従業員の学習行動をどのように支援するか 辰巳哲子

2018年04月24日

リクルートワークス研究所の研究プロジェクト『人生100年時代の学び方』では、多様化している社会人の学び行動について、個別のテーマややり方に沿った支援が求められることを紹介した。
本コラムでは学んでいる社会人と学んでいない社会人の違いについて、仕事や職場環境の違いを中心に報告する。

どれくらいの社会人が何を学んでいるのか

これまでの社会人を対象とした調査では、「学び」を、研修を受講することや資格をとること、学校に行くことといったかなり限定的な行動として捉えていたが、社会人の学びはもっと多様で自由なものに変化しているのではないだろうか?
リクルートワークス研究所では、2000年以降毎年、社会人の学び行動を調査している。2000年には「最近一カ月に、自分の意志で仕事にかかわる新しい知識やスキルを身につけたり、資格を取るための取り組みをした」と回答した社会人は、16.4%だった。2016年に「新しい知識や技術を習得する機会があった」と回答した人は53.6%である。そこで今回、学び行動を「新たに知識を身につける行為」として尋ねてみたところ、学び行動をしている社会人は70.7%で一週間あたり平均4.5時間であることが確認された。

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次に、自主的に学んでいる社会人に対して学びの目的を尋ねたところ、「今の仕事に関連する学び」「今後の仕事に関連する学び」「仕事に関連しない学び」の割合は、4:2:4だった。職種別に確認してみると「今の仕事に関連する学び」の比率が高いのは、医療技術者であり、一方で「仕事には関連しない学び」の比率が高いのは、一般事務職、接客・給仕に関する仕事をする人であった。「今後やろうとしている仕事に関連する学び」の比率が高いのはやはり医療技術者であり、次いで建築・土木・測量技術者と、専門職が高いことがわかる。

図表1.自主的な学びの比率、時間、その内訳(職種別)item_works03_tatsumi_tatumi0423.png注)正社員・パート・アルバイト等、自営業からなる。その他職種を除き、サンプルサイズが100以上の職種を掲載。

学んでいる人はどういう職場環境にあるのか

次に学んでいる人の職場環境について尋ねた。図表2の職場環境について、「とてもそう思う(5)」から「まったくそう思わない(1)」までの5段階で尋ね、平均値の差を確認した。その結果、自主的な学び行動をおこなっている人と、学び行動をおこなっていない人との間で平均値の差が大きかったのは、「自分の成長やキャリアに役立つ研修等の機会が多い」といった、「役立つ社内研修の機会の量」である。さらに、上司から新たな経験を任せられるという「期待」、社外で業績を発表する機会があるといった、「アウトプットの機会」があるほど、学び行動をおこなっていることが明らかになった。一方で、給与が世間相場より低い、収入が安定していないといった収入は、自主的な学び行動とは直接関係がないことが示された。

図表2.職場環境と自主的な学び行動との関係item_works03_tatsumi_tatumi0423_2.png

学んでいる社会人の5つの特徴

これまでに確認したデータから明らかになったのは、(1)現在や将来の仕事に関連する学びをしているのは、医療技術者や建築・土木の技術者といった専門性を持った職に就いている (2)個人が「自分に」「役立つ」と考えている社内研修の機会が多い (3)職場には、新しい経験・責任を伴う仕事機会を任せる「期待」がある (4)自分の業績について社外で発表するなど「アウトプットの機会」がある (5)収入と学び行動には関係がない ということであった。

この結果からは、企業内で学び行動の促進策を検討する際のヒントが見える。社内研修については、一斉におこなうのではなく、「個人が」「自分に」あった研修機会を選択できる機会が必要だ。そして、学び方にも工夫が必要だ。人は何かを「インプット」する時よりも「アウトプット」する時のほうが多くを学ぶ。例えば、講演に参加するときより、講師をしたり、後輩に教えたりするなど、自分の言葉で誰かに説明しなくてはならない(=アウトプット)時のほうが必然的に学びの量は多くなるだろう。学びを日常的なものにするためには、このように意図的なアウトプットの機会を役割として創り出すことが重要だ。
職場においては、(1)これまでのスキルセットだけではできない仕事のやり方や成果を求めてみること、(2)積極的なアウトプットの機会を個人や周囲の人が創り出すことが、結果的に自主的な学び行動の促進につながるだろう。

辰巳哲子

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