人事、仏に学ぶ

互いに支えあえるチームを作るには?

2018年02月10日

仏教には「人人唯識(にんにんゆいしき)」という言葉があります。一人ひとりが異なる世界を認識しているという意味です。
人間の脳は人生経験を積むごとに、「こう考えるほうが生き延びる可能性が高まる」と学習します。すると、考え方のくせ、言わば「思考の轍(わだち)」が生じるのです。轍は経験と思考を繰り返すごとに深くなり、徐々に轍の外を通ることが難しくなります。
当然のことですが、人はそれぞれ積んできた経験が異なります。それゆえ思考のくせや、世界の認識の仕方も一人ひとり違うわけです。
こうした現実を知らず、「私と同僚や部下の見ている世界は同じはずだ」と考えてチームビルディングに取りかかると、自らの考えを他者に押しつけて反発されたり、見解の違いからケンカに発展したりしてうまくいきません。従業員同士が互いに支えあう組織を作ろうと思ったら、まずは、それぞれの考え方や世界の認識の仕方が異なることを知る必要があります。そのうえで、"right or wrong"式の対立ではなく、"Let's talk about"と歩み寄る姿勢を持つこと。そして、己の思考の轍から抜け出し、他人の認識を受け入れる柔軟性を育む必要があるのです。
そのために有効なのが、「今、ここにある自身」をありのままに観る「瞑想」です。人は普通に生活していると、自然と自身の思考の轍の上を歩いてしまいます。少々遠回りに思えるかもしれませんが、瞑想を通じて、各人が自身の思考の轍に気づくことが大切なのです。瞑想を続け自らの思考の轍に気づくと、他者にも思考の轍があると認識でき、他者の言動に直情的に反応することがなくなります。つまり、他者の言動に対して不快に感じたり、落ち込んだりすることなく、「相手はなぜ、そういう言動を取るのか」と深く考えるようになります。
この境地に至ることができれば、自分と他者の認識のどこが異なるのかを客観的に捉えられるため、他者を受け入れ、つながる余裕が生まれるでしょう。そうなることで初めて、協力しあえるチームを作れるようになるのです。

Text=白谷輝英 Photo=平山諭

藤田一照氏

曹洞宗僧侶

Fujita Issho 曹洞宗国際センター所長。大学院時代に坐禅に出合い、28歳で禅道場に入山して29歳で得度。33歳で渡米し、17年半にわたって米国で坐禅を指導。2005年に帰国し、現在は神奈川県葉山を中心に坐禅の研究、指導にあたるかたわら、著述・翻訳活動も展開。