テクノロジーとともに進化するWork Model 中村天江
「テクノロジー×働く」の4つの潮流
近年、「テクノロジー×働く」に高い関心が集まっている。背景には、第4次産業革命の進展、第3次ロボットブームと第3次AIブームの到来、シェアリングエコノミーの台頭という4つのうねりがある。
製造業におけるICTの活用や、小型化により日常に入りこみ始めたロボット。ディープラーニングにより人間の意思決定も代替するAI。Uberに代表されるCtoCビジネスやクラウドソーシングでの新たな働き方。これらは、産業構造の転換、要素技術の革新、新たな経済システムの登場と、一見異なるフィールドで起きている変化だ。しかし実際は、AIを活用したIoTの新サービスというように相互に関連している。
2010年以降、ひとつでもインパクトのあるこれらの変化が同時発生しており、それが「テクノロジー×働く」に高い関心が集まっている一因だ。
そして、このような中、「テクノロジーが雇用を奪う」という警鐘がならされるようになった。
「テクノロジーが完全に雇用を奪う」のは5%に満たない
テクノロジーと雇用の関係は、当初の「雇用の喪失」から、次第に「仕事のしかたの変化」に論点が移りつつある。
2009年、未来学者マーティン・フォードが「テクノロジーは雇用の75%を奪う("The Lights in The Tunnel Automation Accelerating Technology and the Economy of the Future")」を出版し、テクノロジーによる雇用喪失問題を世に問うた。
2013年には、オックスフォード大学のオズボーン准教授らが、「雇用の未来("The Future of Employment: How susceptible are jobs to computerisation? ")」において、米国の47%の職業がテクノロジーに代替される可能性があることを示す。
2015年に入るとマッキンゼーが、テクノロジーに代替されるのは仕事の全体ではなく、仕事を構成するタスクの一部であるとの報告をまとめた("How Many of Your Daily Tasks Could Be Automated? ")。マッキンゼーの推計結果によれば、多くの職業で一部のタスクは自動化されるが、完全に自動化される職業は5%に満たない。彼らは、タスクの再定義と、業務プロセスの再構築が欠かせないと主張している。
さらに、テクノロジーそのものを生み出す人材や、テクノロジーをビジネスに結び付ける仕事は今後増えていく。データサイエンティスト等、優秀なエンジニアの争奪戦は激しさを増し、地域によっては賃金も高騰している。一例をあげれば、第4次産業革命の牽引者であるGEは人材不足を突破すべく、シリコンバレーで積極的に人材獲得に取り組んでいる。
このようにわれわれは現在、テクノロジーとともに仕事のしかたを変える、変化の途上にある。
予測通りテクノロジーが実現する可能性は1割以下
テクノロジーは社会に急激な変化をもたらす一方で、テクノロジーによる変化は、突然起こらないという二面性がある。要素技術が開発され、それを実用化し、ビジネスモデルや業務フローを組み換え、それが社会で受け入れられるようになって初めて現実の変化となる。
奥和田久美「科学技術と社会の関係の変化」(2013年)によれば、日本の科学技術予測調査の20~30年後の実現率は、1971年の第1回予測から1992年の第5回予測まで、回を重ねるごとに、「その通りに実現した」が減少し、「一部は実現した」が増加し、第5回予測では「その通り実現した」は1割を切っている。つまり、テクノロジーが予測通り実現する可能性は下がっている。
AIが人間の知性を越えるシンギュラリティが2045年に来るとの言説に対し、科学技術者の中からも異論が出ているのも、このひとつの表れだろう。
テクノロジーでできることを机上で想像することと、それが社会に普及することには大きなギャップがある。このギャップを越え、テクノロジーによる善き変革を促進することこそが最も重要だ。善き変化が起きなければ、テクノロジーの可能性を活かすこともできない。
逆にテクノロジーを活かす環境をつくれれば、「テクノロジーによって生まれる負を、テクノロジーによって解決できる」ようになる。
「変化を起こす」「変化を楽しむ」がこれからのキャリア形成
テクノロジーは、企業の生産性を高め、新たな付加価値を生み、ワークスタイルや学びを、根本から変える。この大きなポテンシャルは、テクノロジーを生み出し、活かす人材がいて、初めて実現する。テクノロジーをビジネスに結び付け、業務フローに組み込んで初めて、テクノロジーの変化は現実のものとなる。
テクノロジーを活かして変化を起こし、テクノロジーとともに変化を楽しむ。そんな姿勢でキャリアを築けたら、これからの時代はチャレンジに満ちている。このような人材は何もエンジニアに限らない。しかし、経営や事業の現場で、テクノロジーに精通している人材は本当に稀少だ。
ワークス研究所では、テクノロジーとともに働く2030年に向け、「Work Model 2030 ―テクノロジーが日本の「働く」を変革する」をとりまとめた。日本のキャリア形成の現状や米国での兆しをふまえ、テクノロジーとともに進化するワークモデルを提案している。
テクノロジーと共存共栄し、テクノロジーとともに進化する。そのためのキャリア形成や人材活用の仕組みを議論する一助に、本報告書がなれば大変に嬉しい。
中村天江
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