統計が物申す

高齢者ははたして豊かなのか

2019年05月24日

「年金制度基礎調査」

年金制度の運営のための基礎情報を得ることを目的に、厚生労働省年金局が実施している調査。最新の調査である平成29年調査では、5万人超の老齢年金受給者を対象に調査を実施している。

 

今号の特集では、高齢者の就業について取り上げた。ここでは、やや角度を変えて、高齢者の「お金」に焦点を当てたい。もちいる統計は、厚生労働省「年金制度基礎調査」である。
企業人事は、従業員が現在どのくらいの貯蓄を有しており、また将来どれだけの年金を得ることができるかまでを知ることはできない。だが、この調査をひもとけば、世の中の高齢者が受け取っている年金額や貯蓄額の分布を知ることができる。
まず、公的年金(*1)受給額の分布をみると、65歳以上で配偶者がいる公的年金受給世帯のうち約半数の50.3%が月額20万〜30万円の範囲に収まっていることがわかる。現下の逼迫した財政事情から考えれば、今、現役世代である世帯が将来受け取れる年金額は、多くて月額30万円とみておけばよいだろう。
さらに、貯蓄額に目を転じると、3000万円以上の貯蓄を有する世帯の割合は9.8%あり、逆に貯蓄額が100万円に満たない世帯は18.3%ある(*2)。このように、高齢者の経済状況には大きなばらつきがあることがわかる。裕福な高齢者は意外にも少ないと感じる人もいるのではないか。そして、だからこそ、高齢者は、年金受給額の行方に神経をとがらせているのだ。
このような厳しい現状を知って、企業や国は何をすべきか。もちろん、企業にも国にも、高齢者の生活を安寧にするほどの金銭的保障を実現する財政的な余力はない。
そうなると、やはり、一人ひとりの高齢者が自分で生きていくすべを見つけること、それが現代の日本社会が持続していくための唯一の解になるだろう。そして、企業は、再雇用制度や企業年金などによって高齢者の生活を保障することに責任を持つのではなく、高齢者のキャリアにこそ責任を持つべきだ。
自社の社員を抱え込み、企業特殊的人的資本のみを形成させれば、その企業を離れたあとのその人の生活は、いずれ誰かが面倒をみざるを得なくなる。そうでなく、自社で働いた社員は高齢になってもどこの企業でも活躍できる、そうしたシニア人材輩出企業が増えてほしい。企業が社員の能力開発の理念をこんなふうに転換すれば、日本社会が抱える難題を解決できるかもしれない。

 

(*1)公的年金制度による給付には、老齢年金、障害年金、遺族年金などによる給付がある。平成29年調査の公的年金受給額は、老齢年金による給付額となる。
(*2)数字はそれぞれ、公的年金受給額が月額20万円未満の人、20万〜30万円の人、30万円以上の人の合計。

Text=坂本貴志