Canada Life Assurance Company ダックス・サーディンハ氏(人材獲得部長)
経歴よりも実務スキルを重視。活用するのはアセスメントとハッカソン
Canada Life Assurance Companyは、選考プロセスの初期にアセスメントやハッカソンを実施して、候補者のスキルを見極めている。ソフトウエア開発の問題解決を競い合うハッカソンは、IT業界では一般的だが、保険業界で選考プロセスに取り入れている企業は珍しい。170年超の歴史がある同社が、先進的な手法でどのようにデジタル人材を採用しているのか、人材獲得部長のダックス・サーディンハ氏に伺った。
【Canada Life Assurance Company】1847年設立、本社所在地はカナダ・マニトバ州。カナダで最初に生命保険の提供を始めた保険会社で、カナダ、英国、マン島、ドイツ、アイルランドで事業を展開する。従業員数約1万500名。2022年、Canada's Top 100 Employersが選ぶ「カナダの雇用主トップ100」にランク入りした。従業員のウェルビーイングに関する施策や、コロナ禍における福利厚生の充実、人材育成の取り組みなどが評価された。
――デジタル人材の採用には、どのように取り組まれているのでしょうか。
デジタル人材の採用の難易度は、地域によって異なります。トロントでは、近くにコンピュータ科学の分野で世界的に評価が高いウォータールー大学があり、求人募集をすると多くの応募があります。一方、バンクーバーには先端IT企業の多くが拠点を構えており、先端企業での仕事に魅力を感じる人が多く、採用が困難です。そのような地域では、「Build&Buy」戦略をとります。
「Build」とは、近隣の大学からフレッシュな人材を勧誘して、採用後にデジタル人材として育成することです。採用担当者がキャンパスを訪問し、当社のような歴史のある会社でも、最先端の仕事ができることを学生たちに伝えてワクワクしてもらうのです。「Buy」とは、デジタル分野での経歴がなくても、業務に必要なスキルと能力を持つ人材を発掘する、スキルベース採用のことです。多くの企業はまだ、候補者の出身大学や前職の社名にとらわれています。しかし人材不足の状況を踏まえると、経歴ではなく、能力を重視せざるをえません。
――スキルベース採用をする場合、どのようにして人材を見つけるのですか。
2つの方法があると考えています。1つはアセスメントです。カナダではアセスメントを利用する企業が増えてきました。ソフトスキルや性格を測る適性検査と、業務遂行能力を測るテクニカルアセスメントがあります。もう1つの方法はハッカソンで、実際の開発業務を通じてスキルを把握し採否の判断をします。コーディングスキルだけでなく、問題解決能力や、他者との協働性などを確認します。レジュメ上では、応募者が経験した業務内容と期間はわかりますが、実務能力の程度はわかりません。また、応募者はレジュメに自分のスキルをすべて記載しないこともあるため、テクニカルアセスメントやハッカソンを実施することで、その人が実際に保有しているスキルを把握できるのです。
アセスメントツールを使うことで、豊富なデータからスキルを評価
――アセスメントを選考プロセスでどのように活用されているのか、聞かせてください。
選考プロセスの早い段階でアセスメントを実施します。書類審査では、カナダでの就労資格の有無など最低限の条件の確認にとどめ、学歴と経歴では選考しません。2次審査の適性検査とテクニカルアセスメントで候補者を絞り、人事の採用担当者と採用部署のマネジャーによる面接を経て、オファーを出す人を決めます。
当社にはソフトウエア開発者が携わる領域が2つあり、それぞれに適性が異なります。1つはイノベーションを起こす「デジタルハブ」で、この組織に適しているのは、変化や大きなプレッシャーに対応でき、協働性がある人です。もう1つは計画通りに業務を遂行していくIT部署ですが、納期を重視し、単調な仕事が苦でなく、自律的に働ける人が適しています。適性検査では、このような特性を確認します。
テクニカルアセスメントは、面接とは異なる方法でスキルや能力を測ることができます。私はタレントアクイジションの経験が20年以上ありますが、面接で技術的なスキルのレベルを測ることは難しいと感じています。たとえば、表計算ソフトでピボットテーブルの作成を実演してもらい、面接担当者が知らない方法で候補者が実演した場合は、それが正しいのか、あるいは効率的なのか、適正な評価ができません。一方、良いアセスメントツールであれば、それが複数ある方法の1つだと認識し、候補者を正確に評価できます。また、タスクを行うスピードや精度を測ることができるので、面接よりも多くの情報とデータをもとに、業務遂行能力を測定できます。
ハッカソンでリアルな業務遂行能力を把握
――ハッカソンはどのようなときに役立つのでしょうか。
同じ職種を多数採用するときには、ハッカソンが有効です。当社では、1年のうちにJava開発者が20人必要になったり、バックエンド開発者が20人必要になることがあります。ハッカソンのイベントでは、職場で実際に発生する問題を、個人あるいはグループで解いてもらいます。たとえば、フロントエンドのUIエンジニアの採用であれば、ユーザーのニーズを伝えて、ウェブページを作成してもらいます。所要時間は、業務で行うときにかける時間と同じ長さを設定します。業務の進め方や、成果物のクオリティなどを技術職の従業員が評価します。
技術面接では、候補者が過去にどのようにして技術的な問題を解決したかを質問するのが一般的ですが、キャリアチェンジをしたい人や趣味でコーディングをしていた人は実務経験がないため、回答できません。その点ハッカソンは、学歴とキャリアに関係なく、候補者の業務遂行能力と協働性を確認できるため、非常に効果的です。ハッカソン終了時にその場で内定を出すこともあります。
確かなスキル評価で入社後は即戦力として期待
――スキルベースで採用した人材に、入社後に行っている研修やサポートはありますか。
求めるスキルにもよりますが、職務の中核的なスキルを持つ人であれば、即戦力になります。選考プロセスで候補者のスキルを測定して、条件を満たした人材を採用しているので、通常は採用後に研修する必要はありません。ただ、大規模な企業で働いた経験がない人や、異なる業界にいた人は、組織での仕事の進め方に戸惑う場合がありますから、職場環境に馴染めるようにコーチングするなど、サポートが必要でしょう。
インタビュアー=デビッド・クリールマン(Creelman Research) TEXT=石川ルチア
- 学歴や実務経験のないデジタル人材を発掘するには、テクニカルアセスメントやハッカソンなどで、業務遂行能力を測ることが効果的である。
- テクニカルアセスメントは、複数の正解がある問題を適切に採点し、客観的なデータを収集するため、候補者の技術スキルを面接よりも高い精度で評価できる。
- スキルベース採用をした人材への入社後のサポートは、スキル面の研修よりも、環境面の適応支援が必要な場合がある。