人事のリスクマネジメント新鉄則
地震災害
全社的なBCP(事業継続計画)において人的資源の確保に人事はどうかかわるか?
自然災害や情報漏洩をはじめ、企業が抱えるリスクは多様化・重度化が進んでいる。人的資源に直接影響する新たなリスクも増えるなか、企業全体のリスクマネジメントにおいて、今、人事の果たすべき役割とは何か。本連載ではその点を探っていきたい。
連載第1回のテーマは地震災害。東日本大震災、熊本地震など、近年、大きな地震災害が続いており、今後30年以内にマグニチュード7レベルの首都直下地震が起きる確率は約70%だ。
まず、地震災害時に企業が取るべき動きを整理しておこう。
「地震直後は社員・顧客の安否確認や安全確保、対策本部の立ち上げ、被害状況の確認などの初動対応に専念。その目処が立ったら、対策を立てている企業では事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)を発動させます」とデロイトトーマツリスクサービスの尾嶋博之氏は語る。
BCPとは、経営に影響するリスクを想定して、できるだけスムーズに事業の復旧を図るための計画のこと。このBCPは東日本大震災を契機に見直しが始まっている(図参照)。
リソースに着目したBCPが求められる
「地震、火災など、リスクの種類に応じて対策を考えるのが従来型のBCP。しかし、東日本大震災では、地震に続いて、津波、原発事故、計画停電と不測の事態が立て続けに起き、BCPが機能しないケースも多かったのです」(同社・前中敬一郎氏)
そこで注目したいのが図の右に示した経営資源(リソース)の種類に着目したBCPだ。リスクの種類に関係なく、建物、情報システムといったリソース別に対策を立てておけば、その組み合わせで柔軟な対応ができる。
なかでも人的資源は企業にとって重要なリソース。出社できない社員もいるなかで、事業を継続するための人員をどう確保するかが大きなポイントだ。
「BCPで重要なのは状況に応じて優先順位を決めることです。早期の全面復旧が難しいなら、優先的に復旧させる重要業務を定め、そこに経営資源を集中投下することになる。その際は、重要業務を遂行する業務部門が必要な人的資源をスムーズに確保できるように、その部門と人事が連携することが求められます」(前中氏)
たとえば、その事業のキーパーソンが出社できない場合を想定し、遠隔地からでも仕事ができるインフラやルールを整備しておくことも対策の1つ。ジョブローテーションを通してキーパーソンの代わりが務まる人材を育成しておくこと、該当するスキルをもつ社員が自社のどこにいるのかを把握しておくことも必要だ。
社員の多様化で仕組み作りが重要に
いずれも平時の業務効率化や働き方改革、ならびに人的資源の有効活用にも直結するため、平時の組織改革と一体化させてBCPに必要な仕組み作りを進めることも可能だろう。人事が積極的に現場とコミュニケーションを取り、現場の仕事内容やキーパーソンのスキル・能力に関する情報を収集することも、危機への備えになる。
「日本企業の場合、特に緊急時に備えた仕組みやルールがなくても、社員の日本人的な責任感の強さでなんとかなっていた面がありました。しかし、外国人社員も増え、考え方の多様化が進んでいる今は、社員の頑張りに期待するだけでは事業継続は難しい。実際に、東日本大震災の際、原発事故の発生で外国人社員が一斉に帰国し、混乱した企業がありました」(尾嶋氏)
社員の安否確認・安全確保のためのルール作りや、被災後の人事情報の集約なども含め、地震災害では、"人"の管理が鍵を握る。社員の多様化が進む現状と相まって、人事が積極的にリスクマネジメントに関与する必要性は高くなっている。
Text=伊藤敬太郎 Photo=平山 諭
尾嶋博之氏
Ojima Hiroyuki デロイトトーマツ リスクサービス シニアマネジャー
前中敬一郎氏
Maenaka Keiichiro デロイトトーマツ リスクサービス マネジャー