<第2回>ミドル期のキャリアショックは何をもたらすのか
なぜミドルなのか
第1回では、キャリアショックが、本人のコントロールが及ばない要因によって引き起こされること、そのショックは対処の方法によっては、自らのキャリアについて慎重に考え直すきっかけとなるということを紹介した。後から振り返った時に「あの時は大変だったけれど、あの出来事があったからこそ、今の自分がある」と思える経験にできるかどうかは、当事者がそのショックをどのように受け止めるのかということ、また、ショックからの回復プロセスも大切だ。
第2回の本稿では、なぜミドルに着目するのか、さらに、ショックがその後個人に与えた影響についてデータから紐解いてみる。
ミドル期の停滞という問題
ミドル期は、Levinson(1978)やErikson(1982)によって指摘されている通り、複雑な発達課題が存在しており、キャリアの危機と呼ばれる重要な転機が訪れることが多い。ミドル期にさしかかった頃には、行き詰まり感や燃え尽きを経験し、機能不全の状態に陥るとされている(Dychtwald et al. 2006)。
男女ともに更年期にさしかかるこの時期は、体力や集中力の衰えを感じ始めたりする時期でもある。そして、職場では同期との昇進スピードの違いなどから自分の能力の限界を感じたり、職場での役割が変わったりして自分の居場所が定まらないという人もいるだろう。
ミドル期には一時的に学習意欲も下がる。やや古い調査になるが、2011年に「学習意欲」の6因子(※1)について調査・分析したところ、6つのレーダーチャートからは、線で囲まれたエリアが、年をとるにつれ縮小し、ミドルで極小化することがわかった。まさにミドルの停滞だ。高校生や社会人スターターなどの若い層は、充実志向・訓練志向・実用志向など、学習の内容そのものによる動機づけが見られなかったのに対し、55~59歳になると、充実志向や訓練志向といった、内容そのものに対する興味・関心に動機づけられ学習意欲が高まっていることがわかる。
図表1 年代別の学習動機
出所:リクルートワークス研究所(2012)「社会人の『学習意欲』を高める」
この年代は、活躍している人とそうでない人の間の二極化が起こりやすい年代でもあり、活躍している人は、忙しくて学ぶどころではなく、そうでない人も学ぶ理由もわからず、学ぶことでどんなよいことがあるのかもよくわからず、学ぶ意欲がわかない、その結果、成長に対する意欲が停滞してしまうという状況にあるようだ。
ミドルの熟達段階
では、ミドル期はどのようなレベルの仕事をしているのだろうか。40~55歳のミドルに仕事の熟達段階を尋ねた結果を分析した(※2)。具体的には、自分が大事にしたい仕事のテーマや分野について、以下の第1段階から第5段階までを示し、「それぞれの段階が何歳くらいで始まったのか」を尋ねた。結果を図表2にまとめた。段階が始まっていない人は回答していない。
図表2 仕事の熟達段階
出所:リクルート「働く喜び調査」(2014)以下同
回答全体を俯瞰してみると、第2段階や第3段階と比べると、第4段階の「ひとり立ちしている段階」や第5段階の「自分ならではの知識・技術が評価されている段階」に達している人は少ない。第3段階の「自分がこだわっていきたい仕事のテーマや分野で、必要な知識や技術を学ぶ等の準備をしている段階」は、30~34歳から始まったとする回答が最も多く、第4段階の「自分がこだわっていきたい仕事のテーマや分野でひとり立ちしている段階」は、30~44歳から始まったと回答する人が多い。
つまり、45歳以降になると新しい段階が始まることは少なくなるため、44歳までの経験の中で得た段階を維持しながら働く人が多いということだ 。若い頃と比べ新しいことに柔軟に着手するのが難しい年齢になってから、ショックと出合うことで動揺がより大きなものになるといえる。
図表3 熟達段階とそのテーマに着手した年齢
注:図表には2段階目からを表示
ミドル期のキャリアショックはその後何をもたらしたのか
ここまで見てきたように、ミドル期はキャリアの停滞が起こりやすく、40代前半までの経験で得られた段階を維持しながら仕事を進めている。その時期のキャリアショックは彼らに何をもたらすのだろうか。
40~55歳の個人に、自分の考え方や行動に大きな影響をもたらすきっかけとなった出来事を振り返って3つ挙げてもらい、そのうち40代・50代でのショックが、具体的に何をもたらしたのかを分析したのが図表4だ。ある程度予測できたこととはいえ、この時期のショックを通じて、自分を見失うマイナスの変化が起こったケースが最も多い。
図表4 40代・50代のキャリアショックがもたらす気持ちの変化(※クリックして拡大)
詳しく見ていこう。図表4の選択肢として挙げた26項目のうち、最も多く反応が見られたのは、「仕事の位置づけ等、やりたいことがわからない」であり、次が「仕事に対する満足度が下がった」その次は「人生の中で『働く』ことの位置づけが変わった」であった。
要約すると、40代になってからの何らかのショックによって、働くことの位置づけが変わり、仕事の満足度は低下、さらには「やりたいことがわからない」という状況にあるということだ。これはかなり大きな混乱であるといえるだろう。だからこそ、キャリアショックにどう対応するかが重要なテーマとなるのだ。
前回のコラムで見たように、これまでのキャリアショック経験として、「仕事で失敗・挫折した」人、「リストラ・勤め先の倒産にあった」人、「会社に対して失望した」人、「大きな病気になった・体をこわした」人が存在した。キャリアショックは予期せず誰にも起こり得る出来事だ。こうした出来事が起こったとしてもその後あらためて「自分の持ち味」を再発見したり、「自分の軸となる価値観」を見いだすには、どのような準備が必要なのか。第3回・第4回では具体的な事例を解説する。
リクルートワークス研究所(2012)「社会人の「学習意欲」を高める」より引用
(※2) 「働く喜び調査』2014年12月11日~12月17日 インターネットモニター調査。
全国の15歳~64歳の就業者を母集団とし、性×年代(10歳刻み)×就業形態(3区分)×居住エリア(4エリア)で総務省統計局「労働力調査」を参照し、母集団構成にあうように回収した。
参考文献
Dychtwald, K, Erickson, T.J and Morison, R., 2006, Workforce Crisis, Boston: Harvard Business School Press.
Erikson, E.H.1982, The Life Cycle Completed: A Review, New York: Norton.
Levinson, D.J., 1978, The Seasons of a Man's Life, New York: Knopf.
辰巳 哲子
研究領域は、キャリア形成、大人の学び、対話、学校の機能。『分断されたキャリア教育をつなぐ。』『社会リーダーの創造』『社会人の学習意欲を高める』『「創造する」大人の学びモデル』『生き生き働くを科学する』『人が集まる意味を問いなおす』『学びに向かわせない組織の考察』『対話型の学びが生まれる場づくり』を発行(いずれもリクルートワークス研究所HPよりダウンロード可能)