米国ギグ・エコノミーとフリーランサーをめぐる課題 Keiko Kayla Oka

2016年12月14日

はじめに

米国ではUberをはじめとするライドシェアサービスが順調である。2009年にサンフランシスコで創業したUberは瞬く間にほぼ全州に広がり、2016年現在、76カ国473都市で利用されている。その資産価値は625億ドルともいわれ(※1) 、フォードやホンダに匹敵するレベルである。

UberやLyftといったライドシェア以外にも、テクノロジーを使った同様のビジネスモデルが増えており、それらのビジネスと契約ベースで働く人も増え、ギグ・エコノミーが拡大している(図表1)。有名なのは「Thumbtack(英語で押しピンという意味)」 (※2)や「Handy」 (※3)といった便利屋の紹介サイトや、「Feastly」 (※4) や「EatWith」(※5) といったミールシェアリングのサイトである。

このようなフリーランサーとして働く機会を提供するビジネスの拡大が米国の労働市場と働き方を変形させている可能性がある。かつては使用者―労働者という予見しやすい労働関係が一般的であったが、そのような関係の一部はフリーランサー、派遣労働者、日雇い労働者によって取って代わられている。労働統計局は、使用者、労働者以外の第三者が介入する関係では、伝統的な雇用関係がみえにくくなる一方で、低賃金、貧弱な福利厚生、手薄い社会保障を誘発するおそれがある、とギグ・エコノミーの拡大を危惧している(※6) 。

図表1 オンラインプラットフォーム経済に携わる成人の割合(月毎)

出所: JP Morgan Chase Institute
http://qz.com/648420/there-is-no-uber-economy-there-is-only-uber/

労働者vs個人事業主

フリーランサーの増加とともにクローズアップされているのが労働者性の問題である。フリーランサーという名目で働いている人のほとんどは労働者ではなく個人事業主として働いている。しかし、Uberなどで個人事業主として働いていたドライバーが自身の働き方と地位に疑問を持ち、労働者vs個人事業主の分類ミスがあるとして会社を相手どって訴訟を提起した事例が複数あるように、この分類は非常にデリケートな問題を含んでいる(※7) 。

企業が個人事業主を活用するのは失業保険税、雇用税、諸々の福利厚生の負担義務、および、使用者としての責任を回避することができ、かつ、柔軟な労働力を得られるからである。しかし、個人事業主と労働者を区別するのは容易ではない。米国では内国歳入庁や労働省など各省庁は独自の審査方法で労働者であるかどうかを判断している。そのため、内国歳入庁では労働者と認められた人が、労働省では労働者と認められないというケースが発生しうる状況にあるなど問題が多く、実務に混乱を招いている。各省庁でこうした点を改善しつつ同時に「労働者」「個人事業主」の分類ミスの監視を強化するため、関係省庁では連携を強める一方で、労働省では2015年に公正労働基準法上の「労働者性」が容易に肯定され得る行政解釈の変更を公表している (※8) 。

働き方の多様化を受け入れるための法整備

労働者性を容易に肯定するような当局の姿勢は、あくまでも税収などを確保するためであり、働き方の多様化や柔軟化を重視してのものではなく、働く人の利益を必ずしも守るものでもない。このような規制強化は逆に多様性を阻害するおそれもある。

アメリカ人の多くは型にはまったフルタイマーのような働き方ではなく、裁量性の高い自由な働き方を求めている。法律や規則が時代にそぐわなくなっていると考える人は少なくない。既存のルールは、安定性は高いが拘束性も高い労働者か、安定性は低いが裁量性の高い個人事業主か、の極端な選択を企業と働き手に迫るものであるが、それはテクノロジーの進化と拡大や、生活や働き方の変化を無視したものになっているのではないだろうか。

情報技術イノベーション財団(Information Technology and Innovation Foundation, ITIF)は労働者と個人事業主の伝統的な区別があるために、ギグ・エコノミー企業がフリーランサーに十分な援助を提供できないでいると主張し、個人事業主にも教育訓練、ビジネスや資産運用への助言を提供できるように法改正すべきだと発言している。同財団は連邦議会で次のような3種類の改革を提案している(※9) 。

①適応措置 正規労働者と個人事業主の中間に新しいカテゴリーを設ける。
②是正措置 主要労働関連法を改めて精査し、目的に合わせて調整し直す。
③保留措置 一時的にギグ・エコノミーのプラットフォームを既存の労働法から適用除外するよう策定する。

もっともギグ・エコノミーに携わる人数は労働統計局の人口動態調査などには含まれておらず、どの程度の規模であるのかは不明である。確定申告の際に事業所得の申告をする人の数は増えているのは確かだが(図表2)、ギグ・エコノミーの規模自体はそれほど大きくないという説もあり、どのような法改正が実際的であるのかを判断するにはまず実情を把握する必要があるだろう。

図表2 内国歳入庁に提出された指数化された確定申告書数

出所:Eli Dourado & Christopher Koopman, "Evaluating the Growth of the 1099 Workforce," Mercatus Center, George Mason University, Dec 10, 2015. http://mercatus.org/publication/evaluating-growth-1099-workforce

 

(※1)Eric Auchard, "Now roughly equal in value, Uber and Daimler trade gently blows," Reuters Technology, June 8, 2016.
http://www.reuters.com/article/us-autos-uber-daimler-idUSKCN0YU2IN
(※2)Thumbtackは大工仕事、塗装、引越しからウェディングプランニングや音楽レッスンまでさまざまな作業ができるプロフェッショナルを利用者に紹介しており、2016年2月時点の登録者数は約15万人である(Glenn Carter, "Secrets of the Sharing Economy Part 2: Unofficial Guide to Using Airbnb, Uber, & More to Earn $1000's (The Casual Capitalist Series), Kindle Edition, 2016)。
(※3)Handy もThumbtackと同様のビジネスモデルで、提供サービスは清掃、水道工事、電気工事、引越し、家具の組立てなどさまざまである(前掲2 Carter)。
(※4)Feastlyはコックとしての経験がない人の登録を認めており、アマチュアのコックが腕を磨ける機会を提供している(前掲2 Carter)。
(※5)EatWithもFeastlyと類似のサービスを提供しているが、こちらはコックの経験を積むためというよりもディナーパーティやソーシャライジングに重点を置いている(前掲2 Carter)。
(※6)Editors' note, "Rising to the Challenge of a 21st Century Workforce," the Bureau of Labor Statistics, Monthly Labor Review, July 2015, http://www.bls.gov/opub/mlr/2015/article/rising-to-the-challenge-of-a-21st-century-workforce.htm
(※7)カリフォルニア州とマサチューセッツ州でUberを相手どったクラスアクションの事例では、Uberとドライバーの間で和解が成立し、Uber側が1億ドルの和解金を支払う形で決着した。その後もドライバーは労働者ではなく個人事業主として働くことで和解している(Case 3:13-cv-03826-EMC, U.S District Court, Northern District of California, 2016)。
(※8)U.S. Department of Labor, Administrator's Interpretation No. 2015-1 (2015).
(※9)ITIT, "Outmoded Labor Laws Discourage "Gig" Companies from Offering Benefits to Independent Contractors; ITIF Calls For Reform in Testimony Before House Small Business Committee," May 24, 2016. https://itif.org/publications/2016/05/24/outmoded-labor-laws-discourage-%E2%80%9Cgig%E2%80%9D-companies-offering-benefits-independent

Keiko Kayla Oka