【若手社会人座談会・前編】今だから話せる、あの頃の「モヤモヤ」
転職、副業、起業――。ますます進むキャリアの「多様化」は、とどまるところを知らない。そんな時代に、若手社会人は何を感じ、どのように働いているのか。
2020年2月、リクルートワークス研究所は、大企業の若手有志社員の実践コミュニティ「ONE JAPAN」で出会ったメンバーが立ち上げた「ONE X」のメンバーとキャリア座談会を実施した。
参加したのは、「ONE X」に所属する20代、30代の若手社会人7名。今でこそ社内外で活動の幅を広げている彼らだが、入社間もない頃はそれぞれ悩みに直面していたという。当時の心境を率直に語ってもらった。
(聞き手:リクルートワークス研究所 古屋星斗)
入社するも、学生時代との「ギャップ」に直面
――今回の座談会では、若手社会人が抱えるキャリアの「悩み」と「転機」について議論していきます。まず、入社してからみなさんが「悩み」を意識したタイミングを教えてください。
田中さん:私の場合は、入社から配属が決まるまでの1年間です。あらゆる場面において、大学時代との「ギャップ」を感じ、モヤモヤしていました。美術大学に通っていたのですが、当時は自分のやることは自分で見つけて、自分で決めることができ、自由な4年間を過ごしていました。
田中大敦(たなか・ひろのぶ)さん/大手メーカー/入社6年目
しかし、入社後は「自分がやりたいこと」よりも、まずは与えられた目の前の業務を決められたやり方で忠実に取り組む必要があります。今思い返せば、仕事の仕方を学ぶ期間なので当たり前なんですが、当時は自分を取り巻く環境に対して窮屈さを感じていました。
小林さん:私も大学では芸術系を専攻していて、やりたいことに全力で打ち込める恵まれた環境にいました。しかし、会社に入って初めて「本人の希望だけで物事が進むわけではないんだ」と気が付きました。いわば、社会の「摂理」のようなものを知ったんです。
小林遼香(こばやし・はるか)さん/大手通信会社/入社2年目
きっかけは、部署の希望が通らなかったこと。もともと入社前からどうしても行きたい部署があったのですが、発表された配属は全く別の部署でした。この希望部署に配属されるかわからない「配属ガチャ(※1)」の経験から、会社と学校は違うんだ、と感じました。
「焦り」が募る。思うように結果が残せない日々。
――他のみなさんは、どんなタイミングで悩みを感じましたか。
濱本さん:私は、とにかく仕事で結果が出せずに悩んでいました。地元の大学を卒業後、入社してすぐにグループ会社に出向になり、営業部署に配属されました。もともと、強く営業を志望していたわけではなかったので、「本当に頑張れるのだろうか」と、内心はとても不安でした。
濱本隆太(はまもと・りゅうた)さん/総合電機メーカー/入社9年目
配属後は、毎日がむしゃらに目の前の仕事に取り組んでいましたが、思うように結果が出ません。結局、入社して1年は営業成績も同僚と比べて低く、モチベーションは下がるばかり。苦しい時間を過ごしました。
太谷さん:私も同じように、自分の結果に満足ができずに悩んでいました。東京の大学を出て今の会社に新卒入社し、1年目で新潟の営業部署に配属されました。
太谷成秀(おおたに・なるひで)さん/NTT東日本/入社6年目
新天地で頑張ろうと意気込んでいたのですが、いざ取り組んでみると営業成績があまり出ない。周りには結果を出している優秀な同期が何人もいて、かなりプレッシャーに感じました。
そんな中でも、全力で仕事に取り組んでいましたが、未来に対する「焦り」は募るばかり。これから自分はやっていけるのだろうか、と不安な日々が続きました。
「本当にこれで良かったのか?」苦しい時期を乗り越えて
――確かに結果が出ないと、モチベーションは下がってしまいますよね。
豊永さん:私も、1年目の頃、仕事がうまくいかないときは「本当にこの会社に入って正解だったのかな」と、一瞬立ち止まってしまうことがありました。
豊永穂奈美(とよなが・ほなみ)さん/中外製薬(ロシュグループ)/入社4年目
内定を頂いた複数社の中から今の会社に入社を決めた際に、親や友人など周りの人から「他の会社の方があなたに合っているんじゃない?」と言われたりして、悔しい思いをしました。
だからこそ、「決めた道を正解にしよう」と毎日奮闘していたのですが、思うように仕事を任せてもらえないときには、その頃のことが頭をよぎることもあって……。ちょっと不安になる日もありましたね。
青木さん:確かに、仕事が行き詰まると立ち止まる瞬間が増えますよね。そういうとき、私はノートに心の内を書き出して「内省」をしていました。
青木優(あおき・ゆう)さん/リクルートキャリア/入社2年目
実は、私はいわゆる「就活」をしていません。学生時代に起業をしていて、卒業後も取締役としてそのスタートアップで働いていました。
事業は成り立っていたのですが、利益を満足に出せず苦しい時期がありました。経営のために様々な企業から協賛金を頂いていたのですが、そのうちに「本当に自分たちのサービスに提供価値があるのか?」と考える瞬間が増えていったんです。
結果的に、社会人として経験をもっと積もう、と今の会社に就職しましたが、それまではキャリアについて悩む日も多くありました。
「あのときこうしていれば……」やるせない思いをしたことも
――周囲の人の意見や、業務上で感じる気持ちも「悩み」を生み出すきっかけになるのですね。
土井さん:私の場合は、就職後も希望通りの働き方ができていたので、モチベーションは高く、会社大好き人間だと思っています。ただ、「あの時もっとこうしていれば……」と思うことはあります。
土井雄介(どい・ゆうすけ)さん/トヨタ自動車より現在アルファドライブに出向中/入社5年目
たとえば、同期や周りの同僚たちが困っているときにちゃんと助けられていたか、などです。
大学時代から、ネットワーキングイベントなどを開催し、人を巻き込む活動をしてきました。入社後も、会社を盛り上げるための社内イベントやビジネスコンテストを積極的に企画していました。だからこそ、他者への「気配り」に人一倍熱い想いがあり、もっと自分にできることがあったのでは、といつも考えてしまうんです。
小林さん:私も「もっと人のためにできることがあったかも」と思うことがあります。入社後、私は希望部署に行けず、モヤモヤしていました。しかし、同じように悩んでいる同期も、周りに少なからずいたんです。
中には、そうした環境とのギャップから会社を去っていく同期もいたりして……。本当に胸が痛んだのを覚えています。後に、人事部に新たな人事制度を提案したりしましたが、もっと早く動いていれば違う未来があったのかも、と思います。
「没頭して頑張る」と、視野が狭くなる?
――「モヤモヤする」は、誰しもが通る道なんですね。
青木さん:そうですね。しかも、そうやって悩みながら仕事に向かっていると、どんどん視野が狭くなってしまうんですよね。
私は将来への不安や心配事を、時々人に相談するのですが、その際に当時一緒にスタートアップで働いていたメンバーの言葉にハッとさせられました。
「君は自分の意見ばかり言うけど、私の気持ちを考えたことはある?」と、ストレートに言われて。そのときに、ああ、没頭して仕事に打ち込むあまり「他者目線」が欠けていたな、と反省しました。
――没頭するうちに、視野が狭くなってしまうことはありますよね。
濱本さん:そうなんです。私も一生懸命仕事に取り組むうちに、「自分自身」に世界が閉じて、視野が狭くなっていたな、と思ったことがあります。
入社当時、私は配属された営業の部署でとにかくがむしゃらに頑張っていたのですが、結果が出ませんでした。でも、あるときからプライベートや社外活動などとうまくバランスを取って取り組むようにしたんです。すると、本業でもパフォーマンスが上がるようになりました。
その経験から「そういえば、自分は昔から『二足のわらじを履く』とうまくいくタイプだったな」と、思い出しました。生来の性格を忘れてしまうほど、当時は余裕がなくて、自分自身に「バイアス」がかかっていたのだと思います。
――面白いですね。不安や焦りから結果的に視野が狭くなり、悪循環に入ってしまう、という可能性もあるかもしれません。
聞き手/古屋星斗/リクルートワークス研究所
不安と焦り。「モヤモヤ」からどう抜け出すか?
入社前に思い描いていたような結果が残せない毎日。うまくいっている同期の姿や周囲の意見がプレッシャーとなり、結果視野が狭くなってしまう。特に、SNSで容易に他者の成功が目に入る時代だからこそ、かかる力はなおさらだろう。
しかし、そんな彼らもふとした出会いやちょっとした行動によって「不安」や「焦り」を乗り越えてきたと語る。一体、彼らはどんな「きっかけ」から、自らのキャリアを切り拓いていったのだろうか。
後編では、若手社会人たちの「転機」にフォーカスし、キャリアが変化する「瞬間」をお届けする。
(執筆:高橋智香)
(撮影:平山 諭)
(※1)玩具のガチャガチャのように、大手企業の配属先が予見できないランダム性があることを表現した言葉。類語として、「上司ガチャ」など。