高ストレスと向き合う「産業ソーシャルワーカー」を育てる 大久保幸夫
高ストレス社会の現実
ストレスチェック(職業性ストレス簡易調査票)が導入されて1年強の時間が経った。
各社では、自社における高ストレス者の割合などが明らかになり、その対応が新たな人事課題となっているのではないだろうか。厚生労働省が提示するストレスチェック票では、標準的に10%程度が高ストレスと判定されるように設計されているが、企業によってはそれを上回るケースもあるだろう。高ストレス者はそうでない者と比較して、うつ病や抑うつ状態などの疾病リスクが大幅に高まることが確認されている。また、長時間労働やパワハラなどの問題と複合して過労死や自殺などの大事件に発展するリスクもあり、看過できない問題であることは明らかだ。
図はリクルートワークス研究所が全国約4万9000人に対して実施した調査の結果である。ストレス反応を大きく8種類に累計して「昨年1年間(2015年1月~12月)のあなたの状態について」あてはまるか否かを尋ねたものだが、いくつもの項目で「あった」と回答する割合が半数程度にまで達していることがわかる。
実はこの質問は就業者だけでなく非就業者にも尋ねていて、ストレスの結果にそれほど大きな開きはない。
また、別の質問で、就業者に職場において「ストレスによって、精神的に病んでしまう人が頻繁に発生した」かどうかを尋ねているが、こちらは「あてはまる+どちらかといえばあてはまる」と回答した人は11.3%であった。これらの結果から、ストレスの原因は仕事だけにあるのではなく生活全般にあり、それらが複合化しているということや、1割の職場では実際に疾病に至る人が出ているという実態がわかる。
見えない解決の道筋。ひとつの方法
では、どうするか。
産業医などの体制があっても、高ストレス者が疾病に至ることを未然に防ごうとすると、なかなか解決手段は見当たらない。現場のマネジメントに委ねられているのが実態で、任された管理職のストレスの原因となるだけで、結局解決には至っていないと思われる。
私が達したひとつの結論は、「高ストレス者が気軽に対処の道筋を見出すことができる相談と解決支援の専門職をつくる」ということである。産業医では敷居が高く、疾病に至らないと面談しようとは思いにくい。上司に相談しようと思っても、評価者である上司には打ち明けにくく、また上司自身がストレスの原因になっている場合や、上司に対処のノウハウがない場合もある。それならば、病気のことだけでなく、ワークライフの悩み全般について親身になって相談に乗り、解決の第1歩を支援してくれる人がいて、メール等で気軽に相談できる体制ができればいいのではないか。そうすれば、仕事と育児の両立に悩む人や親の介護に悩む人も合わせて手助けすることができる。
同じ問題意識を持った仲間で、2017年3月に一般社団法人産業ソーシャルワーカー協会(JISWA)を立ち上げた。産業ソーシャルワーカーというのは聞きなれない言葉だと思うが、アメリカなどではIndustrial Social Workerとしてすでに社会的な存在となっている。いまはまだ地域包括支援センターや病院、学校などに活躍の場が限定されている社会福祉士に、企業人事やマネジメントなどを学習してもらい、企業内で(企業と契約して)この問題解決を担えるようにするのである。産業ソーシャルワーカーの候補としては精神保健福祉士や、弁護士・社会保険労務士の一部もあてはまる。
全く新しい専門職をつくるというよりは、すでに国家資格を持つ専門家にあと少し追加学習をしてもらって、社会の未解決課題に対応してもらうということである。
働き方改革の議論はますます盛んになってきているが、実現に向けての各論はまだ煮詰まっていない。これから考える論点が多く残っているが、産業ソーシャルワーカーの存在が一助になればいいと願っている。
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