人事のリスクマネジメント新鉄則
海外テロ
様相を変える諸外国でのテロから社員や企業を守るための対策とは
グローバル展開している企業にとって、近年、無視できないリスク課題となっているのがテロだ。図に示した調査によると、2012年を境に世界のテロ発生件数は急増。また、その内容も変わってきていると、東京海上日動リスクコンサルティングの深津嘉成氏は指摘する。
「2014年以降目立つてきたのがホームグロウン型、ローンウルフ型のテロです。このためテロのリスクは欧米先進国やアジア新興国にも拡大しています」
ホームグロウン型とはインターネットなどを通じてイスラム過激思想の影響を受けたその国の若者が起こすテロを指す。その多くは、特定の組織に属さず、単独または少人数で凶行に走る(=ローンウルフ型)。国外の過激派メンバーによるテロと比ベると、当局による把握が難しく、いつどこで起こるかわからないのが特徴だ。空港や鉄道、大規模商業施設など不特定多数が集まる場所が狙われやすく、ビジネスで訪れている外国人やその家族が被害に遭うリスクも大きい。2015年11月のパリ同時多発テロ事件、2016年7月のダッカ・レストラン襲撃人質テロ事件などは記憶に新しいところだ。
このようなテロが企業に及ぼす被害は甚大になり得る。現地にいる社員や家族の人的被害、事業の停滞はもちろん、海外赴任・出張に対する社員のモチベーションの低下、対応の誤りによる企業の評判・信用の失墜なども想定する必要がある。
では、具体的にどのような対策が必要なのだろうか。
ポイントの1つは初動対応だ。「駐在員がテロ事件などに遭遇した際、24時間いつでも連絡が取れる本社の窓口や、その後招集する対策本部のメンバー、迪絡体制などを平時に決めておくことが最低限必要です」
テロ対策の柱は情報収集と教育
そのうえで、平時の対策の柱になるのが情報収集と教育だ。
テロに関する情報は、外務省。現地政府・治安当局などから得られるほか、現地日本人会や欧米企業の現地法人などから得られる場合もある。重要なのは本社と現地法人の両方で幅広く情報を集めて精査し、最新の情報を社員に提供すること。今は各国の治安当局もテロ対策に力を入れており、時期や場所をある程度特定したテロリスク情報が発信されるケースもある。
同時に鍵を握るのが、駐在員やその家族、出張者に対する教育だ。
「大切なのは自分で白分の身を守る意識の醸成。テロが起きやすい時期や場所の傾向を具体的に伝え、リスクの高い行勣を避ける判断力を養うことが必要です」
テロに遭遇した際の対処法については、爆発、銃撃などの具体的な場面を想定したシミュレーションを採り入れて教育する必要がある。
「たとえば、近距離での銃撃に対しては伏せるのが鉄則。日常的に銃撃されることなど考えたこともない日本人だけが、他国の人たちがいち早く伏せるなか、棒立ちになっていたという話もあります。襲撃シーンの映像なども使って"こういうときどうするか"を白ら考えさせることで、"自分の身に起こり得る問題"という意識を高め、対処法を頭と体で覚えてもらいます」
出張者の情報の一元管理も課題
グローバル化が進んだ今は、海外赴任や出張は一部の海外慣れした社員だけに限らない。また、慣れが油断を招くことも。赴任前研修の充実はもちろんだが、海外出張の可能性のある社員や赴任中の社員への定期的な研修や最新情報提供も必要だ。
なお、盲点になりやすいのが海外出張中の社員に関する情報管理。申請の不備などで、誰がどこにいるのかわからない状況になっているケースは実は多い。間題がある場合は、出張申請システムの見直しやルールの作成・徹底を進め、人事による一元管理を進めておきたい。
Text=伊藤敬太郎 Photo=平山 諭
深津嘉成氏
東京海上日勣リスクコンサルティング ビジネスリスク本部 マネージャー 主席研究員。
Fukatsu Yoshinari 海外リスク管理に関する企業・官公庁を対象とした情報提供やコンサルティングなどを手掛ける。