海外の新たなビジネスツール3選:Fama、Monark、Performicaが人事業務を効率化する方法

2024年04月09日

海外のHRテクノロジー業界では近年、人事や採用業務を効率化するさまざまなAI機能が開発されている。その中から、日本ではまだ見られないユニークなAI機能を持つ「Fama Technologies」「Monark」「Performica」のサービス内容を紹介する。

海外の新たなビジネスツール3選

1. 応募者の不適切なSNS投稿を検出するAIプラットフォーム:Fama Technologies

Fama Technologies(以下、Fama)はオンラインのスクリーニングプラットフォームである。AIがFacebookやX、YouTubeなど1万種類以上のウェブサイトの内容を分析し、応募者が不適切な内容を投稿したりコメントしたりしているかを特定する。最近ではTikTokも分析対象に追加された。

24時間以内に調査結果を作成
企業が「犯罪」「暴力」「脅迫」「ハラスメント」「薬物」「不寛容(偏見的)」などのキーワードを設定すると、AIが応募者の投稿を分析する。ほかの人の投稿への「いいね」や再投稿も調査し、最終的には人間がチェックしてレポートを作成する。企業側は応募者の過去の不適切な行為など、面接だけではわからない側面を把握できる。

応募者のプライバシー保護法を遵守
米国ではバックグラウンドチェック(身元調査)サービスが利用されているが、これだけでは応募者の素行を完全に把握できない。また、採用担当者が自分でSNSチェックを行う場合、時間と手間がかかるうえ、法令に違反する可能性もある。近年、プライバシー保護の観点から、ニューヨーク州を含む15州以上で企業による個人のSNSアカウントへのアクセス制限が法律で定められている。

Famaは、Nucleus Researchの「2024年の注目HRテック企業」の1つに選ばれ、Lighthouse Research & Advisoryが主催する「HR Techアワード」でも2部門で最優秀賞を受賞した。顧客数は2600社を超える。

2. マネジメントスキルを向上させるリーダー育成プラットフォーム:Monark

Monarkは、AIチャットボットとロールプレイングを行って、マネジメントスキルを向上させるリーダー育成プラットフォームである。具体的には、プロジェクトメンバーとの進捗確認やフィードバック面談など、実際の業務シーンを想定した演習を行う。AIが偏りのないアドバイスを即座に提供するため、緊張せずに同じ場面を反復練習するなど、自分のペースで学習できる。

AIが学習コンテンツをレコメンド
チーム目標の効果的な設定方法などリーダーシップに関する質問をAIと対話形式で行い、すぐに回答を得ることができる。また、360度評価の結果を基に、個人のニーズに合った短い動画(5分)の提案を受ける。好きな時間に場所を選ばず学習可能なため、効率よくスキルを向上させることができる。人事はダッシュボードで従業員の学習状況を把握できる。

従来のリーダー育成プログラムは、一度きりの研修が多く、終了後のフォローアップが不足していた。さらに、コーチングサービスは高額なため、上級管理職以外は利用できない企業も多い。
しかし、Monarkを使うことで、従業員は忙しい業務の合間を使って継続的に学びながら、マネジメント能力を向上させることができる。企業側もリーダー育成期間の短縮と研修の自動化によるコスト削減を期待できる。

3. 部門間の橋渡し役を特定するAIツール:Performica

Performicaは、組織内の情報の流れやメンバー同士の関係性を分析するプラットフォームである。具体的には、Microsoft Teams、Slack、Google Workspace、GitHubなどのコラボレーションツール上の従業員のメタデータを収集し、AIが組織ネットワーク分析(※)を行う。

社内のコミュニケーションのパターンを特定
部門間の連携不足やマネジャーと部下のコミュニケーション不足を可視化する。

「ポジティブインフルエンサー」や「橋渡し役」を特定
社内で影響力のある人や部門間のコラボレーションを促進する役割を果たす人を見つける。また、チームの士気や生産性に悪影響を与える「ネガティブインフルエンサー」も特定できる。

人材配置の最適化
企業は、組織内の関係性を把握することで、プロジェクトチームの編成などにおいて、最適な人材配置ができる。また一人で作業することを好むといった個人の特性もわかるため、従業員にアサインする仕事の内容を工夫し、生産性の向上を図ることができる。
Performicaは、Inspiring Workplacesの「Top 25 Work Tech Vendor」(ワークテックベンダー上位25社)の1つに選ばれた。

日本では、応募者のSNS投稿をチェックするための「裏」のアカウント調査サービスがあるが、応募者の同意を事前に得る必要がある。また、調査中に応募者の出生地などの機微情報を意図せず収集してしまった場合、職業安定法に違反する可能性がある。
企業は、応募者の同意を得たうえで、公開されている情報だけを検索するFamaの自動化サービスを利用することで、法令違反のリスクを回避しながら、迅速に応募者を評価できる。
海外ではMicrosoft Teamsなどのコミュニケーションツールから収集したデータを基に、バーンアウトや孤立のリスクのある従業員を特定するHRテックサービスが存在する。従業員の周りへの影響力や社内でのネットワークの広さを測るサービスは、Performica独自のものである。
また、日本でもAIを活用したロールプレイングサービスはあるが、主な目的は営業や接客スキルの向上である。一方で、Monarkのようなマネジャー育成を目的としたサービスはまだ存在しない。
海外ではAIを活用した新しいサービスが次々に登場しており、HRテック業界は目覚ましい速度で進歩している。

 

(※)組織内の人々や部門間の関係性をネットワークとして可視化し、その相互作用やパターンをデータとして分析する手法

TEXT=杉田真樹