Global View From USA
第8回 アメリカで存在感増す労組 コロナによる失業で支持増える
米USスチールの買収に苦戦している日本製鉄は、買収に反対している全米鉄鋼労働組合(USW)の理解を得るため、本格的な交渉を繰り返している。バイデン大統領や産業界も反対を表明するなか、企業買収でこれほど労組への働きかけが重要視されているのは稀だ。
日本製鉄は3月中旬、USWに対し「雇用、年金、技術共有など労働協約に関する義務履行を確保する」と異例の声明まで発表。長文の声明では、日本製鉄がアメリカ内でUSW組合員620人を含む約4000人を雇用していること、ウェストバージニア州の100%子会社は、倒産した米製鉄会社だったことなどを強調。最後に「レイオフや工場閉鎖はしない」と明言している。
日本製鉄が腫れ物に触るようにUSWと交渉している背景は、影響力を増すアメリカにおける労働組合の存在感がある。労組の組織率は下がる一方、市民の間では労組に対する支持が増している。
米労働統計局(BLS)が発表した2023年の労組の組織率は10%で、1983年の20.1%から半減。労組を持つ伝統的な製造業などが衰退し、労組がないテクノロジー関連企業などが勃興していることも影響した。
しかし、全国労働関係委員会(NLRB)への不当労働行為の救済申立件数は2023年には1万9869件と、前年から1871件増加。労働環境に対する不満の高まりを表している。ギャラップ社の調査によると、労組を「支持する」と答えた人は67%と、支持率が5割を切った2009年以降、上昇傾向が続く。コロナ禍による失業が急増するなか、救済手段として労組が注目された。
労組も2023年には目立った成果を出した。全米自動車労働組合(UAW)は大規模なストライキを敢行、11月にゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、ステランティスのビッグスリーとの間で、インフレと連動した生活費調整や全組合員の大幅賃上げなどを獲得した。
スターバックスの各店舗では2021年から組合組織化が続いている。Amazonの配送施設などでも、各地で労働者が立ち上がる動きが起き、ニューヨーク市では2022年に8000人が働くAmazonの倉庫で組合が結成された。連邦政府の独立行政機関であるNLRBから認可されたことでも注目を浴び、組合結成の動きはカナダ、イギリス、日本などにも広がっている。
Text=津山恵子
プロフィール
津山恵子氏
ニューヨーク在住ジャーナリスト。元共同通信社記者・ニューヨーク特派員。著書に『現代アメリカ政治とメディア』(共著)など。海外からの平和活動を続けている長崎平和特派員。
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