Vol.26 成清 雄一氏 TOTO
イノベーションを引き起こすのは、強い意志
大久保 ウォシュレットが開発されて30年。文化や習慣を越えてこれほど世界で受け入れられている商品はめずらしい。そうしたイノベーションを生み出した御社の風土には興味があります。
成清 ありがとうございます。業界リーダーに求められるのは、お客さまがまだ体感したことのない新しい価値を創造していくこと。現在も、電解除菌水による洗浄機能を搭載したウォシュレットや自己発電水栓など、次々と業界初の商品を出しています。今後も国内では高齢化、グローバルでは節水、省エネ、CO2削減と、イノベーション課題は山積みです。
大久保 そうしたイノベーションを次々と実現させていくために、どのような人材が必要だとお考えですか。
成清 弊社では「強い人財」という言い方をしています。いろいろ定義はありますが、いちばん大事なのは、強い意志を持っていることですね。最初から過半数の人が認めてくれそうな答えを探すのではなく、全員から反対されても、絶対これをやるんだと逆に周りを説得していくような人です。その人の意志の強さに、次第に周りがついてくる。
大久保 まったく同感です。『Works』誌に「成功の本質」という連載記事がありますが、そこに登場する事例に共通するのが意志の存在です。イノベーションは、絶対にこうだ!という主観から生まれるのです。マーケティングからではありません。
多様な組織での意志疎通で、強い意志が育つ
大久保 そうした意志の強い人材は、どんなメカニズムで生まれるのでしょう。
成清 月並みな答えかもしれませんが、やはり多様性が鍵だと思います。文化背景が異なる相手には常識が通じない。だからこそ普遍的な事実を組み立てながら、何とか共感を得ようとする強い意志が育つのではないかと思います。
大久保 それをいかに組織づくりに落とし込んでいくか。
成清 そうですね。たとえ多様性の高い組織をつくっても、成功すれば神格化が起き、一気に同質化してしまう。その点、弊社は歴史的に恵まれていました。もともと陶器屋だったのが、水栓金具の自製化のために鋳物、機械、メッキといった分野の技術者が加わり、続いて樹脂、電気と、次々新領域の技術者が中途採用を中心に拡充された。ごく自然に、多様性が担保されてきたんですね。
大久保 なるほど。
成清 もう1つは北九州の地域性です。地方の小さな町だったところに、明治時代に八幡製鐵所ができ日本中から人が集められた。そこに弊社や安川電機、ゼンリンといった企業が本社を置き、日産自動車の前身も北九州発。1963年には個性の異なる5市が合併して北九州市になった。もともと文化がぶつかり合う風土なのです。その影響は少なくないと思います。
高級ブランドとして、的を絞ってグローバル展開
大久保 御社のグローバル戦略は非常に特徴的ですね。高級ブランドとして、かなり的を絞った展開をされています。
成清 環境に対する考え方など、弊社の価値観が確実に伝わるところに伝えていこうとすると、ターゲットはハイエンドゾーンに絞られるのです。的を絞って着実にブランドイメージを築き上げる戦略でこれまで成功してきましたし、これからもこの路線で進めます。
大久保 しかし、文化衛生的な考え方や水道基準は世界ばらばら。グローバル展開上の課題も多いはずです。研究開発の現地化はどう進めていますか。
成清 これまでは日本にある研究開発部門が対応してきました。1990年代半ばの欧米における洗浄水量6リットル規制の動きにも、現地の営業やマーケッターがいち早く日本の本社を動かして乗り切りました。今後は、海外にも一部、開発拠点を置きますが、日本で開発したコアテクノロジーをグローバルスタンダードと位置付けて、そのうえで地域特性に応じた味付けを行うイメージになると思います。
大久保 現在、外国人社員はどのくらいいますか?
成清 日本のTOTOでも毎年数名外国籍社員を採用していますが、グローバルで見れば既にTOTOグループで働く方のほぼ半数は外国人です。これを創業100周年の2017年には、現地の課長クラスを現在の約90%から100%に、部長クラスを約55%から90%に、経営陣を21%から50%にする数値目標を掲げています。現地の経営陣を旗頭に、リージョンナンバーワン企業になってもらう。TOTOはそうした現地法人の集合体として、結果的にグローバルナンバーワンとなっていこうという考え方です。
大久保 多くの企業では今、海外企業をM&Aすることで一気にグローバル化を進める戦略が採られていますが、御社はそうしたM&Aは行わないのですか。
成清 売上や利益の拡大だけを目的に海外ブランドを買うことは今のところ考えていません。M&Aはあくまで、TOTOの企業理念や商品を理解し、いっしょにやっていける企業という観点で行っています。
地域貢献は、それを常に意識できる人づくりから
大久保 御社は地域貢献にも力を入れていますね。
成清 はい。環境ビジョンとして「TOTO Green Challenge」を掲げ、会社としての商品づくりや地域活動を進めていますが、そのほか、この活動では人づくりにも注力し、地域社会による包摂(Social Inclusion)の重要性を認識し、行動する人財を育てていきたいと考えています。
大久保 会社としての地域貢献のほかに、個人の地域貢献も求めている点もめずらしいですね。
成清 会社がそうした地域貢献を行うためには、まず、人づくりが必要だと考えるからです。会社としても、個人の環境貢献ボランティアを奨励したり、地域の人とともにどんぐりの森を育てたり、工場や本社、営業拠点の周辺を清掃するようなイベントを開催して盛り上げています。弊社の工場は、夏祭りなども昔から業者に丸投げするようなことはせず、社員が中心になって運営してきました。地域の人と一緒になって楽しむのは、そこに存在し、地域の人と共生していくなら当たり前という感覚です。今後も、皆がそう考えるような人づくりをしていきたいと思っています。
女性活用と若手早期抜擢で組織構造の歪みを解決
大久保 ほかに中長期的な人事課題として、どのようなことがありますか?
成清 人口ピラミッド問題ですね。バブル後に採用を控えた層が大きな谷間になっていて、彼らが課長世代になる2017年頃に深刻な人財不足を迎える可能性があります。そこで注目したのが、かつて一般職で採用した女性社員です。かなり優秀な人財が今でも残っており、彼女たちを管理職に抜擢して人財不足を補うとともに、ダイバーシティーも同時に進めていく戦略を強力に推進しています。現在、女性管理職の割合は3.8%ほどですが、2017年までに10%に増やすことを目標に、女性向けフォーラムなどの研修を強化しています。
大久保 なるほど。ですが、技術系については女性の母数自体が少なく、その方法だけでは補いきれないのでは。
成清 そうです。そこで、もう1つの柱として、若手の早期抜擢ということも考えています。30代前半の層を対象とした経営塾(選抜型次世代リーダー養成塾)や階層別研修を強化しているところです。
大久保 組織構造の歪みを、女性活用と若手の早期抜擢で解決していくということですね。
成清 はい。そして第3の柱が障がい者雇用です。弊社と福岡県、北九州市で設立した特例子会社で重度の障がい者を多数雇用するとともに、並行して一般の職場でもノーマライゼーションを進め、多面的な職域の拡大を図っていきます。
大久保 御社の障がい者雇用率は、現在どのくらいですか。
成清 グループ全体で約1.9%です。2017年には2.5%を実現しようとしているのですが、ここでも大事になってくるのが地域なのです。通勤圏内の地域の学校との協力関係は欠かせません。
大久保 法定雇用率を上回る障がい者雇用を本気で実現しようとしたら、地域との共生や地域貢献という視点は不可欠かもしれませんね。
成清 いろいろな意味で、地域との共生は非常に大事なことだと思いますね。特に障がい者は東京中心の採用活動だけではカバーできませんので、地域密着の活動も拡大しています。
(TEXT/荻原 美佳 PHOTO/刑部 友康)