co-creation時代に求められる全員の能力を引き出す人事の4つの役割 吉田 毅(Syn.ホールディングス 人財開発本部長)
昨今、日本企業を取り巻く環境は大きく様変わりしている。VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)と形容される通り、それは変動的であり不確実で複雑性に富むとても曖昧なもので、どの企業も未来の見通しを立てづらくなってきている。そのような背景の中、従来の組織形態と意思決定モデル、すなわちヒエラルキー型組織とリーダーのトップダウンによる意思決定では、変化に応じた適切な事業推進が困難になってきている。加えて、日本人の働き方に対するニーズも従来の単一的なものから多様なものに変化してきている。優秀人財を獲得し社内に留保し続けるためには、企業はそれらの個別のニーズに柔軟に対応していかなければならない。難局を切り開いていく鍵は協働、"co-creation"にある。社内の叡智を集結するという観点はもちろん、異質を認め働き方含めた多様性を受容し組織の生産性を最大化するという観点でも、co-creationは企業が直面する経営課題を解決する重要な鍵だ。
co-creationと日本人
co-creation時代、日本人は大いに強みを発揮すると私は考える。元来日本人は異文化からあらゆるものを学び、吸収し、わがものとすることで成長を遂げてきた。多様なものを受容する力に富むのは、例えば日本における宗教の多様性をみても明らかだ。子が生まれれば神社にお参りし、結婚式は教会であげ、葬儀はお寺で行う。どの宗教を信じるかで差別や迫害を受けることはこの国ではない。日本人の受容性の高さを示すのは宗教観だけではない。島国で単一性が極めて高いイメージの強い日本人であるが、その見た目とは裏腹に遺伝子レベルでは非常に多様なルーツを持つ。このことも日本人の受容性の高さを示している。
また日本人は協働を支える協調性にも富む。水田農耕という協働なしにはなし得ない産業に多くの人が従事していたことや、掟を守れば安心して暮らせる社会システムに守られてきた歴史的背景が日本人の協調性を育んできた。
受容性と協調性に富む日本人は、co-creation時代に大きく力を発揮する素地と可能性を持っている。では、企業人事は何をなすことでその可能性を最大限に引き出していくのか。何に取り組み、業績にインパクトを出していくのか。
co-creation時代の人事の4つの役割
co-creation時代に企業人事が担うべき役割を4つあげる。
まず、第一の役割は社員に共感される経営理念やビジョンの掲示である。働き方や文化背景などが異なる多様な人財を活かして成果を継続的に出すには、組織で共有されるべき価値観の浸透が不可欠となる。この時に重要になるのが社員の共感だ。共感される経営理念やビジョンは組織に求心力を与え、社員のロイヤルティを高め、優秀人財を社外から引き寄せる。人事は経営に働きかけより社員が共感する経営理念やビジョンを策定し、さまざまな人事施策を通じてそれを組織に浸透させねばならない。
第二の役割は社員のキャリア自律支援である。多様な人財がその能力や経験を活かして協働するco-creation時代には、社員のキャリア開発のニーズが高まる。社員のキャリア自律を支援するために、人事は社員が定期的に自身のキャリアについて内省する機会や新しいスキル習得する機会を整えねばならない。受け身ではなく、社員が主体的に自身のキャリアと向き合い、自己成長に取り組める環境を提供していく必要がある。
第三の役割はアサインの最適化である。そのために人事は社員のスキルや経験、強みなどはもちろん、リーダーシップスタイルや仕事観、他メンバーとの組み合わせの相性などのさまざまな情報を、社員一人ひとりに紐付けて可視化する。それらと業務ごとの人財要件とをマッチングし、最適なアサインを実現する。マッチングの精度を高めるには定期的な情報の更新が必要であるため、社員本人や上司が簡易に情報登録できる情報インフラの整備が求められる。
最後に、第四の役割はリーダーシップ開発である。多様な人財の協働が価値を創出するco-creation時代には、関係性の形態であるリーダーシップの質が生産性や成果に大きな影響を及ぼす。人事は個人と個人、個人とチーム、チームとチームの間にあるリーダーシップに着目し、その質を高め、組織全体にカスケードするように働きかける。インタビューやサーベイを通じて組織の状態を定期的に観察し、それに応じた施策をデザインして実施していく。それはすなわち人事が組織に介入し、組織開発を実践していくことにほかならない。
人事はこれらの役割を担い事業の成長と社員の成長にインパクトを出していく。co-creationの時代、人事の仕事もまたco-creationになる。成功の鍵はファシリタティブなリーダーシップにある。現場に働きかけ、現場を巻き込み、現場の共感を得て、現場の活力を導き出す。協働するパートナーたちの能力を十分に引き出す人事が、co-creation時代に求められている。
プロフィール
吉田 毅
小売業、商社を経て、2003年にヤフー入社。中小企業向けの営業、営業企画に従事したのち2012年に人事へ異動。主に人財開発と組織開発に携わり、同社の組織改革を推進。2015年よりSyn.ホールディングスに所属し、Supershipの立ち上げに参画。現在はSyn.ホールディングスならびにSupershipの人事業務および総務業務を統括。