テレワークと出産・育児期の女性就業 郭秋薇

2024年12月23日

近年急速に普及したテレワークは、柔軟な働き方として家庭と仕事の両立を支援し、育児期にある女性の就業を促進する可能性をもつものとして注目されている。しかし、日本においてテレワークが出産・育児期の女性の就業に与える影響を数量的に検証した研究はほとんど行われていない。その背景には、コロナ禍以前にはテレワークに対する認知度が低く、テレワークを調査項目に含む個票データが非常に限られていたことがある。リクルートワークス研究所による「全国就業実態パネル調査(JPSED)」は、テレワーク利用状況を把握できる数少ないデータの一つである。この調査は、テレワーク利用の他、労働者のライフイベントや就業歴といった豊富な情報を追跡しており、テレワークが出産後の女性の就業に与える影響を検討するうえで適したデータである。

本稿では、JPSEDの2016年から2023年までの調査データを用い、調査期間中に未就学児をもち、かつ正規雇用の就業経験がある女性を抽出した。このデータを用いて、テレワークの利用が出産後の育児期にある女性の就業に与える影響を検討する。

テレワークの利用率は低い

このデータで把握できる、両立支援の効果が期待される制度として、テレワークの他に育児休業制度および勤務時間を選べる勤務制度(※1)がある。図1でそれぞれの利用率を比較すると、育児休業制度の利用率は85.8%、勤務時間を選べる勤務制度の利用率は19.7%であるのに対し、テレワークの利用率は6.1%にとどまり、テレワークの浸透度はまだ十分とは言えない。ただし、2016年から2019年の期間におけるテレワーク利用率が3.3%であるのに対し、2020年以降は11.7%に上昇しており、コロナ禍を契機にテレワークが急速に広がったことは明らかである。

図1:諸制度の利用率図1:諸制度の利用率

出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)2016~2023」
注:集計対象は、調査期間中に出産し、出産時点から調査終了時までの間に正規雇用として就業した経験をもつ女性である。勤務時間を選べる勤務制度およびテレワークの利用率は、制度を利用したサンプルが全体に占める割合として算出する。ただし、育児休業制度については、利用可能な期間が原則として出産後から子どもが1歳になるまでに限定されているため、出産直後の1年間に該当するサンプルのみを対象として利用率を算出する。

テレワークも育児休業制度も、利用したほうが離職率は低い

これらの制度の利用有無が育児期における離職抑制に効果を持つかを検証するため、まず制度の利用状況と離職率の関係を集計した。図2のパネル(A)では、調査期間全体を通して、テレワークを利用した場合の離職率が利用しなかった場合より低いことが確認された。一方で、育児休業制度を利用した場合の離職率も利用しなかった場合より低いものの、その差はわずかであることが示された。

ただし、育児休業制度は原則として子どもが1歳になるまで、延長で最長2歳まで利用可能であるため、その利用が離職率に及ぼす影響は出産後の時期によって異なると考えられる。図2のパネル(B)では、出産直後、1年後、2年後の利用状況別離職率を比較した。出産直後では、育児休業制度を利用しなかった場合の離職率は20.4%と非常に高く、利用した場合の8.3%を大きく上回っている。この差は時間の経過とともに縮小していくことから、育児休業制度の離職抑制効果は出産直後が最も大きいことがわかる。もっとも、育児休業制度の利用は、就業継続を前提とするため、出産直後の利用が就業を継続することの意思の表れとも考えられる。一方で、利用期間が長くなるにつれてその効果は低下する傾向も示唆される。

図2:諸制度の利用と離職率の関係図2:諸制度の利用と離職率の関係

出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)2016~2023」

就業継続に影響を与える要因を制御しても、テレワーク利用は離職確率を下げる

離職率に影響を与える要因は、制度の利用だけではなく、勤続年数や企業規模、親との同居や夫の収入など、仕事や家庭の状況が影響する。また、制度利用はこれらの状況を基に女性自身が選択する場合もあるため、上記でみた制度利用と離職率の関係は見せかけの可能性がある。そこで、勤続年数、親との同居、夫の収入など、その他の要因の影響を取り除き、それぞれの制度利用が離職確率に与える効果を明らかにするため、計量モデルを用いて育児期における離職確率への諸制度利用の影響を推定した。その結果を図3に示す。

図3では、テレワークを単独で利用した場合と、勤務時間を選べる勤務制度と併用した場合の離職確率の低下幅が示されている。テレワークのみを利用した場合、離職確率は11.0%ポイント低下し、テレワークの利用は離職を抑制する効果があることが確認された。また、勤務時間を選べる勤務制度と併用することで、離職確率は15.9%ポイント低下し、併用によって効果が高まる可能性が示唆された。

一方、出産直後に育児休業制度を取得した場合、離職確率は2.7%ポイント低下するものの、出産後1年目には0.3%ポイント、出産後2年目には3.6%ポイントと逆に上昇し、利用期間が長くなるほど離職確率がむしろ上昇する傾向がみられた。

これらの結果から、テレワークの利用が育児休業制度取得よりも離職抑制効果が高いことが明らかになった。

図3:テレワークや育児休業制度の利用による離職確率の変化図3:テレワークや育児休業制度の利用による離職確率の変化

出所:リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査(JPSED)2016~2023」

テレワークのような柔軟な働き方は女性の就業を促進する

2025年に施行予定の改正育児・介護休業法では、3歳未満の子どもを育てる労働者がテレワークを選択できるよう、企業に努力義務が課されることになっている。本稿の分析では、テレワークが出産後の女性の離職を減らす効果があることが確認された。この結果は、改正法の意義を裏付けるものと言える。

また、分析結果から、育児休業制度の離職抑制効果が出産後の時間経過とともに減少することが明らかになった。育児休業が長引くほど、就業中断によるスキルの低下や陳腐化が進み、復職が難しくなり、結果として離職の確率が高まることが考えられる。本稿では、育児休業制度の効果がみられるのは出産直後であり、長期間の取得はむしろ離職確率を上昇させる可能性が示された。このことから、女性の就業を促進するためには、育児休業の期間を延ばすよりも、テレワークのような柔軟な働き方を提供するほうが効果的だと言える。

来年の育児・介護休業法改正では、3歳未満の子どもを育てる労働者がテレワークを選択できるよう、企業に努力義務が課されます。テレワークが出産・育児期の女性の就業与える影響について、JPSEDの8年のデータを用いて検証しました。


※1 JPSEDの調査票では具体的にどのような制度が記載されているか明確ではないが、裁量労働制、シフト制、フレックスタイムなどの勤務制度が該当すると考えられる。

郭秋薇(客員研究員)
・本コラムの内容や意見は、全て執筆者の個人的見解であり、
所属する組織およびリクルートワークス研究所の見解を示すものではありません。