サービス産業の「働き方改革」のはじめかた 城倉亮
「とにかく人手が足りない。もう限界です」
サービス産業の「新しい働き方」プロジェクトで各地をまわった際に、ある旅館の経営者から聞こえた声だ。人手不足が加速しており、労働集約型のサービス産業では、人材が足りずに新規開店ができない飲食店や、全室オープンできない旅館など、経営への直接的な影響が出てきている。
サービス産業においては、「業務改革」と「人事改革」を一体的に取り組むことで、持続的な経営が可能となるよう、生産性の向上を推進していくことが不可欠であり、「働き方改革」は経営改革そのものだ。しかし、まだ何一つ取り組めていない企業が多いのも現実だ。
どのように「働き方改革」を進めていけばよいか。私たちは、サービス産業の「新しい働き方」プロジェクトを通じて10のキーワードをまとめた(図表1)。
本コラムでは、「働き方改革」の第一歩として取り組むキーワードである「タスク再構築」について深掘りして検討したい。
図表1 サービス産業の「働き方改革」10のキーワード
タスクを見直す4つのステップ
働き方を見直すためには、まず、従業員の1つ1つの職務=タスクを徹底的に分解し、再構築することが重要だ。「タスク再構築」のモデルプランとして次の4ステップを提示する(図表2)。それぞれのステップについて、簡単に解説したい。
STEP1:現状把握
まず、職種単位で全ての仕事を「タスク×時間」に分類する。誰が、いつ、どんな手順で、どんな成果を出しているか。細かな作業まで徹底して明らかにすることが重要である。例えば、旅館の接客スタッフの「飲み物の追加注文を提供する」という仕事は「注文を受ける」「情報を伝える」「用意する」「運ぶ」「提供する」「記録する」といった細かなタスクに分けていくことができる。
STEP2:評価
次に、細かく分類したタスクを「コア」「ノンコア」「ムダ」の3つに分類する。「コア」業務とは直接顧客に付加価値を生み出す業務であり、「ノンコア」業務は間接的に付加価値につながる業務である。一方で、「ムダ」業務は、顧客に対する付加価値がないにもかかわらず行われてしまっている業務だ。タスクを評価する際に注意すべきは、顧客目線を意識しながら、経営戦略・サービスポリシーに基づいて評価することである。
STEP3:最適化
「コア」業務は付加価値向上をはかり、「ノンコア」業務はIT化や手順を見直すことで効率化を目指す。「ムダ」業務は不要なものとして廃止し、タスクを圧縮する。既にある仕事を止めることが難しいが、それではいつまでも付加価値のある仕事にシフトできない。思い切って捨てることが重要である。
STEP4:働き方適応
新しく再編されたタスクと働き方をフィットさせる。例えば、「コア」業務であれば、質を追求し続けプロフェッショナル化するために教育研修を充実させる。手順を見直せる「ノンコア」業務であれば、短時間勤務の人材の時間にあわせて集中させるなど、仕事の特性、個人の志向にあわせてタスクと働き方を組み合わせる。
図表2 タスク再構築の4ステップ
「働き方改革」を一つのストーリーで考える
サービス産業の「働き方改革」は、常識のフレームを取り外し、タスクと働き方を組み合わせていく「タスク再構築」が第一歩となるが、それだけでは実現しない。
プロジェクトの調査を通じて印象的だったことは、先進企業では、必ずいくつものキーワードが複雑に絡み合って一連のストーリーとなって改革が展開されたことだ。特定のキーワードだけに取り組むのではなく、全体を意識した上で1つ1つ取り組むことで、相乗効果が生まれ、改革が加速度的に推進されていた。
サービス産業で生産性向上を実現し、持続的経営が可能になるためには、業務改革と人事改革が一体となった「働き方改革」を実現していくことが重要である。「働き方改革」は待ったなしの状況だ。まず、タスクを見直し、そこから自分たちのストーリーを紡ぎだしていきたい。
城倉亮
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