インターンシップは大学生の学習を阻害するのか?──古屋星斗

2020年04月23日

多数派となったインターンシップ参加者

大学生・大学院生の就職活動においてインターンシップが一般化して久しい。就職3年目までの若手社会人を対象とした調査(※1)では75.6%が学生時代にインターンシップに参加しており、そのうち32.3%がインターンシップ先の企業に入社している。長らく面接選考中心であった就職活動の在り方が大きく変わっていると言えよう。

他方、インターンシップが学業を阻害する、という意見は根強い。「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」においても、複数の大学からインターンシップの早期化・長期化が大学での学びを阻害している、という主張がなされている。確かに、就職を1・2年後に控えた大学生・大学院生が、お目当ての企業のインターンシップを優先するのはごく自然な気持ちでもある。それだけに、学生のこの志向の変化を大学側が学業の危機と捉えるのは理解できる。

では、インターンシップは大学生の学業にとって本当に単なる邪魔者であり、昨今の学校職業間接続における「必要悪」なのだろうか。つまり、「学業に精を出す」ことと「インターンシップに参加する」ことはトレードオフの関係なのだろうか。
今般、経済産業省と文部科学省が共同で実施した最新の定量調査(※2)を分析することでその実像に迫ろう。

データから見えたインターンシップの「効果」

今回の調査では、就業後3年目までの若手社会人の振り返りによる学習行動の変化とインターンシップの参加の関係を見ることができる。
学習行動の変化(※3)とインターンシップの関係について、因子分析により4つの因子を抽出することができた(※4)。furuya01_2.jpg
この結果から導かれた因子スコアを用いて、インターンシップの参加期間別に効果を表してみよう(図表1)。スコアが正の数値であれば、それぞれの行動・活動がより大きく増加する変化があったことを意味している。
まず、図表1からは、「インターンシップの参加期間が長いほど、学習動機や大学生活での活動量が増加する」傾向があることがわかる。特に学習動機向上スコアや、キャリア観明確化スコアについては、「短期」と「中期」の差、そして「短期」と「長期」の差がともに大きい。

図表1 インターンシップ参加と大学生生活の変化 (※5)furuya02.jpg
この結果から、インターンシップの一定期間以上での参加によって、大学への講義参加の活発化や、大学外での学び活動といった、学生の学習動機の活発化と正の関係を持っていることが明確である。

さらに、インターンシップのファーストキャリア形成との関係についても分析した(図表2)。こちらは、「インターンシップ未経験者」も併せた回答を分析することができる。入社した企業への満足感である「自社満足スコア」、自分に合っている感覚である「自社フィット感スコア」、そしてキャリアパスのイメージを持てている「キャリア見通しスコア」。3つ全ての因子スコアにおいて、未参加者と参加者の間に大きな差が確認でき、また、中長期の参加は短期の参加よりもスコアが高い傾向となった。

図表2 インターンシップ参加とファーストキャリアの状況(※6)furuya03.jpg

こうした結果を踏まえると、以下のようなインターンシップの効果に関する重要な仮説が導くことができる。

中長期(5日以上)のインターンシップ参加は、学習動機を向上させるとともに、ファーストキャリアを充実させる

理系と文系で大きな違い

ただしその「効果」には文理で大きな違いがあることも明らかになった。
図表3に文系学生、図表4に理系学生を表示しているが、中期インターンシップ参加から学習動機向上などとの関係が見られる文系学生と、1か月以上の長期参加に学習動機向上などのポジティブな傾向が見られる理系学生の違いが理解頂けるだろう。

図表3 文系学生のインターンシップ参加と大学生活の変化furuya04.jpg

図表4 理系学生のインターンシップ参加と大学生活の変化furuya05.jpg
なお、他の指標についても文系学生については中期以上でポジティブな傾向が見られる (※7)。このことから、自身が学んでいる内容、学ぶことができる内容と職業社会との結節点を比較的見出しやすい文系では5日以上程度の規模のインターンシッププログラム参加により、大きな恩恵が得られると考えられる。
理系学生については、中期と長期に大きな溝がある。自身の研究テーマと企業活動の関係性をインターンシップで見つけることに長い時間がかかってしまうのであれば、プログラム内外での伴走的なコンサルテーションがカギになってくるだろう。

「組み合わせ」でインターンシップによる就活をアップデートする

また、インターンシップ実施主体ごとに変化を整理した(図表5)。一般的にインターンシップと言った際にイメージされるだろう「企業主催」のもの、単位化されて大学のカリキュラムになっている「大学正課」、そして授業科目ではないが大学で実施されているものの3分類で聞いている (※8)。

図表5 実施主体別 インターンシップ参加と大学生活の変化(※9)furuya06.jpg

図表5からわかるのは、大学正課のインターンシップの大きな効果であろう。学習動機向上、コミュニティ参加活性化などにおいてポジティブな変化をもたらしていることがわかる。また、企業主催のインターンシップについても、キャリアづくり明確化にポジティブな変化を与えている。

大学正課については、事前事後の学習・フォローアップまで含めてカリキュラムとなっており、「行って帰ってくる」式の職業体験に加えて、伴走的支援がポジティブな変化の促進に有効であることを示唆している(※10)。他方、企業主催のインターンシップについては大学の負担も軽く、キャリアづくり明確化などに一定のポジティブな変化も見られることがわかっている。
また、今回の文部科学省調査では、大学側の事務的負担感がインターンシップ促進の阻害要因となっていることがわかっている

つまり、これらの状況を総合すれば、「大学の負担感が重いが、効果が高い大学正課インターンシップ」と「大学の負担感が軽く、一定の効果が見込める企業主催インターンシップ」をうまく組み合わせることで、効率的に学生にポジティブな変化をもたらせるインターンシップの仕組みを作ることができる。
このために、能動的に大学と企業のインターンシップが連結して、例えば企業インターンシップの後の振り返りなどを行う場を大学が作るなど、学生の学外での経験を積極的に学習動機に還元させていく仕組みを作ることが可能である。

「インターンシップの問題点」はインターンシップを変えることでは解決しない

今回の分析からは、特に5日以上のインターンシップに学業を阻害するどころか、「学習動機向上」を含めた大きな効果を持つことが明らかになった。
筆者は今回の結果を踏まえて、「学業を阻害する」などインターンシップについて指摘される問題は、インターンシップ自体を変えて解決する問題ではなく、学校職業間接続全体に根を張った問題だと感じている。

「学業阻害問題」は、日本の大学生・大学院生の「学習期間」と「就職時期」があまりにも近接しているために、職業体験やキャリア観醸成の時間が、学習期間を圧迫する形でしか確保できないことに起因している。であれば、その解決方策は「インターンシップに参加するな」と主張することではなく、現在の学校職業直結式・固定式の接続の方法を変えることである。「通年採用」や「ギャップイヤー」といった接続の在り方を柔軟化していく方策はこれまで盛んに議論されてきたが、今こそ社会実装の時であろう。

「内定獲得」や「職業観醸成」という学生や企業・大学が当初企図した効果とは異なる、「学習動機向上」というオフターゲット効果の存在が示唆された今回の経済産業省調査の結果。こうした効果を正視し、学業とインターンシップの好循環を加速させるために、接続の在り方自体を変えていく時が来たのではないだろうか。

(※1)経済産業省,2020, “学生・企業の接続において長期インターンシップが与える効果についての検討会 調査結果”N=1231。なお1か月以上のインターンシップの参加者も131サンプル含まれる
(※2) 同上
(※3) 「インターンシップに参加することで、あなたご自身は大学での授業への参加及び履修といった学習行動などについて、どのように変化しましたか。」という質問への回答。13項目、5件法。例えば、「大学での授業への出席が増えた」かという質問に対して、「全くそう思わない」「そう思わない」「どちらともいえない」「そう思う」「強くそう思う」のいずれかを回答する
(※4) 上記13設問(5件法)に対する回答の結果の因子分析結果(最尤法、斜交回転)の概要
(※5) インターンシップ期間については、参加した最も長いインターンシップの期間を聴取
(※6) 自社満足スコアは「私は、今の会社で働くことを誇りに思っている」「私は、今の会社を良い職場として家族や友人に勧めることができる」など。自社フィット感スコアは「今の仕事は、私に向いている」「今の職場は、私に合っている」「今の会社は、私に合っている」など。キャリア見通しスコアは「私は今後のキャリアパスのイメージができている」などの設問への回答を因子分析によりスコア化したもの。9設問、5件法
(※7) 他の分析内容については、経済産業省報告書P.56~
(※8) 割合はそれぞれ、企業主催75.4%、大学正課14.0%、授業科目でない大学主催9.2%、その他が1.4%であった
(※9) 「1日」のインターンシップのみに参加した回答者を除外している
(※10) 経産省報告書P.61に、リクルートワークス研究所資料P.10に、入社に繋がるインターンシッププログラムの分析がある。「大学で実施する、インターン前後のフォローアップ」を受けた者は、そのインターンシップ実施企業へ入社している者が、回答者平均と比較して2.7倍となっている

 

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