Vol.04 牛尾 文昭氏 東芝

2012年04月27日

グローバル化に伴う人材の再配置が大きな課題

大久保 今後の経営戦略とそれに伴う組織について、今どのような考えをお持ちですか。

牛尾 弊社は「グローバルトップへの挑戦」を経営方針に掲げています。デジタルプロダクツ、電子デバイス、社会インフラ、家庭電器の4事業分野とも順調に利益をあげていますが、ROS(売上高営業利益率)はまだ4%程度です。これを同分野のグローバルトップ企業並みの2桁に上げること、そして、国内45%、海外55%の売上げ高比率を2013年までに国内、欧米、新興国で各3分の1にすることが当面の目標になっています。そうしたグローバル化の進展に合わせて人材配置をどう行うかが、今後、人事最大の課題になるでしょう。

大久保 少なくとも海外従業員のウエイトは過半数になっていくのではないでしょうか。

牛尾 現在、弊社の従業員構成は海外4割、国内6割です。今、デジタルプロダクツ製品を中心に海外への生産移転が進んでいますが、OEMやODMなどの委託生産が主流です。一方で国内工場はそのまま残っている。だから従業員の海外比率はそう簡単に上がらずに、むしろ国内と海外の二重コストが生じている。こうした構造を何とかしないとグローバルで生き残るのは難しいと思います。

大久保 日本企業共通の課題です。いくら長期的な危機感を抱いていても、よほどの経営危機にならない限り雇用調整に踏み切れない。そうした日本ルールが足かせになって、スピード勝負のグローバル化に、日本企業が生き残れないとしたら。これは悩ましい問題です。

海外採用は簡単ではない。日本の採用はそう変わらない

大久保 グローバル化を進めていくと、国ごとに労働ルールが異なるという問題に突き当たります。日本の雇用管理や採用ルールは変わっていくでしょうか。

牛尾 いや。東大で秋入学が検討されていますが、私は、時期がズレることはあるかもしれませんが、この先も新卒一括採用が大きく崩れることはないと思います。

大久保 しかし今の時代、日本のような解雇規制の厳しい国で面接だけで新卒を採るのは非常に危険です。海外では新卒採用も若年採用の一部であり、学校の成績を重視し、基本的にインターンシップから採用する。海外採用比率が高まれば、日本だけ違うルールを用いるのは合理的ではないように思いますが。

牛尾 弊社は20年前からグローバル採用を始めています。欧米の大学から相当の数の技術者を採用しましたが、2~3年しか定着しなかった。その後2006年に東南アジアの大学からの正規社員採用を復活し、現在200名弱採用しましたが、未だ試行錯誤中です。今回の震災、それに伴う原発問題でも慰留に苦労しました。外国人は定着が難しい。そう簡単には増えていかないと思います。

大久保 サービス業には日本人を上回る数の外国人採用を行う企業が出始めました。経営者が相当アクセルを踏み込み組織を変えようとしている。外国人比率が一定以上になればマネジメントも経営ボードも変わると思いますが、何段階かステップが必要かもしれません。

育成課題が複雑化。人材は、4象限に分けて考える

牛尾 2つ目の課題は人材開発です。グローバル化により育成課題も多様になるでしょう。我々は、人材を4象限に分けて考えています。縦軸は日本人か外国人か、横軸は働く場所が日本か海外か。日本人向けに非常に手厚いビジネススキル教育を行いながら、海外ローカル向けには、今までプログラム自体が充実していませんでしたからビジネススキル教育は急務です。今、アジアや中国でやり始めています。

大久保 日本人のグローバルリーダーはどう育成しますか。早くからいくつか海外マーケットを経験させるとか?

牛尾 それも一手。そのためにはより計画的に人事を行う必要がある。たとえば、現在の現法トップは50代が多いのですが、30代で一度経験させる仕組みにならないとグローバルリーダー育成は難しい。やがては事業部に任せきりではなく、コーポレート主導で変えていかないとならないでしょう。

大久保 グローバルでトップ人材を選抜し育成していく取り組みなどは?

牛尾 そこまでは出来ていませんが、必要性は感じています。今までのように現法トップを日本人が交代で務める体制でいいのかと。ローカル社員も、もっと多くトップに登用されてもいいと感じています。

大久保 その場合も、戦略的意思決定のコアは日本に置くのでしょうか。

牛尾 その辺は変わっていくのではないかと思います。たとえば弊社のデジタルプロダクツの売上げは7~8割が海外。パソコンなどは8割を超えている。そうしたビジネスの本社がなぜ日本にあるのか。事業ごとに本社が違ってもいいと思います。いちばん市場に近い地域でビジネスを展開するほうが合理的です。

大久保 ヘッドクォーターが分散していく。

牛尾 事業分野が広いのでそれもありえます。

大久保 ただローカル化には負の要因もあると聞きます。

牛尾 ガバナンス体制は考え直さないとならないでしょう。日本人の間では当たり前の、こういうことは事前に決裁が必要、報告が必要という不文律を、はっきり明文化して外国人社員に伝えることから始めないと。

大久保 ある企業で、日本本社の経営会議をどう行えば現地の人が理解できる会議になるか、がテーマになっていると伺いました。

牛尾 そうなんです。通知の流し方1つにしても、駐在人が英訳して現地トップに伝えるような今の体制は変えないとならない。それほどローカル化というのは多岐にわたる課題がある。すべてがクリアにならない限りなかなか進まない。逆に言えばそれらをすべてやらなければならないということです。これまで日本はやってこなかったわけですから。

高齢者活用は経験やメンテナンス重視事業に可能性

牛尾 もうひとつの課題はダイバーシティの推進です。女性役職者比率は3.5%まで進み、グローバル採用も前述の通り定着。障害者雇用も法定雇用率を上回っています。残るは年齢によらない雇用。ここが現状では難しい。

大久保 高齢化問題は、年金問題などもあり時間的にあまり猶予がありませんが。

牛尾 確かにそうですが、我々は今、簡単に人員を増やせる状況ではない。一律に定年延長は難しい。ただ個別には、社会インフラ分野など経験がものを言いメンテナンスが欠かせない事業や職種で、可能性がある。

大久保 社会インフラ分野は、海外でもノウハウやメンテナンスが必要とされています。でも、高齢者はあまり行きたがらないのでは?

牛尾 いや、かつて海外に行った経験がある人は案外行きたがります。高齢者を生かす場として期待できると思っています。

大久保 行った場所だと抵抗がない。

牛尾 以前東南アジアで、労働争議のような状態になったことがあります。ビジネスライクに事を進めすぎたんですね。ところが工場立ち上げ当時の、現地の従業員とスキンシップを取ってくれるようなベテラン社員が現地に行ったら、途端にすべてが解決してしまったんです。グローバル化は必ずしもビジネスライクなことばかりではなく、結構人間臭い面もある。そうしたところでの高齢者の活躍は、まだまだあるのではないかと思っています。

(TEXT/荻原 美佳 PHOTO/刑部 友康)