第4回 スモールステップ:輝く若手、共通の特徴

2020年03月25日

情報があふれる時代、若手社会人は自分なりのキャリアを作ろうとしている。決まった正解がない中でキャリアを模索することは難しく、時として、まわりの同年代と自分を比べて焦りや不安を感じることも多い。そんな中で、自律的に、熱中できる仕事に取り組み、わくわくするようなキャリアをつくる若手社会人に共通の特徴が見えてきた。
その特徴を今回は検証する。

行動が重要。それはどんな行動か

若手がわくわくするキャリアを描くために、“行動”の量が大きな役割を果たしていることはこのレポートの中で触れてきた(第2回 若手を「行動ー情報モデル」で可視化する)。
それでは、どのような行動が重要となっているのだろうか。その点について分析した結果が以下の図表1である。図表1は、過去の行動類型と、現在のキャリア展望の関係を見ている。係数が大きく、有意水準が1%水準(***マーク)の類型が重要であることになる。

図表1:過去の行動(※1)と現在のキャリアの展望(※2)
図表1.jpg注 有意水準は***:1%水準、**:5%水準、*:10%水準

この結果からは主として以下のことがわかる。
◎過去の行動(机上学習スコアを除く)は、現在のキャリア展望に対して、有意に正の影響を持つ
◎越境・相談スコアの係数が最も大きく、有意水準も高い
◎なお、図表1では記載していないが、性別、現年収、現居住地について有意な関係は見られなかった

行動の中でも、特にその後のキャリア形成に繋がっていくのは、『業務上の接点のない人々との交流』『これまで参加したことのなかったコミュニティへの参加』といった越境行動であった。
社内の狭い世界で完結することなく、他の世界へ一歩踏み入れることで多くの刺激がある。その刺激が、その後のキャリア形成を豊かにしていくのであろう(※3)。

しかし「越境」は容易ではない

「わくわくするようなキャリアのために、みんな越境しよう」と言ったときに、ひとつ大きな問題がある。
それは、越境は容易なことではない、ということだ。
副業・兼業をしている若手、プロボノ活動をしている若手はごく少数であり(※4)、『新たなコミュニティへの参加』といった越境的な活動をすることについて「本業が忙しくて時間がない」「暇だと思われて上司に新しい仕事をふられる」といったネガティブな感覚を持つ若手は多い。「越境しよう」というメッセージを発することは簡単であるが、実際にそのハードルはとても高い。
近年、全国各地で越境・社外活動を始めたい若手のためのネットワーキングイベントが開催されている。多くの若手が社外活動に関心を持ち、大盛況となっていることもある。しかし、私たちが新しい働き方を根付かせるために考える必要があるのは、「ここに来ることができない若手の方が圧倒的に多い」ということである。
そこで、こう考えてはどうだろうか。「現在越境できている若手は、過去にどんなことをしていたのか」。越境の前段階にある事象を見つけることで、価値のある行動のハードルを下げることができるだろう。

その後を大きく変えるもの

ここで注目すべきが、「小さな行動」であった(第3回 成長した若手の理由)。
今回の調査からは、現在の越境に至るための、過去における助走のような「小さな行動」の重要性が確認されている。
現在の越境やキャリア観について、ある種の“小さな行動”との関係を分析した結果が図表2である。

図表2:過去の小さな行動が、現在の越境やキャリア観に与える影響(※5)
図表2.jpg注 構造方程式モデリングによる分析結果を簡易化したもの。数値は標準化回帰係数。1%水準で有意な結果を表記。

分析結果を示した図表2からは、重要ないくつかの事実が浮かび上がってくる。
過去の小さな行動が現在の越境を促す効果がある
◎過去の越境ではなく、小さな行動がキャリア観(キャリア自律性向(※6)、ポジティブマインド)に大きな影響を与えている
過去の小さな行動はキャリア観の変化を通じ、現在の越境を強く促進している
◎過去の越境は、小さな行動の影響を考慮すると、現在のキャリア観に影響を与えていない

こうした結果からは、小さな行動が、その後の越境という大きな行動やキャリア観に対してポジティブな効果を持っていることが示されている。
言い換えれば、若手社会人にとっては、「越境しているかどうか」が重要なのではなく、「小さな行動ができているか」が大本の分かれ道となっている可能性があるということだ。

スモールステップ:輝く若手、共通の特徴

さらに考えを進めてみよう。確かに、会社を横断した活動をしたり、様々なコミュニティで行動したりといった「越境すること」は、他者から見える行動であり、耳目を引きやすく、知人が実施したことを見聞きして、自分もやってみたいと思う若手も多いだろう。
その行動の内容は、SNSのプロフィールに書けるし、職務経歴書にも書けるかもしれない。また、昨今では「越境などをしたことによって、自分のキャリアが広がった」という話もたくさん聞くことができる。
しかし、今回の結果が示唆しているのは、そうした耳目を引くような行動だけにキャリアを変える力があるのではなく、その前の目立たない助走のような小さな行動に、実は大きな効果があったという事実である。

行動をするかどうかは、ここまで見てきたようにもちろん重要であるが、分析の結果を踏まえて、より正確に言い換えよう。

「小さく段階を刻むような行動ができるかできないか」が鍵である。

この小さな段階を刻むような行動を、『スモールステップ』と呼びたい。

調査におけるスモールステップの類型

では、スモールステップとはどのようなことを指すのだろうか。
より実践的な内容は第5回で整理していくが、ここでは今回の調査項目から簡単にまとめてみよう。今回の調査項目からは、例えば、「やりたいことはみんなに話してみる」「初対面の人とも積極的に会う」「友達に誘われたイベント等に行く」「LINEなどで目的に合わせたグループを作る」などが浮かび上がっている。
こうしたスモールステップの種類については、それぞれ図表3のようにまとめることができるだろう。

図表3:調査において表れたスモールステップの例と説明
図表3.jpg

スモールステップの意義

このスモールステップの良い点はいくつもある。

図表4:スモールステップの利点
図表4.jpg

変化の激しい時代、情報にあふれて決まった正解のない時代に、「ローリスク&ローコストで、たくさんのことを実施できる」という、スモールステップの特性は大きな意味を持つ。つまりそれは、たくさんの情報、無数の正解の中から、「自分なりの正解を探すための手数を多くできる」というものである。

スモールステップとは、たくさんのことを小さく試しながら、自分が“ありのまま”でいながらにして“何者か“になれるような、社会の中に存在するそんな僅かな可能性を見つけ出し、自己の最大のエネルギーを発揮しながら自分だけの世界を築くためのアプローチとなり得る。

キャリアの転機には大きな行動があり、大きな行動の前にはたくさんのスモールステップが存在していたという事実。
「スモールステップの量が多かった若手が、今わくわくするような素敵なキャリアを築いている」という結果は、これからの時代におけるキャリアづくりのセオリーの変化を表しているのだ。

さて、小さな行動=スモールステップに注目しながら、様々な若手社会人とコミュニケーションを続けていく中で、一定の類型と法則性が見えてきている。
コラム第5回では、実際の事例を交えながら、見えてきたスモールステップの“型”とその意味を紹介し、2020年からの若手のキャリアづくりについて、具体的な提案を行っていこう。

(※1)行動の各項目については、キャリア形成における行動に関する15の設問への回答を因子分析し、4因子を抽出したもの。
(※2)現在のキャリア展望因子得点(「今後のキャリアの見通しが開けている」「これからのキャリアや人生について、前向きに取り組んでいける」等設問の合成変数)を被説明変数とする重回帰分析の結果。制御変数として、初期3年の情報取得に関する合成変数、仕事に対するマインドセットに関する合成変数(ポジティブフレームスコア)、属性変数(現年収、現職規模、労働時間、年齢、性別、居住地)を導入したモデル。
(※3)越境についての個人・組織に対する効果については以下の書籍に詳しい。石山恒貴,『越境的学習のメカニズム 実践共同体を往還しキャリア構築するナレッジ・ブローカーの実像』,福村出版
(※4)コラム第2回 若手を「行動ー情報モデル」で可視化する図表1によれば、副業・兼業を行っている若手社会人は有償・無償ともに10%未満である。
(※5)構造方程式モデリングによる分析結果を模式的に表現したもの。性別、初職企業規模をダミー変数として制御している。現職就業形態を被雇用者に限定。図表中の数値は標準化回帰係数。
(※6)キャリア自律性向については価値優先スコア(「一番大切なことは、他の人の考えではなく、自分の考えるキャリアの成功である」「会社や組織の都合に反してでも、自分の中での優先順位を大切にしてキャリアを切り拓く」等の回答のスコア)