人事、仏に学ぶ
優れたリーダーを目指すためには?
私たちは、一瞬たりとも同じ状態はなく、すべてが変化する「諸行無常」の世界で生きています。そして「無常迅速」と呼ばれるように、その変化はものすごい速さだというのが、仏教の世界観です。この真理は、スピーディな環境変化のなかで働いているビジネスリーダーたちにも実感しやすいのではないでしょうか。
仏教には「諸法無我」という考え方もあります。これは、すべてのものは因縁によって生じ、実体性がないということ。すなわち、独立した「自分」というものはなく、周囲と絡み合いながら存在しているという意味です。そのため、めまぐるしい変化のなかにいると、人はどうしても周囲に流されたり、ぐらついたりするのです。
こうしたなか、リーダーに求められるのは「不動心」です。リーダーがぐらぐらしていたら部下は戸惑うばかり。ですから、自らの確たる軸をつくることを、小手先のマネジメント技術より優先すべきなのです。
ところで、禅の修行の一つに「独参」があります。これは禅問答とも呼ばれ、与えられた課題(公案)について禅僧と師が一対一で問答するもので、「隻手音声(せきしゅおんじょう)」(片手でどんな音が鳴るか)などが有名です。両手を叩けば音が出ますが、片手で音を鳴らすのは普通に考えれば不可能。しかし、そこからどんな音が聞こえるのか考えるよう促しているのです。
これらの公案に「正答」はありません。そこで禅僧たちは、座禅をしながら長い間考え抜きます。正しい姿勢・呼吸法で心を整えながら、答えのない公案について考え続けたり、師と一対一で厳しい問答を繰り返したりするうちに、内省する力が高まり、やがて「不動の自分」が見つかるのです。
座禅は「不動心」を養う最高の手段です。正しい座禅のやり方を身につけ、たとえば、毎朝の就業前に5分程度の座禅(椅子禅でも可)をすれば、自分と向き合えるでしょう。やがて、確たる自分の軸が見つかるはずです。また公案に取り組む代わりに、ビジネスのなかで解のない問題から逃げず、挑み続けるのもいいでしょう。そうして思考力を鍛え、不動心を持って部下に接すれば、部下との信頼関係が築けるのではないでしょうか。
Text=白谷輝英 Photo=平山諭
柴田文啓氏
臨済宗妙心寺派開眼寺住職
Shibata Bunkei 1957年、横河電機に入社。ユーゴスラビアでの工場建設や、医療機器の新規事業立ち上げなどを手がける。GE横河メディカルシステム常務取締役、横河電機取締役、横河アメリカ社社長を歴任した後、1999年に得度した。