Next Issues of HR With コロナの共創の場づくり
第6回 グローバルでこそ求められる傾聴力
オランダで働く日本人は多くいます。彼らの仕事や生活ぶりを見ていると、(全員ではない、という前提ですが)ネットワークが日本人に限定され、現地に“コミット”していないというのが現状だと思います。現地にコミットするとは、現地の社会にある真のニーズを解決すべく尽力する、ということです。そのためには、現地の社会やビジネスのネットワークに入り込み、そこにある一次情報を獲得することが欠かせません。ところが、日本人のなかには、自ら現地のネットワークに入ることに消極的で、現地企業にネットワークをもつコンサルタントや調査会社などに依頼して情報収集する人がいます。そこで得た情報は他者を介しているので、あくまで二次情報です。当然、異なる立場の視点や解釈がそこに入りますし、ひどい場合には周回遅れの情報をつかまされてしまうことすらあります。
では、現地のネットワークに入るために何をすべきか。残念ながらそこに早道はなく、丁寧な“つながる努力”が、絶え間なく求められます。私自身、つてやコネがあってオランダに来たわけではありません。それでも、今は私に一次情報を教えてくれる多くの人々がいます。それはオランダ人のみならず、オランダが受け入れてきた各国のビジネスパーソンやアーティスト、社会活動家たちです。
私は、彼らとのつながりのきっかけの1つとして、私が発信するWebメディアでの取材という手法を使います。取材で行うことのメインは、質問すること。そして、その質問に対する相手の回答に耳を傾けることにあります。よく聴くことで、今起こっていることや社会がもつ課題はもちろん、その人の考え方や能力もわかります。また、より深く理解するために背景を学ぶ努力もしなければなりません。私は自分に足りない知識を補うために、オランダの歴史や社会に関する本を読み漁るようにしました。そうした積み重ねによって人間関係を紡ぎ、取材した人々と一緒に仕事をすることが増えてきたのです。
グローバルの舞台では、日本人は自らの意見を主張しないがためにプレゼンスが低く、有効な人間関係を構築しにくいとよくいわれます。学校教育において、自らの意見を求められる機会が少ないこともあり、プレゼンテーションが得意ではないのは確かです。しかし、私は、実は欠けているのは言葉を発する力だけでなく、“聴く力”だと考えています。
オランダの教育では、生徒が教室で発表する機会は頻繁にあり、そこで自分の意見を主張できることを重視します。しかし、同時にその話をよく聴き、内容を深く理解し、いい質問をした生徒も、「いい質問をしたね!」ときちんと称賛される、つまり聴く力にも重きを置いているのです。
もちろん、大人になり、人々と共創を目指して議論や対話をするにあたってもこの力は生かされています。イノベーティブなものを作り出す場においては、すばらしいアイデアを提供するのみならず、他者のもつ知識や考えを引き出すことも尊い貢献だということを忘れてはなりません。
吉田和充氏
ニューロマジック アムステルダム
Co-founder&CEO/Creative Director
博報堂勤務を経て、2016年に独立しオランダに拠点を移す。日本企業、オランダ企業向けのウェブディレクションや日欧横断プロジェクトに多数携わる。
Text = 入倉由理子 Photo = 吉田氏提供 Illustration=ノグチユミコ