日本企業の給与制度・等級制度のいま 久米功一

2016年07月14日

日本的な雇用はどうなっているのか

経済の成熟化、グローバル競争の進展、少子高齢化などの社会構造の変化にともない、いわゆる日本的な雇用の見直しが進められてきた。その過程で、成果主義の導入・修正、非正規雇用の拡大、定年年齢の延長義務化など、日本企業の人事は、さまざまな人事課題に取り組んできた。

その根本には、長期的な雇用関係を前提とした年功的な処遇や職務遂行能力を重視した等級制度があるといわれている。はたしてそれらも変容しているのだろうか。このコラムでは、「ワークス人材マネジメント調査2015(以下、ワークス調査)」の調査結果を紹介して、人事制度のいまを把握して、いくつかの議論を呈したい。

年功給は低いが、職能等級を重視

ワークス調査は、東証一部上場企業を対象とする企業調査(176社が回答 )であり、非管理職・管理職のそれぞれに対して、あてはまる給与制度と等級制度を複数回答してもらっている。ここでは、これらを足し合わせて、延べ回答数を計算して、給与制度と等級制度の導入状況を調べた。例えば、ある企業が非管理職に年功給と職務給、管理職に成果給を導入していれば、年功給1社、職務給1社、成果給1社とカウントした。こうして集計した延べ企業数を有効回答数で割って導入率を計算した。

給与制度をみると(図表1・左)、職務給70.2%、成果給70.2%、年功給41.7%である。職務給と成果給の組み合わせが25.9%と最も多い。年功給が中心とは必ずしもいえない状況である。他方、等級制度(図表1・右)は、職能資格63.7%、役割等級51.2%、職務等級28.6%である。ここでは、職能資格のみが31.0%と最も高く、職能資格制度が中心となっている。とくに、職務等級制度の割合が比較的低い点(28.6%)も特筆すべきだろう。

図表1.給与制度(左)と等級制度(右)

(※)サンプルサイズに限りがあるため、結果の解釈に注意する必要があるが、多様な業種における主要企業からの回答を含んでいる。

続いて、図表2に、給与制度と等級制度の組み合わせを示す。給与制度を問わず、職能資格制度との組み合わせの比率が最も高いことがわかる。職能資格制度は、従業員が持つ能力に応じて等級を定める制度であり、等級が職務(職種)を越えて設定されることで、社内異動、ゼネラリスト育成など、これまでの日本企業の強みの源となっていた。その一方で、能力考課が難しく、年功的な運用になりがちで、人件費の高騰を招いた。今回の結果からは、現在でも職能資格制度を採用しながら、給与制度においては、職務給や成果給の割合を増やすなどして修正を図っている日本企業の姿がみてとれる。

図表2.給与制度と等級制度の組み合わせ

職務の見直しとこれからの人事制度の行方

年功的で職能型といわれてきた日本企業の人事制度だが、本調査の回答を見る限り、給与制度では、年功制は弱まり、成果給・職務給が台頭している。他方、等級制度では、職能資格制度が主体のままであった 。日本企業の強みをいかしながら、処遇の面での修正を図り、人事課題にも対応してきたといえよう。

昨今、時間効率的な働き方の推進、あるいは、限定正社員の導入などの議論において、職務の分解、周辺的な仕事の切り出しなど、適切な職務設計が求められている。働く現場では、職務ベースでの仕事の見直しが進みつつある中で、人事制度がこれをどう支えていけるか、今後の動向に注目したい。

 

(※)なお、総合職一般社員から上級管理職までの資格等級数の平均は9.5である。5年前と比べて増減なしが66.7%と大多数を占めた。等級数の増減を見通せるほどには、変化の方向感がなく(増えた20.1%、減った13.2%)、8~10が一つの目安となっていることが伺われる。

久米 功一

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