人事、仏に学ぶ
人材を正しく評価するには?
仏教では、人を「評価」することを是としません。なぜなら、評価は人の承認欲求、すなわち、仏教でいうところの「慢」を刺激するからです。「慢」を刺激されると、「私はなぜ評価されないのか」「同期より昇進が遅れるのでは」と疑心暗鬼に陥り、人はストレスをため込みます。
人材に長く活躍してもらうには、評価ではなく「理解」することが不可欠です。仏教では、人を正しく理解するために「正見(しょうけん)」が必要だといわれます。これは、評価を加えずに、ありのままの心の状況を見つめることです。人事や上司が正見すべき点は、3つに大別できます。
まず1つ目は「貢献」する動機を持っているかどうか。これは、「功徳」という言葉の「功」に相当します。己の出世のためではなく、会社の成長のために真摯に貢献する意欲があるかを見極める必要があります。
2つ目は「役割」を果たしているかどうか。これは「功徳」の「徳」に当たります。会社において自らに期待されている役割を理解し、その任を果たしているかを見るべきです。
そして3つ目は、「ニュートラルな心」、すなわち中立心を持っているかどうかです。仏教では、高揚も落ち込みもなく、快も不快もないフラットな状態を理想とします。なぜなら、感情の起伏は集中力を妨げるからです。スポーツ選手は、無心な状態のときに最高のプレーができるといいますね。同様に、ビジネスパーソンも中立心を持てれば、業務効率は高まるし、人間関係でトラブルを起こすこともなくなるのです。
人事や上司が最初に見つめるべき点は、この3つの要素です。これらを社員の心に育てていきましょう。
特に育てるのが難しいのが、中立心です。まず、日常の業務を「マインドフル」にやること。つまり、「今○○をしている」と身体感覚を意識しながら取り組むのです。僧侶はお堂の廊下を拭きながら手足の感覚を研ぎ澄ますことで、心を浄化します。一般の人も、通勤途中に歩きながら足元の感覚に意識を集中するなど一工夫してみましょう。日常を修行の場にすれば、雑念もストレスも解消でき、生産性や能力が格段に向上しますよ。
Text=白谷輝英 Photo=平山諭
草薙龍瞬氏
僧侶・著術家 興道の里代表
Kusanagi Ryushun 16歳で家出し放浪を経た後、東京大学法学部を卒業。政策シンクタンクなどで働きながら「生き方」を探求し続け、インドで得度出家を果たした。現地で学校を運営しつつ、日本で実用的な仏教を伝える。著書に『反応しない練習あらゆる悩みが消えていくブッダの超・合理的な「考え方」』(KADOKAWA)など。