebase:時給制従業員の労働力管理プラットフォーム。シフトの作成・管理やシフトの自動割り当て、勤怠管理、給与計算・支払い、人件費の算出・管理などの機能を備える。シフト作成機能では、顧客の購買傾向や地域の天候パターンなどを基に各店舗の需要を予測し、役割ごとに適切な人数を適切な時間に配置できる。人件費の算出・管理機能では、POSシステムとのデータ連携により人件費率などを把握できる。
- Sling:時給制従業員のシフトスケジューリングプラットフォーム。シフトの作成・管理、従業員へのタスクの割り振り・管理、勤怠管理、人件費の算出・管理などの機能を備える。
- SplashBI:ビジネスアナリティクスプラットフォーム。ピープルアナリティクスやセールスアナリティクスなどの機能を統合する。ピープルアナリティクス機能の「人数ダッシュボード」では、従業員の人数、平均勤続年数、平均年齢、新規採用数、離職者数、昇進数などを確認できる。「報酬ダッシュボード」では、性別・年齢層・職種・部門別の人件費を確認できる。
サービス例
1. ChartHop
社員の中長期の要員計画をサポートするピープルオペレーションプラットフォーム。主な機能にピープルアナリティクスと要員計画の2つがあり、そのほか報酬管理、パフォーマンス管理、従業員エンゲージメントの向上(サーベイやレコグニション)の機能もある。
ピープルアナリティクスでは、HRIS(人事情報システム)やATSとデータ連携し、入社日、所属部署、基本給、評価、eNPS、従業員数、部署別の平均年収、採用を行っているポジションの数など人材データを一元化する。
要員計画では、企業は従業員の顔写真付きの組織図を見ながら、人事評価、年収、前回の基本給の引き上げ額などを基に現状を把握し、計画を立てることができる。昇進や昇給を行う際は、組織図の編集機能で候補者のプロフィールに新しい職種名や給与額を入力し、社内で承認を得る。増員の場合は、組織図に職種名、勤務地、雇用・勤務形態を入力し、申請する。承認後は、社内のATSにデータが自動送信され、採用担当者に共有される。昇進・昇給や増員を実施した場合の拠点や部署別の従業員数、平均年齢や勤続年数、管理職の男女比率、人件費の変化を上級幹部や財務担当が把握できる要員シミュレーションの機能もある。
顧客は、PepsiCo、PitchBook、Alkami、YipitDATA、1Passwordなど。
2. Kantata(旧Mavenlink)
プロジェクトにおける要員計画をサポートするプロフェッショナルファーム(コンサルティング会社など)向けのリソース管理プラットフォーム。主な機能はリソース管理、財務管理、プロジェクトのスケジュールや予算の管理がある。リソース管理機能では、職級や職種、部署、スキル別に従業員の人数や社内でのフリーランサーの稼働状況などを確認できる。フリーランサーなど社外の人材プールを構築するタレントネットワーク機能もあり、企業はプロジェクトに最適なメンバーでチーム編成できる。
顧客は、Salesforce、Qualtrics、Hitachi、Toyota Connected North America、ESRIなど約2000社。
3. Quinyx
販売・サービス業などの時給制従業員の労働力管理プラットフォーム。主な機能はビジネスの最適化(需要予測、労働力の最適化)、労働力管理(シフトの作成・管理、人件費の算出・管理、勤怠管理)で、そのほかに従業員エンゲージメントの向上(従業員とのコミュニケーション、報酬と表彰)の機能も備える。需要予測では、AIが曜日・祝日やプロモーションの実施状況などを基に、各店舗の15分~1日単位の来店客数を最大95%の精度で予測し、ピークおよびアイドルタイムを特定するため、企業はどのように人員計画を立てれば効率よく運営できるかわかる。従業員の契約内容やスキル、稼働可能時間などを基にシフトを自動で割り当てる機能もある。
顧客は、McDonald’s、Domino's、Starbucks、Compass Group、Boots、Tory Burch、Virgin Atlantic、DHL、London City Airport、Roadchefなど約230社。
ビジネスモデル(課金形態)
企業がサービス事業者にシステム利用料を支払う
企業がサービス事業者に要員計画や人材配置をサポートするシステムの利用料を支払う。料金体系は、サービス事業者によって異なり、利用する機能の数に応じた料金プランや(月額利用料金は20ドルから)、従業員数に応じた料金プランを設けている事業者もある(月額利用料金は従業員1人当たり1.70ドルから)。
今後の展望
Mercerの「2024 Global Talent Trends」調査では、2024年の人事の優先課題の上位に「要員計画を強化し、採用・育成・社外人材の確保についてより多くの情報に基づいた意思決定を行う(49%)」が挙げられた。
ChartHopやQuinyxといったプラットフォームが、従業員エンゲージメントプラットフォームを買収するなど、労働力管理をオールインワンで行えるプラットフォームの構築を図っており、今後さらに多機能化が進むと見込まれる。
人手不足が続くなかで、客観的なデータで人的資源に関する自社の状況を把握し、事業計画に沿ったより効果的な社内外からの人材の調達や適正な配置を行うことが重要課題となっている。安価で利用ができる労働需要&要員計画プラットフォームのニーズは高まるだろう。
グローバルセンター
杉田真樹(リサーチャー)