女性の管理職登用を進めるために人事がすべきこと 久米功一

2015年10月21日

待ったなしの「女性活躍推進」

2015年8月、女性活躍推進法(女性の職業生活における活躍の推進に関する法律)が成立した。これにより、2016年4月から、労働者301人以上の大企業には、女性の活躍推進に向けた数値目標と取り組みを盛り込んだ行動計画の策定・公表などが新たに義務付けられた。行動計画の策定にあたって、企業が把握すべき状況の例として、採用者に占める女性比率や管理職に占める女性比率などが挙げられている(注1)。

数値目標は有効か?

中長期的な労働力不足、多様な人材の活用による付加価値の向上などに鑑みれば、女性の活躍推進は、本法律の成立にかかわらず、企業の事業存続を懸けて取り組むべき、最重要課題のひとつである。この法律が求める、数値目標の設定などのコミットメントは、強力な推進要因となる。しかし、目標値が独り歩きして、目的と手段を取り違えてしまえば、企業経営を危うくするおそれもありうる。

厳しい現実

では、女性の管理職登用の現状はどうなっているか。2013年に東証一部上場企業238社から回答を得た、弊所「Works人材マネジメント調査2013」によると、課長相当職に占める女性割合は、メーカーで2.2%、非メーカーで3.4%であった(注2)。政府の掲げる目標30%にははるかに及ばない(注3)。ならば、女性管理職の数値目標はどうか。同調査によれば、数値目標を設定している割合は11.8%に過ぎず(図表1に業種別状況)、数値目標によるマネジメントすらなされていないという厳しい現実がある(注4)。

図表1.女性管理職の数値目標設定状況

女性活躍を促す、有効な人事施策はあるのか

急がれる数値目標の策定とその達成に向けて、人事は何をするべきか。これを検討するにあたっては、どの人事施策が女性の管理職登用と関係するのか、その現状把握が役立つだろう。上述の弊所調査における、評価、選抜、年次管理に着目すると、図表2の通りであった。

図表2.評価制度、選抜、年次管理と女性管理職比率

とくに製造業では、評価制度のある企業の女性管理職比率は、制度のない製造業のそれに比べて約0.8%ポイント高かった。同様に、次世代リーダーの選抜・育成の仕組みがある企業の女性管理職比率は有意に高く、年次管理している企業では低かった。これらの結果は、今後の詳細分析を要するものではあるが、女性の管理職登用は、(適正かつ納得感のある)評価制度や優れた人材を抜擢する仕組みの構築に関係している可能性を示唆している。

「女性活躍推進」のカギは、男女を問わない取り組みにある

「本人を適切に評価し、しかるべき時期に抜擢する」、これは、男女を問わない、人事施策の王道である。女性の活躍推進に向けては、ライフイベントとキャリアの両立(例. 出産による休職)などに配慮するだけでなく、男女双方にとって、本人の希望に応じて、その能力を十分に発揮させられるような、公平で納得感のある評価や抜擢、つまり、ルールと仕事機会が確保できているか、人事施策の王道に立ち返っていま一度考える必要がある。女性管理職登用が進まない企業の声から、暗黙的な男性優位のルールが支配的な職場の様子を想像するのは、筆者だけではないだろう(注5)。

注1)厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ」を参照
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091025.html
注2)厚生労働省「平成 25 年度雇用均等基本調査」(企業調査、調査対象数6,115社、有効回答数3874社)によると、課長相当職の女性管理職割合は、規模計では6.0%、5,000 人以上規模で4.5%、10~29人規模で12.3%である。
注3)2013年6月に閣議決定された「日本再興戦略」では、「社会のあらゆる分野で2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%以上」が掲げられている。
注4)厚生労働省「平成 25 年度雇用均等基本調査」において、女性の管理職への登用を促進するために、何らかの取り組みを行っている企業割合は38.2%、うち、目標人数や目標比率の設定は9.2%であった。
注5)厚生労働省「平成 25 年度雇用均等基本調査」によると、女性管理職が少ないあるいは全くいない企業の主な理由として、「現時点では、必要な知識や経験、判断力等を有する女性がいない」58.3%、「女性が希望しないため」21.0%、「将来管理職に就く可能性のある女性はいるが、現在、管理職に就くための在職年数等を満たしている者はいない」19.0%、「勤続年数が短く、管理職になるまでに退職する」16.2%が挙げられている。

久米功一

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