Global View From USA
第1回 「大退職」「静かな退職」の次は……米国の働き方はもう元には戻らない
新型コロナウイルスの感染拡大は、米国の企業の「働き方」を決定的に変えた。それは、働く=リモートワークが想定されるなど、多様な働き方を優先するという考えが定着したからだ。
2月上旬、取材のためにあるIT企業のオフィスを訪れると、巨大なワンフロアのオフィスに、インタビュー相手の企業幹部以外は誰もいなかった。「あなたが対面で取材したいというから、ビルの警備部門に連絡して、今日だけオフィスを開けたよ」
取材時に巨大なオフィスに2人きりという風景は今や当たり前となった。
ブルームバーグ通信が伝えた警備会社のデータによると、2023年1月末の全米10都市のオフィスビルに出勤した人はコロナ後初めて50. 4%と半数を超えた。ビルのテナント従業員の出勤状況が40%以上になったのは、コロナ後初という。米国では、これほどまでにリモートワークかハイブリッドワークが定着している。
リモートとハイブリッドの定着は、都市経済にも大きな影響を与えた。米紙ニューヨーク・ポストによると、マンハッタンで働いている人たちは、コロナ前に比べ1人当たり年間4661ドルも消費をしなくなったという。ランチやコーヒー、クリーニング、靴磨きなどの需要は激減した。
それだけではない。米国ではかつてないほど、「働き方」をめぐる議論が起きている。特に若い世代のキャリアや働き方に関する記事が、これほどメディアを賑わせたことはない。
最初に訪れたのが「大退職時代(GreatResignation)」。コロナは人々に「自分のキャリアはこれでいいの?」と振り返る機会を与えたことで、2021年以降かつてないほど自主退職者が増えた。
キャリアと人生を考える、という傾向は現在も続いている。次に訪れた「静かな退職(Quiet Quitting)」という現象は、仕事は仕事と割り切って、契約通りの仕事だけを続ける代わりに、仕事以外で個人の自由や自己実現を追求するという生き方だ。
バイデン米大統領が5月11日以降の公衆衛生に関する緊急事態宣言の解除を発表したことで、企業がコロナ以前の働き方を従業員に求める動きは増すだろう。だが、若い世代を中心に広がった働き方は元には戻らない。この連載では米国の「働く」に関する変化をお伝えしていく。
Text=津山恵子
プロフィール
津山恵子氏
ニューヨーク在住ジャーナリスト。元共同通信社記者・ニューヨーク特派員。著書に『現代アメリカ政治とメディア』(共著)など。海外からの平和活動を続けている長崎平和特派員。
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