大手企業マネジャーの75%が「若手が十分に育っていない」と悩んでいる

2023年04月26日

リクルートワークス研究所が実施してきた「ゆるい職場と若手」研究。2010年代後半以降、急速に変化した日本の職場において、若手をどう育成していくべきか。その方向性を探るべく、大手企業で20代社員のマネジメントを直接行っている課長級管理職を対象とする調査を実施した。本レポートは、現代日本に現れた新しい「若手と職場の関係性」について、ここまでの研究で進めてきた当事者の目線での検証とは異なる視点から見つめ直していく。
本稿でも触れるが、今若手育成は構造的に困難な状況にある。それは端的に言えば「自分たちが育ったやり方と全く違う方法論で若手を育てなくてはならない」という難しさである。筆者は若手育成におけるもう一方の忘れてはならない“当事者”としてマネジャーに注目する。

調査の概況

調査については、管理職の若手育成に関する定量調査として、1000人以上の従業員規模の課長級管理職(正規の社員・従業員である者)、29歳以下・正規社員の部下を1名以上持つ者を対象として実施した(※1)。実施時期は2023年3月17日~20日、無効な回答を除外しサンプルサイズは1083であった。

調査対象の属性を整理する(図表1)。回答者は年齢では50代が最も多く54.6%、次いで40代が35.8%であった。性別では男性がほとんどで95.3%である。筆者も男性が多すぎると感じたが、近年の類似調査でも大企業の女性管理職割合は同様の値としている調査が多くあり(例えば、2022年の帝国データバンクの調査では大企業の女性管理職割合は6.8%であった)、現在の大手日本企業の回答割合として妥当な数字と判断できる(※2)。業種、従業員規模については図表1を参照いただきたい。

図表1 調査対象者(大手企業で29歳以下の社員を部下に持つ課長級管理職)の属性
図表1 調査対象者(大手企業で29歳以下の社員を部下に持つ課長級管理職)の属性

また、部下のマネジメントをする「課長」の経験年数についても掲載しておく(図表2)。最も多いのは10年~15年未満で20.3%、続いて7年~10年未満が17.0%、3年~5年未満が16.8%であった。ベテラン管理職から比較的年数が浅い管理職まで回答を得ている。

図表2 部下の人事評価を行う「課長」を務めている年数(※3)(のべ年数)部下の人事評価を行う「課長」を務めている年数

「褒める」スタイルの確立

さて、調査対象者の若手マネジメントの状況を描写するために、さらにいくつか結果を紹介する。現在何名の若手をマネジメントしているかという質問に対しては、「2-3名程度」が34.9%と最も多く、次いで「1名程度」が24.5%であった(図表3)。マネジメント対象となる若手は3名以下、という管理職が合わせて6割近くであった。
また、マネジメント対象の部下の何%くらいが若手かという質問に対する結果は図表4に示している。「25%未満」が36.2%と最も多く、次いで「25%」が29.3%であった。
これらの結果から調査対象の管理職の平均像としては、数名程度の若手がいる、10名前後のチームを率いる立場にあると考えられる(※4)。

図表3 「現在、何名くらいの若手(29歳以下)の人事評価を行っていますか」質問への回答
「現在、何名くらいの若手(29歳以下)の人事評価を行っていますか」質問への回答
図表4 「現在、あなたが人事評価を行っている部下のうち何%くらいが若手(29歳以下)ですか」質問への回答
「現在、あなたが人事評価を行っている部下のうち何%くらいが若手(29歳以下)ですか」質問への回答

それでは、若手とのコミュニケーションスタイルなどを見ていこう。調査では様々な項目に回答を得ているが、図表5にその一部を整理した。「職場の部下を褒めたり、たたえたりする機会」については、11.7%が「毎日のように」、29.9%が「週に数日程度」、25.0%が「週に1日程度」あったと回答している。また、「職場の部下にフィードバックや指導をする機会」では、頻度はそれぞれ、9.6%、20.6%、17.5%であった。褒めたり、たたえたりするよりもフィードバックの頻度は相対的に少ない。

他方で、「職場で部下を叱責する機会」については同様に頻度の高いほうから、2.0%、5.4%、10.8%となっており、週に1回以上あった回答者は合わせても2割未満にすぎない。コミュニケーションスタイルは完全に、“叱責型”から“褒める型”に移行していることが調査結果からも示されている。

図表5 若手とのコミュニケーションスタイルとその頻度(※5)(%)
図表5 若手とのコミュニケーションスタイルとその頻度(※5)(%)

働きかけの変化-56.7%の管理職は若手とほとんど“飲み”に行っていない

若手への具体的な働きかけについても調査で聞いている(図表6)。
筆者が率直に驚いたのは、「終業後などに、若手と飲食店・居酒屋等に行く」という項目に対して、「全く行わなかった」が29.0%に達し、「あまり行わなかった(1年で1・2回)」27.7%と合わせて、実に56.7%が若手との飲み会を年に1・2回以下しか実施していなかったことである。調査実施時期は2023年3月であり、コロナショックが冷めやらぬ時期であった(※6)ために仕方のないことかもしれないが、新型コロナウイルス感染症の影響の大小に関わらず、若手との関係性が大きく変わりつつあることを改めて実感する方が多いのではないか。また、「自分の成功体験を部下に話す」も頻度が多くないのは、飲み会の頻度が少ないことと関係があるだろうか。

頻度が多い回答が多かったのは、「部下にわからないこと、不明確なことがあるかどうか確認する」や「部下のやりたいこと・やってみたいことを聞く」などであった。若手の部下に“気遣い”をするような働きかけの頻度が高いことがわかる。
他方で、「部下に自身の知り合いを紹介する」や「イベントや社内外の勉強会等に、部下を誘う・紹介する」は頻度が最も低く、若手にキャリア上のセレンディピティを提供するような働きかけがほとんどされていないこともわかる。以上のような“働きかけの効果”は今後検証していく。

図表6 若手への具体的な働きかけの頻度(%)
若手への具体的な働きかけの頻度

なお、若手の“呼び方”については図表7のとおりであった。「さん」づけが79.3%に上っており、次いで「ちゃん」「くん」づけが25.2%であった。呼称がハラスメントの土壌にもなりうると認識されていること、また上司にも役職呼びでなく「さん」呼びを呼び掛ける企業もあるなどの背景から、「さん」づけが圧倒的な多数派となっている。
ちなみに、こちらは当事者側(大手企業の若手社員)にも、同様の調査をしており、その調査では「さん」づけが77.4%であった。他項目含め、ほとんど同じ結果となっており(※7)、呼称に関する実態がよくわかるだろう。

図表7 部下の若手の呼び方(複数回答)
図表7 部下の若手の呼び方(複数回答)

職場観についてはどうだろうか。「現在の職場をゆるいと感じる」かどうかについては、「あてはまる」8.3%、「どちらかと言えばあてはまる」31.9%で合計40.2%が“ゆるい”と感じると回答している。これは当事者側への調査における36.4%と比較してほぼ同水準かやや高い割合であった(※8)(図表8)。
“ゆるい職場”には複層的な意味があると考えられるが、今次の調査ではより掘り下げた質問をした。例えば、「現在の職場は自分が若手の頃とくらべると、ゆるくなったと感じる」か、管理職自身の過去を想起させたうえで聞くと、「あてはまる」は21.9%、「どちらかと言えばあてはまる」は41.0%で合計62.9%に及ぶ。現在の管理職が若手だった頃と比べれば、若手を取り巻く職場の状況には大きな変化があると多くの人が感じているのは偽らざる実感と言えよう。

図表8 職場観(%)
職場観

若手の離職、悩み、課題感

最後に、管理職としての若手育成・マネジメントに関する悩みや課題感についていくつか取り上げる。図表9に、管理職に、これまで直面した若手の離職やその人数をたずねた結果を示した。「少数だがある(2~4名)」が36.4%と最も多く、「ない」32.8%がこれに続く。なかには、「多数ある(10名以上)」という回答者も7.2%存在していた。集計すると、実に全体の3人に2人以上、67.3%の管理職が若手部下の離職に直面した経験があった。もちろん管理職としての経験年数に左右されているが、若手離職との関係についても別途検証していく。

図表9「これまで自身の部下である若手の離職に直面したことがありますか」質問への回答
「これまで自身の部下である若手の離職に直面したことがありますか」質問への回答

また、若手のマネジメントに関する日々の課題感について複数回答で聞いた(図表10)。最も多かったのは「自分の頃と同じように育てられない」(34.4%)、次いで「若手育成と労働環境改善の両立が難しい」(31.4%)、「若手の成長にとって十分な業務経験や機会が提供されていない」(29.1%)であった。若手を取り巻く職場環境が変わるなか、自分の頃の成功体験が通用せず、かつ労働環境改善は大前提となったなかで、自身は果たして十分な成長機会を提供できるのか、という日々の課題感が浮かびあがる。

図表10 若手社員の育成・マネジメントについて感じている点(複数回答)
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こうした日々の課題感は若手育成上の直接的な悩みとなって浮上している(図表11)。「若手が十分に育っていないと感じる」管理職は、「いつも感じた(毎日のように)」12.7%、「しばしば感じた(週に1・2回程度)」24.9%、「たまに感じた(月に1・2回程度)」38.3%であり、感じた合計では75.9%に達した。さらに切迫した悩みとして「このままでは職場の若手が離職してしまうと感じる」についても、感じた合計では65.0%とほぼ3人に2人が悩んでいる状況にあることがわかる。

今回は調査概要を解説したが、今後本レポートでは、早期離職率の上昇など大手企業をはじめ企業の若手育成が極めて難しい状況に直面していることを背景に各種の検証を行っていく。
・管理職自身のワーク・エンゲージメントと若手育成状況に強い関係性が見られる点
・育成成功実感が高い管理職の特徴
・部下の若手の離職状況の検証
・「キャリア安全性」を高めるマネジメント・コミュニケーションのあり方
こうした点を検証し、現代の職場「ゆるい職場」におけるマネジャーの若手への介在のあり方を検討していく。

図表11 若手育成上の悩み(%)
若手育成上の悩み
古屋星斗

(※1)つまり、「担当課長」など、部下のいない課長級管理職は除外されている。また、課長級を評価対象に持つ管理職(一般に「部長」など)は今回の調査対象ではない。
(※2)なお、厳密には帝国データバンク「女性登用に対する企業の意識調査(2022年)」(有効回答企業数1万1503社)では、「大企業」の数値でありこれは従業員数300人を超える等の要件となっている。本調査では従業員数1000人以上のより大規模のいわば“大手企業”を対象としており、企業規模が小さい企業のほうが女性管理職割合が高いことを考えれば帝国データバンク調査よりも女性管理職割合がわずかに低いことは、より実態に近いと解することができると考える。https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p220813.pdf
(※3)「あなたはおよそ何年、部下の人事評価を行う『課長」を務めていますか。途中で中断がある場合には、合計の年数を答えてください」と質問して得た回答である。
(※4)もし“2名若手で若手割合が25%のチーム”であればマネジメント対象は全員で8名と解される。ただ、もちろんこれは平均像にすぎず、今後の検証ではこのチーム構成の多様性にも焦点を当てて検証する。
(※5)「現在、以下のような機会はどの程度ありますか。(対面の会話だけでなく、電話やメール、アプリを使ったオンラインでのやりとりも含みます)」と質問した回答。当該質問も含めて、質問における「部下」については「29歳以下の若手社員を想定して」回答するよう指示文を表記している。
(※6) 調査時期の1年前の2022年3月は、2022年1月~3月にまたがる第六波の終期であった。また2022年には7月~9月には第七波が起こった。
(※7) 詳細はこちらに掲載されている。リクルートワークス研究所,2022,大手企業における若手育成状況調査報告書,P.15
https://www.works-i.com/research/works-report/item/youthemploymentsurvey.pdf
(※8) 当事者側結果は上記資料のP.19参照



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