Vol.30 河合 克友氏 大和ハウス工業

2012年04月27日

創業50周年を機に、人事施策でボトムアップ推進

大久保 現在は、売上げ2兆円を目標に第3次中期経営計画に取り組んでいるそうですが、その先にも、2055年の創業100周年に10兆円の企業グループになるという非常に長期の視界をお持ちですね。

河合 だいぶ先のようですが、人事としては、そのときに必要な人財基盤をいかに築いていくかが、今から重要なテーマになっています。

大久保 2005年の創業50周年から、新たな人事施策を積極的に立ち上げています。

河合 50周年は、次の50年がどうあるべきかを考えていく大きなきっかけでした。そこで、社内にボトムアップの気運を起こすような人事施策をいくつか導入したのです。

大久保 御社は、創業者の強いリーダーシップで成長してきた会社というイメージがあります。

河合 激動の時代はトップダウンも必要でしたが、それがだんだん落ち着いて、今は変革を起こしていかなければならない時代になった。こういう時期は、社員のモチベーションや一体感が不可欠です。まずは人事制度をボトムアップ型にしていくべきだと考えました。

大久保 人事制度を使ってトップダウンとボトムアップのバランスを取ったということですね。どのようにしてボトムアップを実現させたのですか。

河合 全社員に、給与や福利厚生などの項目でアンケートを実施しました。当時は社員数1万1000人ほどでしたが9000人の回答を集め、そこから社員が望んでいることを反映させた新たな人事施策を、一挙に14制度つくり上げました。

大久保 社員の総意として実現させたのですね。そのなかで目玉になった制度は?

河合 「次世代育成一時金制度」は反響がありました。社員アンケートでも出産時の費用に関する要望は多かったのです。それで、月々5000円支給していた子ども手当を、出産時にまとめて100万円払う形に変えました。導入後6年間で生まれた子どもは4600人ですから、かなりの少子化対策になっていると思います。ほかには、最大100日まで増やせる「有給休暇積立制度」は入院や介護に利用されています。しかし6年も経てば古くなっているところもあるはず。このあたりで、またアンケートをとって見直すよう言っています。自分がつくった制度は変えたくないものですが、制度を壊すのもまた人事の仕事です。

公募研修制度で、幹部候補を本社から可視化

大久保 人材育成に関しては、どのようなボトムアップ制度がありますか。

河合 「支店長公募育成研修制度」があります。支店長になりたい人に自薦他薦で手をあげさせ、その後教育を行います。また、グループを含む役員候補については、役員推薦による「大和ハウス塾」という研修があります。代表取締役会長の樋口武男も次の経営者候補は見ておきたいとのことで、1泊2日の研修期間中一緒に泊まって面接や懇親会を行っています。2011年の4期生までで累計175人が受講し24人が実際に役員登用されました。

大久保 公募制度を導入している会社はありますが、公募したあとに教育を行うという考え方が面白いですね。

河合 本社からは、支店長候補にあたる営業所長や部門課長クラスの人財がどんな人物なのかが、なかなか見えない。業績のよい人は目立ちますが、本当にリーダーシップがあるか、経営への情熱があるかは伝わってきません。

大久保 業績の良い人が必ずしもいい管理職になるとは限らない。それぞれの候補者の特徴を見て、足りない部分を事前教育で補完していくわけですね。

河合 配属先の判断にも役立っています。全国の事業所にはそれぞれ各地の県民性があり、合う合わないがどうしてもありますから。

中国現法社員を本社留学させ、グローバル人財に

大久保 今、新たに力を入れている人事施策は、どのようなことですか。

河合 女性の活性化と外国人の活性化です。目標10兆円の内訳は国内3兆円、海外7兆円。外国人の戦力化は特に大きな鍵になります。そこで2012年4月から、中国・大連の事務処理アウトソーシング会社の中国人社員を、日本本社に留学させる制度をスタートさせました。1年間日本で仕事をし、研修終了後は前の会社に戻るか、ほかのグローバルな事業に挑戦するか選択してもらいます。現地採用社員は、高学歴なうえに能力も高い。同じ仕事を続けさせるだけでは、いずれ転職してしまいます。大和ハウス工業のDNAをしっかり身につけ、今後さらに広がっていくグローバル事業でマネジャーとして活躍する道があったほうが、本人にとっても会社にとってもいい。

大久保 中国人は、日本人以上にキャリアアップに意欲的です。ただ、留学制度には課題も多い。日本で経験させる仕事、帰国後与える仕事のレベルが不適切だと、かえってモチベーションが下がってしまう。また、日本で技術やノウハウを学んだことで他社に引き抜かれやすくもなります。

河合 他社に高待遇を示されると転職しがちですね。

大久保 中国人の転職実態について、インタビューを行ったことがあります。彼らは共通してこう言うのです。この会社でキャリアを積めるか不安だから、より自分を認めてくれる会社に行くのだと。つまり求めているのは安定なのです。実際、若くして入社した中国人が管理職や経営幹部になった実績ができた会社は、離職率が安定する傾向があります。

河合 当社も1期生が、10年たって4人残っていますが、そういう人たちを大事にしたい。だから、どんなに優秀な若手でも、あえて勤続5年以上を日本留学の条件にしています。そして留学終了後の希望キャリアを必ず聞く。前の部署のまま高い役職に就きたい、上海に出てより大きな仕事をしたい、中国全体をステージに活躍したい、あるいは日本で働きたいといった希望を受け止め、本人にとってよりよい待遇を用意しないといけないと思っています。

大久保 現地法人で雇用した中国人と、日本法人の社員として雇用した中国人、この共存も非常に難しいとよく聞きます。能力差が相当ないと、妬み、嫉み、反発でつぶされてしまう。

河合 日本語が上手な人は我々の目にはよく映る。でも、現地社員に話を聞くと全然違うことがある。中国人同士には葛藤があるはずです。そうした点も配慮が必要でしょう。

女性管理職候者補研修は、直属上司の同席が鍵

大久保 女性の活性化については、どのような対応をされていますか。

河合 これも、創業50周年のときに見直しをしました。女性役員どころか女性管理職が8人しかいなかったからです。

大久保 建設業はもともと女性が少なく、管理職候補をつくることからして難しい。

河合 そうなのです。女性社員は全社員の13%しかいませんでした。そこで、まずは女性が活躍できる場をつくって女性社員を増やし、管理職候補である主任層を増やしていこうということになりました。それから5年たちましたが、管理職候補は120人から320人に増え、管理職も30人まで増やすことができました。この間、女性社員向けの教育もかなり力を注いでやっています。

大久保 どのような工夫をされたのですか。

河合 弊社の場合、上司たる男性側の理解が足りないのもネックでした。そこで、女性管理職候補者の研修は、必ず、直属上司同席にしたのです。これによって、かなり変化が出てきました。本社の全体研修でどれだけ学んだとしても、事業所に戻ると上司が理解を示してくれない、という状況では、やはり女性の活性化は進みません。

大久保 住宅には本来、女性の視点が欠かせませんよね。

河合 家を建てるときの決定権は奥様である場合が多いですからね。特に、今はマーケットインの時代なので女性視点からの商品づくりが大切です。現状は設計部門への配属がいちばん多いですが、今後さらに活躍の場を広げていく必要があると思っています。

(TEXT/荻原 美佳 PHOTO/刑部 友康)