Vol.28 村山 啓氏 ローソン

2012年04月27日

事業の成長フェーズが上がり、必要人材像に変化

大久保 コンビニエンスストアが日本に登場して約40年。御社の店舗数も、ついに国内1万店を超えたそうですね。

村山 生鮮コンビニエンスストアの「ローソンストア100」も合わせると、1万店を超えます。

大久保 全国網羅の段階は達成し、いよいよ次のフェーズに入るのではないでしょうか。ここからは各社の個性が出そうです。今後はどのような展開を想定していますか。

村山 メインの国内コンビニエンスストア事業については、さらに拡大していくために、より川上でメーカー機能を持ち、製造小売型コンビニエンスストアへと進化することになるでしょう。2つ目の柱は、エンタメ系商材をリアル店舗やインターネットをはじめ、あらゆるチャネルで購入できるようにするエンタテイメント・EC事業ですが、これはEコマース分野の特性上、コンビニエンスストアの枠を超えて発展していくかもしれません。3つ目の柱の海外事業は、今後5〜10年で中国に1万店出店を目指しています。

大久保 これまでの延長というわけにはいかず、必要な人材像も変わってきそうです。

村山 ええ。小売店1万店を運営する組織というのは、どちらかというと農耕民族的風土でした。きちんとした組織ピラミッドで、指示する人、従う人がいて、指示通りに行うことが求められた。そのため、何をやるのか自分で考えろと言われるのは非常に苦手でした。10年前に社長が新浪剛史になり「なぜ考えないのか」ということをよく言われましたが、最近はだいぶ変わってきたと思います。

大久保 当時から、次の成長フェーズを意識されていたのでしょう。人材育成プロセスについてはどうですか。

村山 現在のいちばんの課題です。今でも弊社は、新入社員全員が最初は店舗で現場経験を積みます。1〜2年販売を学び、スーパーバイザーを経験してようやく職種が分かれますが、本当にすべての事業で現場経験が必要なのか、一部尖った人材も採用し別のキャリアパスを用意すべきではないかということも考える時期だと思います。とはいえ、どんな事業も利益の源泉である店舗を知らずにできるわけがないという考え方もあり、なかなか結論が出ません。

大久保 企業の成長段階として、店舗を増やすことがミッションであった時期には、現場で学びながら業務判断力をつけていくキャリアラダーが効率的だった。しかし、1万店舗を超え新たな成長段階に入るなら、キャリアの考え方も変わらざるを得ない。成長フェーズが上がるということは、企業の中身も相当変わるということですね。

ノウハウ移植部隊の派遣で中国1万店を目指す

大久保 中国で1万店を目指す海外事業については、どのような人材戦略をとっていますか?

村山 日本から事業運営のための人材を送り込むイメージはありません。中国各地に現地法人をつくり、それぞれにローソンのノウハウを移植していくという考え方です。商品開発、店舗開発、運営指導などの人材を集めた指導部隊を、上海の次は重慶、重慶の次はどこと移動させていくやり方になると思います。上海現地法人が既に相当の規模になっているので、しばらくはそこの人材で対応していく予定です。

大久保 御社は1996年から中国展開されていますが、今回巻き返しを図るにあたって戦略を変えたところはありますか。

村山 以前は、基本的に、日本人が現地を運営していく考え方だったと思います。

大久保 今回は、ローソンというシステムを輸出する戦略に変えたのですね。コンビニエンスストア事業は日本で完成されたシステムですが、そのまま中国でも使えますか。

村山 商品が食品中心なので、食文化に合わせた現地化が必要です。ただ、高度成長期、忙しい人々に受け入れられて成長してきたローソンのコンセプトは、今の中国にマッチするでしょう。反対に、成熟期の国には健康志向の「ナチュラルローソン」で展開するなど、世界各国、成長段階に応じた展開が可能だと思っています。

全国展開を進めると同時に各地のローカル化を推進

大久保 2011年の東日本大震災では、コンビニエンスストアがあらためて見直されました。

村山 ライフラインとしてのコンビニということですね。15年前の阪神・淡路大震災の経験もあり、こういう時に役に立たなくてどうするんだという気持ちが、皆にありました。

大久保 全国どこでも同じ安心感、同じサービスのコンビニエンスストアのはずが、あの瞬間は、地域の店舗、地域の事業に見えました。

村山 ありがたいことです。地域の方々にセーフティステーションとして受け止めていただいていることを、我々は一層自覚しなければなりません。より地域に密着している加盟店の方々は、特に強く感じていると思います。

大久保 よく、グローバル化かローカル化かという言い方をしますが、グローバル化が進んでいくということは、実は同時にローカル化も進行しているということ。御社はまさにそれです。日本で完成されたモデルを他国の実情に合わせてアレンジして展開していくうちに、日本もローカルの1つになり、よりローカルの実情に合った形に変貌していく。全体と部分のバランスが非常によく保たれている。

村山 全国同じ商品を店頭に並べるのではなく、その町その町で求められる地域に密着した「マチのほっとステーション」を目指しています。チェーンとしては同じものをつくるほうが効率的ですが、あえてそうではない道を進んでいるのです。

外国人社員を埋没させないために3割の比率で採用

大久保 御社では、ほかの企業に先んじて5年前から留学生採用を始めました。当時から日本人社員と同じキャリアパスです。そこには、どのような考えがあったのでしょう。

村山 内なる国際化が目的です。日本人と外国人が当たり前のように机を並べて働く企業を目指し、新卒採用の3分の1を目標にしました。

大久保 最初から3割。

村山 3分の1はいないと、全体のなかで埋没してしまうからです。それでは外国人採用をやったという事実があるだけで何の意味もない。日本人社員同様、販売やスーパーバイザーをやってもらうこと、特別扱いもしないが区別もしないことを約束して採用しました。初年度を除いて、2〜3割の外国人採用を継続しています。

大久保 累計100人以上になるそうですが、効果はいかがですか。

村山 まず目立ったのが、日本人新入社員の活性化です。研修が始まってみると外国人のほうが積極的でリーダーシップもある。日本人はかなり刺激を受けたようです。受け入れ現場も最初は敬遠しがちでしたが、配属してみると非常に評判がよかった。ただ5年たって、反省すべき点もあります。現在、その優秀だった外国人社員が日本人の1歩先、2歩先のキャリアを進んでいるわけではないからです。特別扱いしないことは本当にいいことなのか見直しが必要です。それでも定着はうまくいっています。人事にいたベトナム人、中国人、韓国人などの女性スタッフが個人的にメールや電話で彼らの相談に乗ってくれていたからです。彼女たちの貢献は大きかった。

大久保 日本人と区別しないことが平等とは限らない。日本ルールでやるということ自体が、外国人にとってはハンディキャップです。

村山 そうなんです。中国、韓国、台湾などの漢字圏はまだいいですが、タイやインドネシアなどの非漢字圏出身者は、報告書ひとつにしても苦労があります。そうしたハンディをどう見てあげるか、ルールができていません。

大久保 その人たちが本社スタッフとして働くようになり、ルールをつくる側になるとまた変わってくるでしょう。

村山 はい。第1期生がようやく本社で活躍し始めるので、これからです。

大久保 内なる国際化のためには、ぜひ、外国人管理職が出てきてほしいですね。

(TEXT/荻原 美佳 PHOTO/刑部 友康)