長時間労働が常態化している職業は何か? 大久保幸夫

2016年10月14日

労働政策で今もっともホットなテーマは働き方改革だろう。

―少子化対策から女性活躍へ、そしてダイバーシティ&インクルージョンへと進むための残業しないワークモデル。
―イノベーションを促進する生産性向上に資する組織開発。
―より効率的に、かつ自律的に働くことを促すようなマネジメント改革。
―リモートワークに伴うフリーアドレス化やサテライトオフィスの展開、集中スペースとコミュニティスペースの区分などのオフィス改革。
―同一労働同一賃金の実現などの非正規労働者の処遇改善。
―高齢者も障碍者もすべての人が参画できる一億総活躍社会の実現。
―専業主婦優遇税制の改正などによる働き方や生活の在り方にフラットな税制。

すべてが「働き方改革」という壮大なテーマに括られることによって、過去に例がないほどの大型の雇用問題となっている。そのなかでも中核となるのはやはり長時間労働の改善だ。

長時間労働改善の道を阻む2つの問題

リクルートワークス研究所では労働時間の国際比較調査を行ったことがあるが、管理職と一般社員、それぞれの長時間労働傾向を見たところ、アメリカは管理職だけが長時間、中国、インド、タイはいずれも短く、日本だけが管理職も一般社員も長時間だった。これは日本人が仕事熱心というよりも、単にそういう慣行であるか、もしくは時間の使い方に課題があると感じる結果だった。
ではどのようにして長時間労働を改善するのか。2つの対象があることがわかる。ひとつは週あたり60時間を超えるような健康への影響が強く懸念される労働を社会ルールとしてなくしていくという問題。もうひとつはそこまでではない適法長時間労働をさらに改善して生産性を上げていくという問題である。この2つは根本から異なる話で、それぞれ別の解決法が必要になる。

ここでは60時間を超える長時間労働が常態化していることをいかに改善するか、に焦点を当ててみよう。

長時間労働である職種とは

そこでご覧いただきたいのが、「長時間労働が常態化している職業ランキング」である。これは2016年1月に実施した全国49000人に対する全国就業実態パネル調査を集計したものだが、週60時間を超えて働く人が多い職業をランキングしたものである。対象は雇用されて就業している人に限定した。

長時間労働が常態化している職業ランキング
※画像をクリックすると拡大します

圧倒的なトップはドライバーだ。特にトラックドライバーは深刻で、荷受け・荷卸しに待機時間が伴うことや長距離輸送の特性によって必然的に労働時間も長くなってしまう。厚生労働省や国土交通省などが連携して、長時間労働の抑制に向けた独自のロードマップを作成し、実証実験を行いながら、助成とガイドラインの普及に取り組んでいるが、まだまだ課題解決までは程遠い。
そして不動産仲介・売買人や保険代理人が続くが、営業・販売従事者同様、顧客対応のために休日出勤を余儀なくされることや営業時間以外の事務処理時間が長いことが原因であろう。
理美容師については、営業時間の長さや、閉店後の後処理・準備や教育研修などにより拘束時間が長くなる結果と推測される。
また、理美容師や、不動産仲介・売買人、保険代理人、記者、編集者、写真家、デザイナー、広告・出版・マスコミ関連専門職、法律関連専門職や経営関連専門職などの士業は、いずれも業務委託・フリーランサー比率の高い職業であり、生存競争が激しく、仕事のやり方も近代化されていない可能性がある。
さらに会社団体等管理職については、プレイヤーとしての仕事と管理者としての仕事の両方を背負い、担当職務が日々増え続けていることが長時間労働を誘発していると見るべきだろう。

職務特性に応じた解決策を

つまり個別の職務特性に応じた解決策を考えなければ、単純に規制を強化しても解決しないということだ。

そのためのポイントは
・業界内の過剰競争があり、ときにそれは顧客の望んでいることから乖離している場合には、業界前提で足並みを揃えて改善すること(たとえば営業時間や納品スピードなど)
・下請け構造のなかで長時間労働が発生している場合には、発注元に対する規制を政府サイドで検討すること
・職務を分解して、短時間勤務者に割り当てられる仕事を発見し、ジョブシェアすること
・モバイルテクノロジーなどの活用で仕事の効率化や無駄の削除を進めること。ときにはテクノロジー企業と連携して仕事効率化のためのツールを開発すること
・教育訓練が長時間労働を促進している側面を鑑みて、教育訓練の在り方を見直すこと
などであろう。

職務特性上、絶対に無理だと思っていても、意外に海外では同職種の人々が定時に帰っていたりするものだ。仕方ないとあきらめずに、チャレンジしたいものだ。働き方改革が社会課題になり、政府も支援し、顧客も理解してくれる今こそチャンスである。

大久保 幸夫

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