統計が物申す
増えた仕事と減った仕事
「国勢調査」
国内の人口・世帯の実態を把握するために、1920年以来、5年ごとに行われている調査。全数調査であるが、職業(中分類)については、まず回答者を一定の条件で抽出したうえで、調査票に記載された内容をもとに、総務省統計局が一つひとつ対応する職業に分類して、それを全数に割り戻している。
統計法第2条第4項には基幹統計についての定めがあり、その第1に国勢統計があげられている。総務省「国勢調査」は、この国勢統計を作成するために、我が国に住むすべての人と世帯を対象として実施される最も重要な調査なのである。
近年、技術革新によるAIの進化などに伴い、どのような仕事がなくなるのか盛んに議論されている。そこで今回は、職業人口の増減について、国勢調査を用いて分析したい。
上図は2010年から5年間の職業別の人口の増減を表したものである。各職業人口の変化を見ると、変化を引き起こす要因は、主に2つあることがわかる。その要因とは、第1に産業構造の変化であり、第2に技術革新による効率化である。
保健医療従事者や社会福祉専門職業従事者、介護サービス職業従事者など医療・福祉関連職の職業人口が著しく増加しているが、農業従事者は職業人口が減少している。これは、第1の要因、産業構造の変化に伴って起こっている現象である。
第2の要因、技術革新による効率化の影響を最も受けているのは、製品製造・加工処理従事者など製造関連職である。これらの職業では軒並み職業人口が減少しており、まさに機械による代替が進行している最中である(*)。
一般事務従事者など事務関連職も機械に代替される職業の例にあげられるが、これらの職業はむしろ増加傾向にあり、製造関連職のような効率化は進んでいないと考えられる。
事務仕事は、画一的な処理ができない雑多なタスクへの対応も多く、自動化は簡単ではない。さらに、労働市場においては、事務関連職への求職が恒常的に多く、魅力的な条件を提示せずとも人員を獲得できる。
低廉な労働コストが技術革新を妨げているという側面もあるだろう。
しかし、人手不足が進行している昨今、人事はこのような現状に安住するわけにはいかない。事務仕事の効率化は、従業員がより高度な仕事に従事することを可能にし、企業の生産性向上にも直結する。
事務仕事の効率化に、人事は真剣に取り組むべきだろう。
(*)2010年から2015年までの間、製造業の実質GDPは99.3 兆円から106.1 兆円に増加(6.8%増)しており、全産業に占める割合も上昇している。製造関連職の人口減少は、サービス化の進展が要因となっているのではなく、技術革新による効率化が要因であると考えられる。
Text=坂本貴志