雇用類似の働き方とは 〜変わる人材ポートフォリオ〜 村田弘美
「雇用類似」の働き方とは何か
「雇用類似」とは何か?どのような働き方なのか?と聞かれ、明確に答えることは難しい。厚生労働省の検討会をきっかけに、労働分野に詳しい人々が「雇用類似」という用語を使うようになり、今は少しずつ世間に浸透する兆しが見えはじめたところである。
「雇用類似」は「雇用」と「自営」の中間的な働き方をする者のことであるが、いわゆる「労働者」ではない。外形的には、自営業者であり、個人事業主、インディペンデントコントラクター、フリーランサー、クラウドワーカー、ギグワーカーなどが含まれる。
2017年に厚生労働省が立ち上げた「雇用類似の働き方に関する検討会」では、「雇用類似」の定義についての議論を重ねたが、調べれば調べるほど多種多様であり、最終報告では「雇用類似の働き方の者」については、画一的に定義することが困難である、という結論に至っている。定義が定まっていないため、数値的な把握も難しい。
ちなみに、リクルートワークス研究所の「全国就業実態パネル調査2018」※注1では、2018年1月に全国の就業者約5万人にインターネット調査を行っている。同調査によるフリーランサーの定義は、自営業主(雇用者なし)もしくは内職で実店舗を持たず、農林漁業(業種)を除く者としている。調査における『本業フリーランサー』は、約300万人。また、『副業フリーランサー』は、約140万人と推計している。
図 新・人材ポートフォリオ(2018)
働き方改革で「雇用類似」への関心が高まる
一億総活躍プラン(平成28年6月)や日本再興戦略を受けて、「働き方改革実現会議(平成28年9月)」が発足され、平成30年6月には「働き方改革関連法案」が成立するなど、「働き方改革」は急速化した。働き方の多様化は、雇用されない働き方にまで関心を高め、平成29年以降は、経済産業省の「雇用関係によらない働き方」に関する研究会報告、公正取引委員会の「人材と競争政策に関する検討会」報告、そして厚生労働省の「雇用類似の働き方に関する検討会」と、次々に実態調査が行われ、仲介会社、協会などの情報をもとに、あらゆる側面からの検討が重ねられたことから、ますます「雇用類似」への関心を高めることとなった。
同検討会では、「雇用類似」を掌握したというには、まだ不十分という状況にある。「雇用類似」のさらなる実態の把握と、英国などに見られる第三の働き方として就業形態の位置付けるかという検討、保護の在り方の方向性について今後も検討が必要という結論に至った。この報告を受けて、労働政策審議会労働政策基本部会の結論は、引き続きさまざまな課題等について、法律、経済学者等の専門家による検討に着手することを必要としており、今後も引き続き、議論がなされるようである。実際に、「雇用類似」は、企業と1社専属契約で働く者、複数の取引先との契約で働く者がおり、雇用とも自営とも状況が異なる。
仕事上のトラブルや最低保障、健康への配慮など、どの程度の保護を必要とするのか、財源をどのように確保するのかなど、今後も、既存の社会制度の見直しとともに、さらに国境を越えた働き方まで視野を広くとってさまざまな側面からの検討がされるだろう。
「雇用類似」と共存する『人材ポートフォリオ』を考える
1995年に日経連が発表した『新時代の「日本的経営」』では、経営環境が大きく変わる中で長期的視点に立って、人間中心(尊重)のもと従業員を大切にしつつも、意識の多様化、産業構造の変化にも柔軟に対応していくシステムを検討する必要があるとし、「自社型雇用ポートフォリオ」をこれからのシステムとして示した。現在はさらに変化を重ねて、労働者、特に外部人材はさらに細分化されている。直庸の従業員は、いわゆる正規社員、地域もしくは職種限定社員、契約社員、パートタイマー・アルバイト、インターンシップ生。外部の人的資源(非従業員)は、派遣社員、請負、業務委託(個人事業主・フリーランサー)、ギグ(単発の仕事)、有償ボランティアなどである。昨今はこれに、ロボット、ドローン、人口知能(AI)、RPIなどが加わる(図)。
身近な「雇用類似」は元従業員
企業にとって最も身近な外部人材は、OB・OGといった企業の元社員だろう。企業との信頼関係ができており、採用基準も満たす。社内規定や独自ルールにも精通しているため基礎的な教育訓練も必要なく、企業特有の文化への理解や、社内外の人脈もある。海外ではインターンの指導などを依頼していたり、退職後も一定期間は人材をプールしておくことは有効である。
フリーランス協会によると、企業が外部人材に求めるものは、「専門知見やスキル」である。以前は雇用の調整弁や、安価で融通の利く労働力という側面もあったが、人材不足の時代には、外部人材の豊富な経験と知見がとても有用である。
企業人事には、新しい時代に合った自社独自の人材ポートフォリオを改めて考える必要が生じている。高い業績を上げるためには、従業員、雇用類似、ロボットAIなど、どのような資源や手法を用いるのが最も適切なのかを見極めなければならない。
人材獲得の場は、他社の従業員(副業)にまで広がっている。人手不足への対応や、専門性の担保、スピードアップ、生産性の向上など、それぞれに目的は異なるものの、企業は多様な人的資源やテクノロジーを見極める能力を持ち、受け入れていかなければ生き残れない時代となる。
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